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短編集 妻が好き過ぎる〇〇な旦那様シリーズ

シンシア・リンフォードは幸せな花嫁様 ~私のことが好き過ぎるクールな新郎様は結婚式で愛しい気持ちが爆発する~

作者: 桐山陽

「新郎たる者。貴方はここにいる妻となる者を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「誓います」

「新婦たる者。貴女はここにいる夫となる者を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

「誓います」

「では、今日この良き日。この二人を夫婦とします」


 どうも皆様。

 わたくし、シンシア・ランスカター、改め、シンシア・リンフォードと申します。

 先日、十九回目の誕生日を終えました。

 そして本日、とある殿方に嫁ぐことになりました。

 ずっと、ずぅっと恋焦がれてきたお人です。


 お相手は十歳年上のメイフィック侯アーレス・リンフォード様。

 ほんの半年前に侯爵の位を継いだ新米侯爵なアーレス様は、惚れた贔屓目なしに見ても最高な美丈夫です。


「ご結婚おめでとうございます」

「とっても素敵なお式でしたわ」


 わたくしがご令嬢の身長平均を少し下回るせいでもありますが、アーレス様のお顔の位置はわたくしのお顔の一個と半分上にあります。背が高くいらっしゃいます。

 わたくしだって、スティレットヒールを履いていますのに。


「あぁ」

 

 メイフィック侯爵家と我がビルベック伯爵家の領地がお隣という事で、アーレス様とは幼少期から家族ぐるみで親交がありました。

 物心着いた頃には既にアーレス様はわたくしの遊びのお相手でした。

 同年代の御学友もいらっしゃる筈なのに、わたくしを第一に行動してくれる。そんなとっても優しいアーレス様ですが――。


「メイフィック侯爵様でもやはり結婚式とは緊張なさる行事のようですわね」」


 如何せん、口数がとても少ないのです。

 口は常に一文字で、表情もほとんど変わりません。


「……あぁ」


 せっかくお祝いのお言葉を頂戴しましたのに、アーレス様ったら「あぁ」しか言っておりません。

 返事は大事です。

 ですが、もっとこう、あるでしょうに。


「ハッハッハ! ライラ、アーレス様も人の子だという事だ」


 そう言って笑い飛ばしてくれたのは、バレンタ子爵様はアーレス様の学生時代からの仲だそうで、今ではお仕事のお取引相手。


「……そうですわね」

「…………」


 子爵様はあまり気にしていらっしゃらないご様子ですが、夫人はそうでは無いご様子だと見受けられます。

 もはや、夫人とアーレス様は果たし合いの如く睨み合っているように見えます。

 こういう場では元来、花嫁は微笑むのみに留めるところですがわたくしは躊躇いません。


「バレンタ子爵、バレンタ子爵夫人。この度はご参列ありがとうございます」

「! こちらこそ、ご招待してくださった事、誠に感謝しております」


 ご夫人は最初こそ驚いた表情をお見せになられましたが、その後は和やかに歓談することに成功しました。

 良かったです。


「――だって、今日の主役は花嫁(貴女)ですのよ?? それをあの朴念仁っ」


 バレンタ子爵夫人――ライラ様の話を聞いているに、どうやらアーレス様の御学友のおひとりだったようです。

 砕けた口調に変わったライラ様。なんだか、仲良くなれそうな予感がします。

 しかし、嬉し楽しい気分はここ迄でした。


「いやぁ、お式の最後は衝撃的でしたなぁ。侯爵様はなさることが一味違いますなぁ」

 ――誓いのキスを額にするなんて、やはり侯爵様にとってこの結婚は不本意なものなのだろう


「貴方様が若く美しい花嫁を娶るとは」

 ――仕事が恋人だった男が、妻となる小娘を愛せるのか見ものだな


「シンシア様、ご結婚おめでとう! 侯爵様となんて、貴女は世のご令嬢たちの注目の的よ!」

 ――ぽっと出の小娘が、侯爵様に嫁ぐなんて


「本当に! まさか貴女がアーレス様とご結婚なさるなんてね」

 ――没落寸前の伯爵家の娘がどうやって


 侯爵様の結婚式ですので参列者の数はかなりの桁数な訳ですが、その参列してくださったお貴族様たちからの祝辞は酷いものでした。


「……あぁ」

「ありがとうございます」


 ですが、意中の殿方と晴れて結ばれたわたくしは幸せの絶頂なので、全く。ええ、全く! 気になりません!

