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始まりは転生



「良いのじゃな」


俺は国王の前に跪きながら答える。


「はい。向こうには大事な家族がいます。母や父に恩返しができていません」

「しかし、お主がこれまで守ってきたイルイス領の民も悲しんでおるぞ」


俺はこれまでお世話になってきたあの地の人々の顔を思い出す。


みんな優しくしてくれた、助けてくれた。だからこそ、その下を去らなければいけないのは心苦しかった。


「弟、ライオスに全て引き継がせました。これまで俺の隣で見てきたので、きっと良き領主になります」


領民にも人気のあるあの優秀な弟だ。馬鹿兄共とは違う。善政をひいてくれるだろう。


「・・・悲しくなるのぉ。お主がワシにあの秘密を話して早十年。傾きかけていたこのドルナレス王国もそなたたち若い衆のお陰で勢いを取り戻しておる。それを率いてくれたお主に国王として、そして一人のこの国の住民として礼を言う。ありがとう」


玉座から立ち上がった、白い髭を蓄えた老王が頭を下げる。


それに続くように周りの側近たちも頭を下げる。


俺は気恥ずかしさで頬を書く。


「ナポル様。俺への感謝は不要です。生きるためにやったまで、ただ前世(・・)の知識がたまたま役に立っただけです」


ほんの小さなことだった。

たまたま強い力を得ただけだった。


そして仲間に恵まれた。


俺自身は凡人に過ぎない。


俺は立ち上がった。もう、行かなければならない。


「本当の本当に行かれるのか?」

「ええ、行きますよ」


俺は腰の剣に触れて尋ねる。


「こいつも持っていって構わないでしょうか?」

「あ、ああ。大丈夫だ。最後に一つ、お主の前世の名を教えてくれぬか?」

「ん?本名ですか。タケダモトアキって言います」

「タケダモトアキだな。しっかりと覚えた」


俺はその場を後にして、この王城の奥へと向かっていく。



俺が向かった先は本来誰も立ち入らない古びた祭壇のある部屋。


だが、ここに俺の帰り道がある。


俺は祭壇へと寄る。


「この世界も最後になるのか・・・何だか急に怖気づいてしまったな」


だが、俺はやらなくてはならない。前世に戻るため。




俺の今の名前はロイド。ロイド・シルエス。


シルエス家三男としてこの世界で生を受けた。


ただ、俺には秘密があった。

それこそが、前世を持つということ。


地球という世界で”タケダモトアキ”というごくありふれた名前で暮らしていた一般人。


異世界や歴史が好きだった俺は、ある日突然トラックに跳ねられるというテンプレであっさりと死んだ。


どうやら手違いだったようで、転生を司る女神と名乗る異世界の神にこの世界へ転生させてもらった。


両親との対立、兄弟との争い、学園での事件、魔王軍の侵攻、仲間の死。


多くの事をこの世界で経験した。


だからこそ今は思っている。平和な前世に戻りたいと。


普通のオタクで、たまたま強くなってしまった俺にはこの世界は合わない。


もう、帰りたい。


「転生を司る女神よ、我が願いを聞き給え、願わくばこの魂を、転生させたまえ」


俺はそう唱えながら自分の手に向かって聖剣を突き刺す。


「うっ」


痛みで思わず顔を顰める。突き刺したところからは大量の血が溢れ出す。


が、俺は歯を食いしばって痛みを堪え、祭壇の方へと手を近づける。


祭壇の上に書かれた魔法陣に血が滴り落ちるとともに、体の力が抜けていく感覚に陥る。


ああ、死ぬ。


そう思いながら意識は消えていった。







「まさか貴方が本当に来るなんて」


少しずつ意識が戻り目を覚ますと、目の前には呆れ顔の美しい女性が立っていた。


「成功、したのか」

「ええ、そうよ。貴方は見事私のお願いを聞いてくれて、ここにまた戻ってきたのよ」


お願いとは、俺が転生する時に女神様がチート能力を与える代わりに要求してきた、世界の厄災を倒してくれというものだ。

最初は何のことか分からなかったが、後々その厄災が魔王であると分かった。


「で、本当に帰りたいのね」

「ああ、そうだ」


たまたま数年前、女神様とコンタクトを取れた俺は元の世界へ戻りたいと打診した。


「私が課した三つの課題。全てやり終えたのね」

「はい、つい先日終わりましたよ」


魔王軍残党の殲滅、異世界人召喚術禁止法の制定、全世界の平和連合設立。


何とか仲間たちとともに、部下たちとともに成し遂げた。


「本当は貴方みたいな人をこの世界から失いたくはないわ。でも、約束は約束よ」

「ありがとうございます」

「礼には及ばないわ。神々の手違いで死んで、私の我儘に付き合ってもらったじゃない」


俺に向けてニッコリと笑いかけてくる。


「あ、そうだ。一つだけお願いよろしいでしょうか」

「いいよ、できる範囲で叶えてあげるわ」

「こいつ連れて行ってもいいでしょうか」


俺は自分の腰に携える剣を撫でる。


「その剣・・・ではなくそれに宿る方をだよね」

「ええ、そうです」


こいつと俺が初めて出会ったのは転生して間もない頃。


こいつは屋敷の地下に眠っていた、物に宿ることのできる呪いである。

強大な力を引き出せる代わりに、その武器は三回使っただけで壊れるという代償がある。


小さな時から一緒に苦楽を共にしたものだ。手放したくはない。


「貴方はそれでいいのね?」

『もちろん。我が主に付いていく』


低いどすのきいた声で話す。


「あっちでは剣とか無いから、とりあえずは俺に宿ってくれ。できるだろ」

『ああ、分かった』


そう返答されるとともに、突然腰の剣がボロボロと崩れていき体に僅かばかりの重みがのしかかる。


「お願いします」

「じゃあ、やるわね。え〜っと、タケダモトアキだっけ?」

「ええ、そうです。生まれはフクイ県オバマ市でお願いします。同姓同名が全国にいるかもしれませんし」

「そうよね」


そう言って女神様が呪文を唱えだす。


「――――この者を、チキュウのニホン、フクイ、オバマ生まれのタケダモトアキに転生させよ!!!」


ああ、やっと争いのない平凡な世界に戻れる。



・・・・・・!!!



「あ、そうでした。西暦は2000年で――――」


もう一つの条件を言おうとしたが、その言葉は届くことは無かった。











意識を取り戻すと、体が温かいものに包まれるのを感じる。


転生したのか?また両親に会える!!!


俺は大きく目を開けた。だが、目に写った光景に違和感を覚えた。


鉄筋コンクリートで作られているはずの病院で生まれたはず。

だが見えるのは木でできた天井。


流石に赤ちゃんの視力は弱いからしっかりとは分からない・・・が、明らかに色が違う。


「若様誕生どすえ、お館様」


若様?親方様?


「おお、そうかそうか!!!めでたいなあ!!!」


俺を抱き上げる男の顔は明らかに知らない人。

着てる服も喋り方も明らかに前世の時代ではない事がわかる。


俺はすぐに気づいた。





転生先間違えていないかぁぁぁぁ!!!!!!



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― 新着の感想 ―
そもそも年代をミスる(別の時代に送られる)と言うのが想定外ですが、「だれそれとだれそれのこども」って指定なども、しておくべきでしたね。
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