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作戦


十月 難波江




「やあやあ吉郎君、ひさしぶりじゃあーないか!」

「孫犬丸様、その言い方は不気味悪いですよ。こんなに豪華な方々がいて、あっしにそんな言い方・・・また何かをやらかすのですか?」


口では怖がっているようなことを言いながら、明らかにワクワクした表情を浮かべる吉郎。彼と会うのは半年以上ぶりだが、相変わらず元気そうだ。


それよりも、確かに吉郎の言う通りメンバーを見ただけで何かを察するだろう。俺を上座に、両脇は重政と和丸、十兵衛、そして八郎。俺の家臣の中でも頭脳明晰なメンバーが集められている。


「まあまあ、そう怖がらなくていい。ただ少しやってほしいことがあるだけです」

「・・・・あっしはいつでも孫犬丸様の頼み事は聞きますから」

「そう言って貰えて嬉しいよ。それで、本題だけど――――その前に少し質問をしたい」

「???」

「もし次に何処かに侵攻するとしたら、吉郎ならどうする?」

「まさか、また何処かに仕掛けるおつもりで!」


目を大きく見開いて驚く吉郎。

まあ、そうだろう。なにせ丹後侵攻からまだ半年ほどしか経っていない。


「聞かれたから答えますが、やはり第一候補は山名家でしょうね。まあ、その可能性も今は低いですが。なにせ、通商条約を結ばれて、実質同盟相手ですから」

「そうだな。山名家は丹後の隣りにあって内部でも分裂しているから攻めやすいように見える。でも、それでも国力を考えたら決して楽な相手ではない。何よりも当代の山名祐豊は無能な当主ではないから、簡単には破れはしない」


そう、今はまだ山名家とは敵対したくない。どちらかと言うと西から来る強敵―――今勢力を若狭武田家以上に伸ばしている毛利家の盾として機能する。正直毛利家の勢力と人材を考えると、今は領土を接したくはない。その盾のために山名家と同盟を結んだ。


「次に考えられるのは・・・三好家ですかね。いや、三好家というよりも丹波ですかね。三好家の領土とはいえ支配があまり上手くいっていないから、介入する隙はあります。が、こちらも現実的ではない。三好家数万を相手取るのがどれだけ無謀か、商人であるあっしでも分かります」


その通りだと思う。もちろん、朝倉や六角、畠山などを巻き込んでの連合などもあり得るが・・・ほぼ不可能だろう。そもそも若狭武田家が領土を広げるためにやるのだから、他の家には三好家を敵に回すだけの利がない。朝倉なんてもってのほか。

若狭武田家だけで攻めた場合、滅ぼされるだけ。


「次の候補は、朝倉家です」

「ほぉ〜〜〜、意外な家が出たね。でも、確かに隣り合っている」

「ですが、こちらも石高の差があります。何よりも同じ公方様を支える大名。孫犬丸様が計画したとして、武田の当主様が了承するとは思いません」


その通り。国力差はある上に、六角家や周りの信用を失ってしまう。孤立した結果、三好に攻め滅ぼされるのが落ちだろう。

そもそも、落ち目とは言えまだまだ実力はある朝倉家。俺が全力でやろうとしても、おそらく敦賀を取れればいいだろうぐらい。完全勝利は無理。


「そして最後。正直、最初に孫犬丸様に質問をされた時、候補としては一番最後にしました。なぜなら、攻める理由が無いから。それは朝倉家と同様、敵対していないからという理由があります。が、そもそも領土が接しても(・・・・)いません。それなのに攻めるなど、普通はありません」

「俺は鬼になる覚悟は決めたんだ」

「その言葉、そしてこれまで話をしていて確信しました。孫犬丸様たちの次の標的は、北近江の”浅井家”ですね?」

「ああ、そうだとも。しかし、商人にしておくのが勿体ないぐらいの考察力だな」


俺が褒めると少し嫌そうに首を振る。よっぽど武士にはなりたくないようだ。


「しかし、そう考えると恐ろしいです。まさか、そのための布石として六角家と浅井家の争いに介入したのですよね?」

「あくまで布石に過ぎなかった。いつかの為にと思っていたが・・・まさかこんな早くになるとは」


重政からの痛い視線を受けながら、俺は軽く笑う。

今年の始めから計画していた、六角家と浅井家を和睦。重政には黙って進めていたため、バレた時にはこっぴどく叱られた思い出がある。


正直あの時、未来を知っている俺は野良田の戦いで六角家を助けるという手段もあった。その戦に勝たせて、更に俺の人脈や和丸の策を使えば浅井家は滅ぼすことが出来た。

しかし、それはしなかった。


なぜなら、六角家が大きくなっては困るから。天下を取るうえで、いずれは敵となる相手を巨大化させるのは本意ではない。むしろ近江全てを支配した六角家か、浅井家と今の六角家なら、後者の方が楽に倒せると思う。