 マリッジブルー? そんなの知りません。


 社交界では、貧乏な名ばかりの伯爵家の娘である私が結婚をしたくない侯爵様にお金で買われた “偽物の花嫁” だ、と噂になっているみたいです。

 婚約してからの結婚式まで凡そ半年。準備期間が無さすぎて、社交場から足が遠のいていた私に “お優しい” ご令嬢から挙式前にお教えしていただきました。


 当たらずとも遠からずなのが痛い所です。

 此度のこの結婚の背景には、確かに侯爵家から伯爵家への金銭的援助のお話も絡んでおります。

 しかも、アーレス様が今の今まで舞い込む高位貴族のご令嬢との縁談を蹴っていたのも、理由はさておき、それもまた事実なのです。


「シンシア、君はもう帰ってはどうだ」


 お式が終わり現在は披露宴も半ばな訳ですが、心配をしてくれるなんて花嫁への細かな気配りがさすがです。

 確かに、いつものキトゥンヒールとは足の疲労具合が天地の差で違います。

 ドレスの下では、私の足が子鹿のように震えていますもの。


「もう、この場は私一人で大丈夫だ」


 あら、アーレス様の言葉に周囲がざわつき始めました。

 どうやら「邪魔だから帰りなさい」と解釈してしまったようです。

 アーレス様のその限りなく削ぎ落とされた簡潔な物言いは勿論わたくしきゅんきゅん致しますが、世のご令嬢の皆様がきゅんきゅんするフレーズも味わってみたいです。


 なので。

 そこは「君の硝子細工のような足を休めておいで。先に帰って、私たちの屋敷(愛の巣)で待っていてくれ。私のシンシア」ですわ、アーレス様。


 ――えぇ、わかっています。夢のまた夢だと。

 思ってみただけですわ。


「シンシア?」


 表情が乏しい上、物の言い方が紛らわしい人なので勘違いされやすいのが困ったものです。

 バレンタ子爵も額に手を当ててます。

 ご夫人であるライラ様のアーレス様を見る目は、憐れなものでも映してしまったかのようです。


「お気遣いありがとうございます、アーレス様。ですが、わたくしピンピンしておりますわ!」


 声色は高く、笑顔で旦那様を見上げます。

 両手を握りしめて元気だとアーレス様にアピールを忘れません。何事も、言葉だけではなく行動でも示していきます。

 アーレス様の不得意は私が全力でカバーするのです。


「……そのようだな」


 アーレス様の表情筋がピクピクしています。

 眉間にシワが刻まれお顔が険しいですが、私には分かります。

 アーレス様、ニヤけそうになっていますね!

