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休日!


てん菜の収穫も砂糖作りも順調な今日この頃。


久しぶりに和丸と重政に暇が出来たという事で、三人で過ごすことになった。俺は普段ぐーたらしているか、吉郎と商いについて話すことしかしていなかった。

そのため、久しぶりに休日らしいことをした。


朝っぱらから重政に外へ連れて行かれると、俺と和丸は突然木刀を渡された。俺のは子供用だけど。



「よし、じゃあ朝は武芸の稽古をしましょう!」


ニコニコとしながら木刀を持っている重政は鬼にしか見えない。俺の木刀は短く軽いが、和丸が持っているのは普通の大きさの木刀。前に構えているだけだと言うのに重そうに握りしめている。


「孫犬丸様はまだ体ができていませんから、軽くで構いません。だが、和丸はちゃんとしごきます。日頃から体を作らないと駄目ですから」


笑顔で重政が言うと、和丸は顔を歪ませて今にも泣き出しそうな顔になる。それを笑って流すと、早速指導が始まる。


「まずは素振りから行きましょう!和丸はいつも通りで、孫犬丸様は構えから行きましょう。では、お好きに構えてみてください」


俺はそう言われて自然と体を構える形になった。腰を少し下げて足を広げる。木刀を上げて地面と平行に寝かせる。首を真横に向けて正面を見る。

その構えを見て重政は首を傾げる。


「孫犬丸様、その構え方は何なのですか?」

『主、それは前世の剣での構え方ですよ』


はっ、しまった。癖で前世の”ヨハネス流雄牛の構え”をしてしまった。こんな構え方はこの日本ではまず無いものだから不審がられた。


「あ、いや。これはたまたま書物で見た南蛮の構え方だよ!」

「・・・そうですか。にしては綺麗な構えですが。孫犬丸様、この日の本では真正面を向いて相手に刀の先を向けるのが基本であります。もちろん他にも流派はありますが。」

「あ、ああ知っているぞ。確か相手の喉を狙う感じだったか?」

「ええ、基本の構えはそうです」


俺は腹のあたりに手を構えて木刀を持つ。真正面を見るように背筋を伸ばして刀を向ける。


「そんな感じです。では今度は振ってみましょう。一、二とゆっくりと、その場でやってみましょう。足は・・・しっかりと前後に開いてつま先が前に向いていますね。では、やってみましょう」


俺は大きく息を吐いて、一という言葉に合わせてまずは振り上げる。予想した以上に思いっきりやったため、後ろへ体が持っていかれそうになる。そこを耐えて、二という合図で振り下ろす。

前世の感覚で空気を切り裂く事をイメージしたが、今度は振り下ろしすぎて前のめりになり転びそうになる。だが、地面に付きそうなったところで重政が体を持ち上げてくれた。


「あ、助かった」

「いえいえ、それほどではありません。しかし孫犬丸様は予想以上に武芸の才能があります。少し振りが大きすぎましたが動きはしっかりとしていて綺麗な太刀筋です。数年やればきっと敵無しですよ」