「しかし、いつ頃に攻める予定なのですか?」

「来年だ」

「ら、来年!!!まだ丹後の支配が終わっていないというのに、それは無茶をし過ぎでは!?」

「俺もそう思っている。だが、無茶をしなければいけない理由が出来た」


理由は、この場にいる家臣たちにも言ってはいない、神の使い―――つまり転移者が現れたから。その転移者が俺を殺しに来るのだ。

転移者を巻き込んでしまったのは申し訳なく思っているが、俺だって巻き込まれた身。やすやすとこの命を諦める気はない。絶対に抵抗をする。


そのために、まずは浅井家を滅ぼすことに決めた。もし俺が転移者だった場合、必ず織田家と浅井家の同盟を利用する。まだまだ先のことだが、実現をしてしまっては織田家が大きくなるだけ。それを止めたい。


「皆様は、納得をされているのですか?」


吉郎の質問に、全員が頷いてくれる。

俺は転移者が命を狙ってくるということを聞いてから、鬼になることを決めたんだ。この戦に、丹後侵攻のような正当性はほとんど無い。完全な、こちらからの侵攻だ。


「俺の義理の祖父は京極家当主(武田義統の側室が京極家出身)。その京極家を追い出した浅井家への侵攻は、正当だろ?」


俺の言葉に全員が苦笑いを浮かべる。

浅井家が実質的に北近江を支配し始めたのは俺が生まれる前の話で、京極家と関係があるとは言え、領土を接していない若狭武田家が北近江を攻めるなど無茶苦茶な話だろう。


「そもそも、侵攻が成功したとして、領地が接していないのはどうされるのですか?」

「それは既に考えがある。まあ、今は教えられないけど」

「分かりました。では、もう一つ質問を。どうやって攻めるおつもりで?」

「詳細は残念ながら教えられないな」


俺をじーっと見つめた後、深い溜息を吐く吉郎。


「あっしを呼んだのは、あっしが元近江商人の下で修行を積んでいて、今も近江での商売を続けているからですか?」

「ああそうだ。ちょっと流してほしい噂があってね」


吉郎は察しが良くて助かる。今も近江を歩き回っているぐらいだから、人脈も多くて、地理もよく理解しているだろう。


「朝倉家はどうされるのですか?確か、同盟を結んでいますよね」

「心配ない、対処の方法は和丸が思いついている」

「最後に一つ。まさか、全滅させるおつもりですか?」


少し怖い顔をする吉郎の言葉は、感情が籠もっている。おそらく親しい豪族の人や商人がいるのだろうから、その人達を案じているのだろう。


「近江で色々と工作を仕掛けた時、浅井家内部の分裂が浮き彫りになってきた。だから、丹後侵攻の時のように寝返らせることも可能だと思う。俺としても、あまり血を見たくはない。もし親しい人がいれば、教えてくれ。なるたけ生かせるようにする」


その言葉に安堵したのか、表情を和らげる吉郎。


「いえ、あっしが説得をするので、受け入れていただければいいです」

「そうか、分かった。できれば穏便に行く。浅井家にも、話の分かりそうな青年がいたし、上手くいくといい」


今回は六角家に気取られないためにも、なるべく早く実行をする。だらだらと準備をしていたら、甲賀の忍に悟られるかもしれない。


「重政、父の方は大丈夫だよな?」

「ええ、上手く誘導できています」


今回もまだ俺は目立てない。むしろ、目立ってはいけなくなくなってしまった。転移者が、武田孫犬丸が転生者であることを知っているかは分からない。父を隠れ蓑に、まだ表舞台には立ちたくない。


「和丸は引き続きより完璧な策を練ってくれ。十兵衛も和丸と一緒に頼む」

「「ははっ!」」

「八郎は円才に近江を探ってほしいと伝えてくれ」

「はっ!」


北近江侵攻は、迅速に終わらせたい。そろそろ、あれ(・・)の準備が必要だからな。


!!!そういえば、あの人が北近江にいた気がするな。・・・もしかすると今回の作戦に役に立ってくれるかもしれない。




実は本来、この話で一旦連載を止めるつもりでした。しかし、次の展開―――つまり北近江侵攻戦を考えた時、そこまで長くならないと考えて、一週間前に急遽まだ投稿を続けることを決めました。


ただ、先程書いたように、元々ここまでのつもりでした。ですから、まだ最後まで書けていません。今、全力で執筆して毎日投稿を頑張りますがもしかすると間に合わないかもしれません。ご了承ください。


コメントへの返信も、時間が作れればしていきます。



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