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説得②


「お前はこれからこの国をどうしていきたい?」


その祖父からの問いかけに俺は迷うことなく答える。


「平和にしていきます」


それが心からの言葉であり、願っていること。争いのない世界がどれだけ大切なのかを経験している。だからこそこの乱世は嫌いだ。


「ほう、それだけか?」

「それだけとは?」

「五歳児のくせに、儂を説き伏せるという信じられないことをやるのに天下を望まんのか?」


・・・確かに五歳児が相手を小馬鹿にするような態度であえて煽って、交渉の席につかせるという行動は異常だ。つい前世と同じように普通にしてしまった。


でも、天下か。


正直興味はない。いや、憧れはするし前前世では夢見ていた時期もあった。

でも、自分にはそんな才覚がない。何より多くの人が犠牲になる。民も疲弊を強いられる。


前世は魔王から人類を守るという大義名分があった。だから戦い、多くの敵を倒してきた。


でも、天下を取ること自体に大した大義名分もない。天下を取ることは野望であり、目標なだけ。そんなことが果たして俺にできるのだろうか?


「お祖父様は天下を狙われていたんですか?」

「・・・まあ、若い頃じゃが。誰だって自分の才覚を過剰に評価して夢見るもんだ」


しみじみと祖父は答える。

天下を取れるのはたった一人だけ。それを狙い日々戦は起きている。


だから、平和は訪れない。

でも、いつまでも引き籠もっているだけではこの日の本に平和が訪れないのもまた事実。


だが俺には前世の記憶がある。

そして今から四年後、あの有名武将が天下に名を轟かすことになる。そしてそいつが天下を取る一歩手前まで行くことも知っている。


だからこそ、それまで俺は粘ればいいと思っている。そのために自分の知識を使いたい。


「お祖父様、俺は天下を取るような器ではございません」

「その歳でそれほど切れるというのに?」

「俺には残酷さが足りないのです」

「残酷さ???」


俺は過去の話を交えながら語る。


「将軍になり、初めて幕府を開かれた源頼朝公は兄弟たちの殆どを殺しました。そして現在の室町幕府を作られた足利尊氏公も弟や息子と敵対して、誅殺しました」

「・・・・・・」

「天下を取ったお二方には共通するところがあり、この残酷性もそうです。優しさというのは時には切り捨てなければならない」


織田信長もまさにそうであり、豊臣秀吉、徳川家康も親族を殺してまでも家を守ってきた。

それを果たして俺ができるのかと考えたとき、首を横に振らざるおえない。


前前世では平和な中で育ち、前世でも追放はしても家族を殺したことはない。剣を交えた敵しか殺ってこなかった。


「俺にはその残虐性が足りません。だから、天下を取るような器では無いのです」


二人の間に沈黙が流れる。


「・・・ただし、俺には武神様が憑いていますのでご安心を」


ここで取っておきの切り札を出すことにした。

俺の言葉に耳を疑うような顔を浮かべる祖父をよそ目に、控えていた短剣を擦る。


すると突如としてもくもくと煙が出る、と同時に甲冑を身に纏い手には長い槍を持った大男の姿が現れる。その姿はまさに武の塊であり、周囲を圧倒させるような威圧感がある。


「そ、それは!!!」

「こちらが俺に宿る武神様でございます」


素っ頓狂な顔で俺の後ろを見上げる祖父。まさか人生の中で "神”を見れるとは思わなかったのだろう。

先程までの威厳のある態度は嘘のように腰を抜かす。


まあ、武神様と言うのは嘘だ。これは刀に宿る白虎を具現化したもの。甲冑を来ていたりするのもそれらしく見えるため。


そう、この具現化作戦が俺の切り札。

魔法を少し使っているためずるいかもしれないが、使える物は何でも使うべきである!と、孫子が言っていたはず。


知らんけど。


「ほ、本当に貴方様は孫犬丸に・・・」


言葉の喋れない白虎はコクリと頷く。


「武神様が望まれるのは平和。戦のない世界を求められている。”武”というのは人を殺すためではなく自分を鍛え上げるために存在すると申されている」


もちろん嘘だ。


「だから、俺はこの若狭を平和にして血の一滴も流れないようにしたい。それが武神様の意向だから」


俺の言葉に何度も頷く祖父。


この時代、結構信じ深い人も多い。何より目の前にいて見ているのだ。そりゃ〜信じてしまうだろう。


「俺は天下を求めていません。ですが、誰よりも若狭の平和を信じています。ですから、この不毛な戦からどうか手を引いてください。それが、お祖父様のやることでは無いのでしょうか?それが、この国のためではないのでしょうか?」


俺はここが勝負どころだと思い、その場にひれ伏して大きな声で言う。


「お祖父様、どうか賢明なご決断を!」


部屋が再び沈黙に包まれる。俺は顔を上げることなくその場でひれ伏した状態になる。


「・・・面を上げてくれ、孫犬丸。孫に頭を下げられては情けなくて仕方なくなる」


俺は言われた通り顔を上げて祖父の顔を見る。それはどこか苦しそうで、遠くを見るように続ける。


「お前の提案は合理的であり、どこか納得してしまう力が込められている」

「ありがとうございます」

「でも、同時に儂にも強い決心というものがある。それはこの内乱を起こす時に決めたことであり簡単には変えることのできない強い気持ちである」


この時代の人々は常に決断に迫られている。いつ死ぬかも分からないし、いつ飯を食えなくなるかも分からない。

この五年、感じたことだ。


「簡単に決心を捨てては配下にも、神にも、そして自分自身にも立つ瀬がない」


一拍置いて、続ける。


「でも、そんなことはもうどうでもいい。儂はこの若狭の領主であり、若狭武田家の当主じゃ!最後は、しっかりと自分の尻拭いをしなければならない!」

「で、では、」

「ああ、儂はこの戦から手を引く。孫犬丸、お前の作戦どおりに動いてやろうじゃないか」


俺は交渉が上手く行ったことに胸を撫でおろし、フーっと息を吐く。最も大事な交渉を終えた疲れからかどっと体が重くなる。


「お祖父様、ありがとうございます」

「何、お前が礼を言うことはない。むしろ、儂が感謝をしなければならない。いや、こんな駄目な祖父ですまないと謝らなければならないな、ガハハハ!」


豪快に笑いながら頭を下げる祖父、いつも通りの厳つい祖父であった。


「孫犬丸、お前は本当に五歳児か?」

「逆に何歳に見えるのですか?」

「そうだな、愚問だった。ガハハハ!」


その後は半刻ほど近況を話して、これからの作戦の説明へと移った。










戦国雑学


孫犬丸の祖父、武田信豊。彼が生まれたのは一五一四年とされている。その嫡男であり、孫犬丸の父である武田義統は一五二六年生まれ。


この二人の生年を見て、恐ろしさを覚えませんか?


何と、義統が生まれた時の信豊の年齢は十三である!中学一年生で父親に!?


ただ、この時代の初産の最年少は十三とされているため、男性ならば同じぐらいであっても不思議ではない。それでも・・・とんだマセガキですね。

まあ、これが戦国時代!



信豊の一人称は儂ですが、この時の年齢はまだ四十四です。



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