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カタる傍  作者: 金艮
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古びた本

 私は幼い頃母親を亡くしており、父子家庭で私をここまで育ててくれた父親もつい最近亡くなりました。父は作家で、いつも書斎に籠もり執筆作業をしていました。私があまり本に興味を持っていないこともあり、どんな本を書いていたのかはわかりませんでした。私があまり手のかからない子どもだったこともあったのか、父はあまり私に干渉することはありませんでした。しかし、なぜか書斎に入ってはいけないことだけは度々忠告されていました。


 雨がしとしと降っていたある日。学校から帰ると、父は出かけていたようで、家には珍しく一切の気配がなく、少しの違和感を覚えました。そのとき、ふと、今なら書斎に入れるのではないかと思いました。そして、今までは全く興味が無かったのに、急に書斎に入ってみたくなりました。勢いのまま書斎のドアノブをひねると、意外にもあっさり扉は開きました。あんなに忠告してきていたのに鍵もかかっていなかったのは、今考えても不思議に思います。扉を開けると、やけに響く雨音が、家の静けさを際立たせているように感じたことを覚えています。


 珈琲の香りが漂い、視界に入ったのは、机と椅子、本が隙間無く収められていた壁一面の棚、収まりきらず床に積まれた本、机の上にあるまだ温かい珈琲、そして1冊だけ机の上にあった、真ん中辺りで開いていた本でした。私はなぜかその本に興味を覚え、見てみました。


 左側のページの最後の行に、1文だけ。「やっと読んでくれた」と。


 遺品整理をしたとき、あの本は見つかりませんでした。父にあの本のことを聞くことも、整理をするまで書斎に入ることもなかったので、あの本が何だったのかはわかりません。誰が書いたものなのか、どこで手に入れたものなのか。しかし、あの古びた本の色褪せさえも、忘れることはできないと思います。雨の音や珈琲の香りで、今でも思い出すので。





やっと読んでくれた

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