 良い兆候です。


「やはり、この結婚にご納得がいっていないようだな」


 何方かがボソリと言いました。


 ……そうきましたか。

 やはり、なかなか打開は難しいようですね。

 気長に行きましょう。


 披露宴――立食式のパーティは、教会の敷地内にある広いお庭をお借りして行っています。お国で特に有名な楽団を招いての演奏もとても豪勢です。

 そして、アーレス様の密着度の高いエスコートを受けながら、参列者たちへ挨拶回りを行っていた時です。

 事件は起きました。


「きゃあ」


 メイフィック侯爵家の傍系である子爵家の方と談笑していた最中、背後で女性の声が聞こえました。

 それもかなり至近距離でした。


「あらぁ。申し訳ありませんわ、花嫁様。うっかり手が滑ってしまってぇ」


 聞き覚えのある声に振り返ると、あの “お優しい” 令嬢が身体をクネクネさせながら謝罪の言葉を述べているではありませんか。

 ご令嬢の視線を追うと、まぁ大変。

 純白のドレスの裾が、赤く染っています。

 空っぽなグラスを見るに、どうやらワインを零してしまわれたようです。

 なんだか、背筋の辺りがじっとりとしてきます。

 かなり盛大に、幅広く、ワインが拡がっていそうです。


「シンシア?! 大丈夫か!? ケガはっ」


 思わぬアクシデントでアーレス様が眉尻を下げて狼狽しています。

 珍しい表情です。

 もう少し眺めていたいところではありますが、アーレス様を安心させるためにやむ無く断念致します。

 私の両肩を揺さぶる勢いで掴むアーレス様の腕にそっと手を置いて目線をしっかり合わせます。


「わたくし、怪我などは一切負ってはいませんわ」


 私の代わりにアーレス様が直々にデザインをしてくれたウェディングドレスが犠牲になってしまいました。

 非常にショックです。

 今のところ予定はありませんが、まだ見ぬ未来の私たちの子らに自慢しようと思っていましたのに。


「!」


 背中の惨事に気がついたアーレス様がすかさず自身のタキシードで私を覆います。ドレスの裾まで全てとはいきませんが、アーレス様の大きなそれは私の身長が低いこともあり、何とか大方ワインのシミが隠せました。

 ファインプレーです。


「どういうことが説明してもらおうか。取り繕おうなど思わぬ事だぞ」


 凄みのある声色で私と同じ年頃のご令嬢を詰めるアーレス様はまるで御伽噺の魔王様のようです。


「ただ、わ、私は目立ちたがり屋な花嫁様に、この場から一度下がっていただこうと――気を利かせて」


 まさかの回答に思わず、わたくしは口を大きく開けてしまいました。脳内で。


「だって、アーレス様もそう思って……」

「私がいつ、そんなことを言った」

「えっ……き、貴族の間では有名な話ですわ! 花嫁様が何か弱みに漬け込んで、アーレス様が不本意な結婚を強いられ――」

「私やシンシア、当事者の言葉はその中のどこに存在していた」

「そ、それは。ですが、此度の結婚式での花嫁様の行動とアーレス様のお言葉で、私は確信致しましたのよ!」


 振り返ってみると、まぁ確かに勘違いされても仕方がないような気もしますね。

 わたくしの主張激しめの言動とアーレス様の消極的な((はた)から見れば嫌そうな)態度は、大いに問題がありそうです。


「俺とシンシアにいつそんな行動があったというのだ」


 多分全てですが、アーレス様にはそのご自覚がないのもまた可愛らしいポイントです。

 と、そんなことよりアーレス様が激おこです。

 口調では平静を装ってはいますが、わたくしには分かります。


「俺はシンシアを世界一幸せな花嫁にしようと……どうしてくれようか」


 なんだか、少し前に読んだご本の描写にあった『闇堕ち』というものに似た雰囲気をアーレス様から感じます。

 これはまずい気がします。


「どこの令嬢か知らぬが、家ごと潰してしまおうか」


 参列者のご令嬢のお顔を覚えていないのはお国のお偉い位の人としてどうかと思いますが、今はそれどころではありません。

 アーレス様が本当に魔王様になってしまわれます。


 阻止すべく、ずずいとアーレス様とご令嬢の間に割って入ります。

 突然フレームインしたわたくしを見て頭に疑問符を沢山付けたアーレス様がとても可愛いです。


「アーレス様」


 腰に手を当てて、少しお行儀は悪いですが人差し指をアーレス様に向けます。

 今日この日に繋がる約束をした時の出来事の再現をしてみます。

 上手く行けばアーレス様はイチコロ間違いナシです。

 アーレス様、覚えていらっしゃるでしょうか?


