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カタる傍  作者: 金艮
8/23

影剥がし

 高校卒業後、東京の大学へ進学し、そのままそこで就職した。それからは、たまに電話で話したり年賀状を送ったりはしたが、1度も実家へ帰っていない。そのため、今日は久しぶりに地元に帰ってきたことになる。既に日は傾き、空がオレンジに染まってきている。この夕焼けを見ていると、昔を思い出す。あの頃は、みんな暗くなる前に家に帰ったものだ。かくいう私も親に念を押され、遊びたい心を泣く泣く圧し殺して家に帰っていたものだ。


「暗くなる前には帰りなさい。影剥がし(・・・・)に影を剥がされるから…」


 影剥がし。なんなのかは知らない。質問したことはあるが、答えてもらえなかった。それでもあの何かを隠すような言い方。あの頃の私は、幼いながらにそれを感じ取り、それ以上質問を続けることはできなかった。大人になった今なら、教えてもらえるだろうか。


 そんなことを考えながら歩いていると、影も闇に溶けはじめていた。チカチカと光り始める街灯。ここ最近は、暗くなるとだんだんと冷えが増していく。今年の夏も暑かった。あれほど疎ましかったのに、終わりが見えてくると物寂しさを感じる。不思議なものだ。生暖かい風が吹く。ふと、背後に気配を感じ、後ろを見る。何もいない。それなのに、何かに見つめられているような気がする。体ごと向きなおる。何かと目が合っている。もちろん、誰もいないはずだが。


 指先すらピクリとも動かさず、虚空に視線を注ぎ続ける。なぜかはわからないが、ここで目を離すわけにはいかない気がする。気温は低いはずなのに、全身から汗が吹き出る。そうして静かに一点を見つめ続ける内に、先ほどまではうっすらと見えていた影が、夜と完全に同化した。同時に、感じていた気配も消えた。まるで、そこにいた何かに、夜が追いついたかのように。


 緊張が解け、再び体の向きを変え、実家の方向に歩き始める。地元に着いたときは朧げだった記憶が、歩いている内に鮮明になり、足の運びも力強くなる。煌々と輝く街灯に、蛾や蝿が集まりだす。その頃にはもう、影剥がしのことは頭から消えていた。離れ行く夏から、近づく秋へ、関心が移り変わるように。





襲われなくて良かったです。

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