我が事の様に喜んでくれるのはありがたいが・・・目が笑っていないよ。


「よし、じゃあもう一度やってください。あ、和丸も手を止めないでね」


「はぁはぁ」と息を切らせながら膝に手を置いていた和丸を見逃さず、すぐに指摘する。その厳しさに「ひぇ〜〜」と言いながら渋々始める和丸の姿は何とも言えなかった。


その後も俺へも厳しい指導が始まり、四半刻もしたら汗がダラダラ流れていた。

それに気付いてすぐに土下座してきた重政を許して、冷水で汗を洗い流した。




その後少しの間食を挟んで午後の時間となる。


今度は和丸の提案で中将棋をやることになった。


中将棋は十二×十二の盤面で、九十二枚(片側四十六枚)で行う規模の大きい将棋。この時代には小将棋といったものもあるが、現在中将棋のほうが流行っているらしい。


俺は普通の将棋のルールは知っているが、そちらは全然駒数が少ない。中将棋の駒の動かし方を知らなかったので、今回は和丸と重政の対局を見ることにした。


と言っても途中から頭がこんがらがって、どこにどのように動いたか、どうしてそう動いたか、何を狙っているのか分からなかった。

対局が始まってしばらくしてやってきた皐月に説明してもらっていたが、中々難しい。


対局は白熱していき、終わった時には外は真っ暗になっていた。結局和丸が何とか勝利して、終わった瞬間二人はドカッと後ろへと倒れた。


最後まで内容が意味不明だったが、二人が楽しんでいたのならそれでいい。



長引いた対局の後は夕餉となる。

本日出たのは意外にも兎肉の鍋。料理と言っていいのかレベルで只々鍋に肉と野菜が入れられただけ。でも、兎の臭みがよく出汁と混ざり合って美味しかった。


若狭では海産物ばかり食べているから肉を食うというのは新鮮なことだった。ご飯はもちろん難波江産の米が使われていた。

デザートにカステラとてんさい糖を食べ終わった後、食事を下げてもらった。


寝る前にした遊びがトランプ。暇だった俺が紙と木の板を使って生み出したもので、漢字で書くと 特朗普 と書く。


俺がルールを教えるとたちまち屋敷内で流行った。これも今後商品化するつもりだ。


さて、その中でも俺ら四人(俺、和丸、重政、皐月)の中で一番やっているのが大富豪。ここまで九十九戦してきて、俺の三十勝、和丸の二十六勝、重政の二十三勝、皐月の二十二勝となっている。


そして本日は遂に百戦目。皆の目がギラギラと光りながら手元の札を凝視する。順番は前回勝った順であり、和丸からとなった。


まずは小さい数から出していく。ここでは五スキ、八ギリ、十一バック、革命。それらがありの対決。

俺の手札は二が三枚、一も二枚。十三が三枚で七以下の数を持っていないという好スタート。


和丸がじっくりと思案しながら八を出して自分の番にし、いらない三を二枚出す。そして各々が六、九を二枚ずつ出すと、俺は一を二枚出して自分の番にする。


俺はじっくりと考えて次に十三を二枚出す。が、誰も出せなく俺の手札は五枚。一番弱い七を出して次の順になるのを待っていた。


そんな中、順番が回ってきた俺が二を出した瞬間隣に座っていた皐月がジョーカーを出して、仕掛けてきた。


「ここで道化師ですか」

「ええ、そして私の番。ふふふ、これで勝ちよ!」


一番まだ枚数の残っている皐月がニヤリと笑って勝利宣言する。俺が二を二枚持っているし八や五も結構出ている。どうやってと思った瞬間、皐月は十二を四枚出してきた。


「「「革命!!!」」」

「そうよ、革命よ!この戦いが始まって以来、初めての革命よ!!!」


勝ち誇ったかのように胸を逸らす皐月。百戦目にしてまさかの展開になる。

俺の持ち札は全て七以上・・・終わった。


その後は三と四を大量に持っていた皐月の独壇場で、俺らに順番が来ることなく上がられた。百戦目の勝者は皐月と決まった。


その後はもともと強い札を持っていた人たちによる泥試合で俺が最下位になった。

もう一戦やるかどうかの話になったが、和丸と重政は明日朝早いということでその場でお開きとなった。




久しぶりに和丸と重政と過ごして良い休日になった。

そう思って寝床へ入ろうとした時、少し息を切らせながら重政が部屋に入ってきた。


「夜分遅くに、ご無礼します」

「いや、急用なのだろう?」

「はい、つい楽しんでいて忘れてしまいましたが、聞かなければいけないことがあったのを思い出しまして」

「何だ?」

「孫犬丸様は御館様からの書状をお読みになりましたか?」

「父上からの?・・・・・・ああ、確かに届いていたな。ただてん菜の収穫とかがあって読めていない」

「そうですよね。実はたまたま落ちているのを見つけまして、それがこちらです」


懐から重政が細長い紙を取り出す。そこには俺宛としっかり書かれており、差出人はまさしく父だった。

俺は恐る恐る開封して読んでみる。ただ読み進めていくうちに顔から血の気が引いていくのが分かる。俺は読み終わった時、顔を覗き込む重政に言う。


「明日、明朝にすぐ出発する!」

「?どちらに?」

「一宮だ!」

「と、言いますと若狭彦神社へ?」

「ああ、そうだ。遠敷祭りを忘れていたよ」



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