ーーーーーーー


『シンシア!』


 それはわたくしが齢九の時の事。

 秋の終わりで気温がぐんと下がり始めた学園の校庭で枯れ葉になっていた所に、ご友人と偶然通りかかったアーレス様が慌てた様子で駆け寄ってきてくれたことがありました。


『アーレス兄さま』


 明らかに突き飛ばされた形跡があることに、般若のような表情をしたアーレス様が懐かしいです。


『誰にやられた』

『言いません』

『名前は』

『……』

『シンシア』


 まだまだ幼いわたくしは反抗の仕方が分からず、力一杯勢い良くアーレス様を指差しました。


『――元はと言えば! アーレス兄さまのせいですっ』


 わたくしを突き飛ばしたご令嬢のご実家が、数日前にメイフィック侯爵家へ縁談を持ち込んだそう。しかし、わたくしという(仮)婚約者がいることで受け入れて貰えなかったとの事でした。

 今思うとなかなかの八つ当たりなのですが、まぁそこは幼い子の嫉妬心というもの。

 仕方がありません。


『!?』

『おぉ、言うねぇ』


 頬を膨らませ恨み言を言うわたくしにアーレス様は驚いた表情を、ご学友の方(今思えば、この方はバレンタ子爵様ですね)は器用に口笛を吹いてみせました。


 わたくしの交友関係に水を差すアーレス様へとにかく腹が立って仕方がありませんでした。


『アーレス兄さま、こんやくをはきしてください』

『え』

『わたくしからは、しゃくいが低くて、じっこうに移せません』


 当初わたくしたちの婚約関係に誓約書は無く、親同士の口約束で成立したものでありました。わたくしのアーレス様への懐き具合といい、アーレス様のわたくしへの溺愛の片鱗が見え始めていたことから成り立っていたのです。

 そのため、その一方の感情が崩れ去れば、直ちに無効になるそんな儚い (仮) な関係。

 というわけで大きな瑕疵もないような今回の場合は、伯爵家の娘の私が破棄を望んだので、表向き侯爵家からの破棄してもらわなければなりません。


『待て。待て待て、待ってくれ、何でそうなる???』

『だはーーーーー! おもろい事になってきたッ』

『お前は黙れ』


 学園に入学して一年と少し。

 当時、同じ学園に通っていても学年が違いすぎるアーレス様との逢瀬(?)はどんどんと減っておりました。

 そんな中、わたくしの優先順位が、ご学友>アーレス様となるのは必然でしょう。

 何せ、まだまだ恋に恋するお年頃――にも達していない時期ですから。


『シンシア……』

『もう知りません!』

『分かった。もうこの学校ごと潰す』

『アホだ! 阿呆がいるッ!』

『兄さまっ。それは、めっ! ですよ!』

『うぐっ』


 ドスッと何かが刺さる鈍い音が聞こえましたが、これは多分幻聴ですね。


『可愛い愛しい無理……』

『ロリコンだ、ロリコンがいる』

『黙れ』

『ホントのことだろうッ』

『シンシア、俺はどうすれば良い?』


 胸を押さえていたアーレス様が気を取り直したようにわたくしへ問うので、幼いわたくしは必死に考えました。


『どうすれば婚約破棄を破棄してくれる?』

『おぉ、ややこし』

『黙れ』

『だから、怖ぇーよッ』

『ごりっぱなこうしゃくさまになってくれたら、かんがえます』

『侯爵……シンシア、俺が爵位を継ぐのは、まだ先なんだが。その、他なら――』

『じゃあ知りません』

『ま、待て待て待て』

『ひぃーーーーーーッ、よせよせッ! 俺の腹がよじれるッ! もうダメッ』


 わたくしを抱き抱えてご機嫌を取るアーレス様と笑い転げてわたくしと同じく枯れ葉まみれになった未来のバレンタ子爵(多分)は、授業開始の鐘の音が鳴る五分前、お二人の同級生(今思うと、こちらはライラ様な気がします)が二人を呼びに来るまでずっと傍にいてくれました。


