表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

 

「ねぇ、辞書貸してよ」


 そんな私の小さなお願いも

 埜村君はこちらを黙って見ているだけで

 聞いてくれなかった。



…+ Tuesday 人形の仮面 +…



 埜村和季君はうちのクラスでクールだと評判の男の子。

 みんなは「人形みたい」とか「人じゃない」って冷たいこと言うけど、私は今彼が気になって仕方ない。

 偶然隣にもなったし、こうなったら徹底的に調査してみよう!……と思って五日。

 彼のプライベートなことは一切わかってない。それどころか会話さえできてない。

 一度だけ話せたときは、単刀直入に聞いたときだった。


「埜村君のこと教えてよ」


 埜村君はいつもの顔でこちらを見て、そして一言で片づける。


「どうして?」


 ……そんなこと聞かれても私だって知らないよっ!



 埜村和季、年齢は十三か十四。誕生日不明、部活は合唱部でピアノをやってる。委員会は給食。

 ……調べたの…。これでも死ぬ気で調べたのにっ!

 収穫といえるものといったらピアノが上手ということだけ。

 そろそろやってることがストーカーめいてきてるのも分かってる。どうしよう……。

 そんなことを思いながらB階段を上がっていると、踊り場の隅に昼放送のお悩み相談BOXが目に入った。

(お悩み相談……)

 放送といえば、エリーとウィルの。

 そうだ、あの二人ならどうにかしてくれるかもっ!

 希望的観測でも、縋らないではいられない。私はシャーペンを取り出し、相談用紙を一枚とった。


 ―――お昼。

 埜村君は給食委員で配膳室に行っているから、教室にはいない。

 どんな答えが返ってきてもOK。

 私は箸を手に取り今日の親子丼を食べながら耳を澄ました。


『イェーイっ! みんなァ~、お昼の放送だよ☆』

『……やめろ、気持ち悪い』


 火曜日だからお悩み相談は今日。

 ただ、紙を回収してるか分からないけど。


『ウィル……ひどいわ! キモイだなんて! この美少女のエリザベスに向かってキモイだなんて!』

『あー……ハイハイ』

『バカにしてるわね!? 私はこんなにあなたのこと……』

『バッ…やめろ!』

『便利だと思ってるのに!』

『俺は生活用品か!』

『フフフ……。照れたわね、ウィル。さっきドキッとしたわね?』

『勝手に言ってろ自意識過剰女』


 この会話を聞いていると二人の関係が気になる……。

 って今はそれどころじゃないんだった。


『えーっと今日は、お悩み相談室! まず一つ目の相談、ベスさん(仮名)からです!』

『ベス……?』

『“私の妹や弟は寝言や寝ボケがひどいです。どうしたらいいか教えてください”。はい、お答えどーぞ、解説のウィリアムさん!』

『……eだろ、それ。つーかてめーだろエリー』


 月曜の続きになってる。エリーって面白いなあ、ホントに。ちょっと天然だし。そこがイイって、ファンクラブもあるんだけど。

 エリーみたいな子だったら埜村君ともっと話できるかな……?


『はい、次の相談行きます!』

『妹弟のことはいいのかよ……』

『無視です! えー、次の相談はアスカさん(仮名)からです』


 来た。たぶん私のだ。


『“今の隣の人がとってもクールで話しかけても返事をしてくれません。けど私はすごく彼のことが気になります。どうしたら仲良くなれるでしょう?” ですって。……ってバル、何むせてるの?』

『ゲホッ……いえ、なんでもないです。気にしないでください……』

『そーお? んじゃお答えよろしく! ウィル!』


 うっ……緊張してきた…。

 私は牛乳を飲みながら答えを待つ。


『……つまりさぁ、アスカって隣のヤツが好きなんだろ?』

「ブッ!! ゲホッ、ゲホッ」


 ウィル……ウィル、そんなところ解説しないでっ!!

 吹いた牛乳をティッシュで拭きながら一生懸命平静を装う。


『相手にしてくれないなら、そいつが驚くことでもしてみたら?』

『? つまりどーゆーこと?』

『今までと同じように接してくるヤツより、珍しいヤツの方が目に留まるだろ。クールなヤツって大抵普通の世の中を冷めて見てるから、変わった子とか気になると思う』


 変わった子……。


『……ウィル、それは体験談?』

『はっ!? ……違ぇよバカ』

『あらら~? 怪しいわねぇー。教えてみなさいっ!』

『離せバカ!』


 ドン、バタン、と不吉な音がスピーカーから聞こえてくる。

 エリー、何してんの……。

 そのとき別の声が聞こえた。


『あの……』

『ん? どうしたの、バル』

『僕の意見言ってもいいですか?』

『答えは多いほうが相談者は安心するからな』

『そうだね。どうぞ』

『冷めてる人、っていうのもあるでしょうけど、こういうことも考えられませんか? その……自分を隠したくて、あまり人と関わらない、とか』

『……なるほど』


 自分を隠したくて?

 そういうこともあるのか。


『冷たいようで案外気にしてるかもしれませんよ?』


 気に……してる…?


『……バル、あなたも怪しいわね』

『えっ……ち、違いますよ? 決してそういうことじゃ…』

『おねえさんに言ってみなさいっ!』

『わぁっ!』


 ドンガラガッシャーン……。


『バカ、放送室壊す気か!』

『ぶー』

『ぶー、じゃない! ジャックに殺されるだろ!』

『っ~……。あ、もう時間ですよ、エリー』

『あ、ホント! それじゃあみんなまたねー!』

『コラ、簡単に済ませるなっ』


 プツン。

 …。

 ……。

 えーっとつまり……。

 とにかくアタックってこと?



…+…



「和季ちゃーん、さっきから机に伏せてどーしたの?」

「妙に説明的だなお前」


 放送室でうなだれる和季。心配して声をかける華弥、それにツッコミを入れる修。

 和季は顔を上げるとマイクの前に置かれた相談用紙を見た。


「……これって、学級も書くんですね。今日初めて知りました」

「うん。学級、放送用のペンネーム、相談を書くの。大体の人は気にして学級のとこ書かないし、今日みたく書いてあっても私読まないけど」


 口元を右手で抑え、彼は小さく呟く。


「それ…たぶん……というか、絶対、僕のことです」


 しばしの沈黙が流れ。

「アスカ?」と和季を指差す華弥。

「そっちじゃないだろ」ツッコミのポジションは忘れない修。続けて言う。


「じゃあこの紙書いたの和季の隣か」

「はい。筆跡もそれっぽいですし…」

「筆跡、ね。気になるわけだ。実際」


 うっと声をあげ視線を逸らす。その耳はほんのり赤い。

 華弥はやっとわかったような顔をして、笑う。


「なぁんだ、そゆこと。やったじゃん和季ちゃん。彼女ゲット!」

「なっ……いや、そういうことじゃ…」

「そーゆーことだろ? どうする和季、変わったことされるぞ?」

「どうするって…‥。……もう、いいです! 先に失礼します!」


 和季はトレーを持って立ち上がり、入口へ向かう。「あー、テレてるー」という声が聞こえたため、冷めた表情で二人を見やった。


「じゃあ。」


 パタン。


「――あー、怒っちゃった?」

「外キャラだろ。拗ねてるだけだし、どう見ても」

「けど和季ちゃんの外キャラってなんかいいよね。神秘的少年」

「なんだよ、それ」


 今日も修のツッコミで終わる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