扉を開く
いつからだっただろうか。ある日を境に、ドアを開くとあいつがいるようになった。
心当たりはある。きっとあのときだろう。おかげでもはや部屋から出ることもできず、否応なしに引きこもりになってしまった。
親は理由を深く追及してくることもせず、何かを察して引きこもることを許してくれている。おそらく予想している理由は的外れなものだろう。誰が怪異に恐れて引きこもっているなどと想像するだろうか。だからこそ、きちんと理由も言わず、親に迷惑をかけてしまっている自分に殊更イライラする。
ずっとこうしていることなんかできないことは、自分が1番分かっている。だからといって、どうしろというのだ。
そんな風に自己嫌悪するが、どうしたって腹は減る。当然自室の扉を開くとやつがいるので、偶に必死に頑張って扉を開き、親に用意してもらった大量の食料を部屋の中へ取り込んでいる。
そんな努力の結晶の内の1つであるカップ麺を取り、蓋を開く。
蓋を開いた瞬間、反射的にカップ麺を放り出してしまった。だって、やつがいたんだから。
きっと見間違えたのだろう。なにせ、やつは決してカップ麺の中に収まるほど小さくないからだ。なにをどう頑張っても、あのサイズをカップ麺に押し込めるはずがない。
そう自分を落ち着けつつ、落とした拍子に蓋が閉じられていたカップ麺を拾う。しかし、1度でもやつがいると思ってしまった手前、再びそれを開くことはついぞ出来なかった。
すっかり萎えてしまった食欲。気持ちを落ち着けるため、お気に入りの本を手に取る。これにはたくさん助けてもらった。今回も、きっと気持ちを鎮めてくれるだろう。そう考えて表紙を開く。
やつがいた。咄嗟に本を放り出す。なんで? カップ麺にはまだ空間があったけど、本にはそんなもの存在しないだろ? 尻もちをついたことで、積み上げられていた段ボールに倒れ込んでしまう。突っ込んだ勢いで、段ボールを散乱させてしまった。
浅い呼吸を繰り返しながら、ゆっくり立ち上がる。こういうときに慌てるのはよくないだろう。意識してゆっくり動く。散乱した段ボールを元に戻すため、まるで地下室へ続く扉を開くような緩慢な動きで持ち上げる。いた。一目散に毛布を開いて一息に被り、うずくまる。なんで? なんでいるんだ? 深呼吸をし、気持ちを整える。息を深く吐く。そのときには、既に隣にいた。
記憶が曖昧だ。あの後、気絶してしまったのか?暗い毛包の中を見回すが、もう気配は感じなかった。
ほっとしつつ毛布から這い出る。何も見えない。夜になったのだろうか。部屋の構造はよく知っているため、危うげなく電気のスイッチを探り出し、押す。
電気が点いた感覚はあったのだが、なぜかまだ暗い。というか、何も見えない。意識的に瞼を開くが、視界は変わらない。いや、よく見てみると…?
風呂やトイレはどうしていたんでしょうか。