ーーーーーーー


 結局へそを曲げたわたくしはその後、歓談する父とアーレス様のお父様のところに乗り込んで婚約破棄を宣言することになるのですが……。

 今は割愛致しましょう。


「良いですか? 『元はと言えば、アーレス兄様のですよ?』」


 アーレス様が私の言葉に目を見開いています。

 しめしめ。


「シ、シンシア」

「そんなことしたら、めっ! ですからね!」


 切れ長の綺麗な目を見開いたアーレス様は耳まで真っ赤にしてしまい、とうとう私の肩口に顔を(うず)めてしまいました。

 その光景を見た披露宴参加者たちが目を丸くしています。


「――()してくれ、シンシア」

「デジャブですね?」

「それは……それは反則だ。心臓に悪い。それに、君にそう言われると……」


 「俺は弱いんだ……」と、最後は私にしか聞こえない声量の震えた声が聞こえてきます。

 やっぱりアーレス様も覚えていたようです。

 効果覿面。良かったです。


「よく聞いてくれ!」


 徐ろに顔を上げたアーレス様が、突如大声をあげました。


「誰がなんと言おうと、私は彼女がこの世の何よりも大切だ。誰が “望んでいない結婚” だと? これは私が彼女に懇願して実現した結婚だ。根も葉もない噂話は金輪際辞めていただこうか」


 アーレス様が長文をお話になりました。

 普段の様子からは想像できないアーレス様のなりふり構わぬ姿に男性陣は度肝を抜かれ、熱烈な愛の告白に夫人やご令嬢たち女性陣からは黄色い声が上がっています。

 私の頬も唐突な宣言に熱を持っています。

 は、恥ずかしいです!


「もし今後、我が妻を貶めるような発言をした者を見つければ、問答無用で、きる。この宣言は、この場にいるみながその証人だ!」


 あら。

 きる、とはお仕事の関係でのお話でしょうか。

 それとも物理的に?


「お、お、お許しをぉぉおおおおお」


 どちらを取っても、お相手はお顔真っ青なお話しです。

 すっかり腰を抜かしたご令嬢と顔を真っ青にしたそのご両親が退散するのを見守って、アーレス様のシャツの裾を引っ張ります。


「アーレス様」

「なんだ、シンシア」


 アーレス様のお顔が通常モードに戻ってしまいました。

 少し残念です。


「背中が冷たくなってきました」


 そうなのです。

 もう背中がちょっと限界に近いのです。

 後、足が痛いです。

 誰ですか、立食式パーティにしようなんて言ったのは――あ、わたくしでした。

 結婚式準備の息抜きで読んだご本の描写に惹かれてしまったのがダメでしたね。


「――お越しの皆さま。今日という目出度き日の証人になってくれたこと感謝いたします。私たち夫婦は今を持って帰らせて頂くが、皆さまはどうぞ、この場を心ゆくまでお楽しみいただければと思う。さぁ、シンシア帰ろうか……我が家(愛の巣)へ」

「アーレス様っ」


 あ・い・の・す!!!!!

 アーレス様が頑張ってくださいました!

 わたくし感激です!!!


 お顔を真っ赤にしたアーレス様はわたくしを横抱きにすると、神父様にこっそりと袋を握らせました。

 かすかに金属が擦れる音が聞こえます。

 なるほど、見なかったことにしましょう。


「お幸せに~!」


 4頭立ての馬車に乗り込んだところで、満面の笑みでこちらに手を振るバレンタ子爵夫妻のお姿が見えました。

 暖かい人たちです。

 ライラ様とは近いうちにお茶会がしたいです。

 手紙を出さないと。


「まだまだ先は長そうだぞ、ありゃ。……なぁ? ライラ」

「えぇ、あの子――シンシア様はかなり手強いわ」


ーーーーーーー


 馬車に揺られながら、目の前に座る花婿様の顔を眺めます。その表情からは喜怒哀楽を読み取ることはできません。


「アーレス様」

「なんだ?」

「わたくし、貴方をお慕いしております。今までもこれからもずっと」


 アーレス様は今はまだ、きっと年の離れた妹のようにしか私の事を思っていらっしゃらないでしょう。


「俺の愛しいシンシア。必ず幸せにするよ」


 それは、いわば家族愛。

 いずれそれがまた別の意味も持ってくれることを祈って。


「期待していますっ!」



[Fin]

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