うろ標識
「そろそろ目的地?」
「たぶん…」
事の発端は数時間前に遡る。簡潔にまとめると、罰ゲームでこんなところに来るはめになった。怖いものが苦手な自分を面白がった友人達に、[うろ標識]があるとされる場所に送り込まれたのだ。それだけでなく、証拠として現地で写真を撮影するという任務を課せられた。達成できなければ世にも恐ろしい罰ゲームが待っているそうだ。いや、罰ゲームの罰ゲームってなんなんだよ。
「暗い山の奥にある、何も描かれていない標識。車が通れないような獣道にも拘らず、寂しげに1本だけ立っている標識がある。うろ標識。それを見た者は1人もいない…」
「変なこと言うなよ。目撃情報があるのに見た人が1人もいなかったらおかしいだろ。ただでさえ真っ暗でいかにも出そうな雰囲気なのに。」
「ごめんて」
唯一ついてきたこいつ。さっきからスマホでうろ標識の情報を漁っている。言葉では、流石にかわいそうだからついて行ってやるとか言っていたが、一番近くで驚く姿を愉しみたいだけに決まっている。
「遠回りしたら出てくるとか雨が降ったら出てくるとかいろいろ情報書いてあるよ」
「目的地もわからないのにどうやって遠回りすんの」
「それにしてもうろ標識ってどういう意味なんだろ」
「さっきから見てる情報にないのかよ」
「あったあった。表示がないから虚標識っていうのが一番有力な説らしい。」
「表示がない標識ってなんのためにあるんだよ」
「都市伝説に意味を求めんなって。ん?あそこになんかそれっぽいのあるじゃん。」
「うわっ、本当にあった。」
真っ暗で見えにくいが、近づくと確かに標識だとわかる。手に持っていた懐中電灯で照らす。暗いとわからなかったが、真ん中に腐ったような穴があいている。丸い標識だ。所々錆びていて、ほとんど元の色がわからないくらい劣化しているが、微かに白で塗装された跡を確認できる。
「これ?」
「もともと表示はあったっぽいな」
「なんの表示だったんだろ」
「どうでもいいからさっさと写真撮って帰ろう」
「怖がりすぎだって。これが本物かもわからないし、もうちょい調べようぜ」
可及的速やかに帰りたい自分に対し、友人は興味深そうに隅々まで見ている。こいつ、もしかして怖いものが好きだからついてきたのではなかろうか。そんな友人ごと標識を撮影する。これにて任務達成でいいだろう。
「はやく帰ろう。そろそろ帰らないと明日にひびく。」
「怖いだけだろ、大丈夫だって。 あれ、懐中電灯の電池なくなった?」
「何言ってんだよ。ずっと点いてんじゃん。怖がらせんなよ」
「いや点いてないって。真っ暗だもん。」
「ふざけてないでさっさと帰るぞ」
「あれ、何も見えない、」とまだふざけている友人に痺れを切らして近づく。
「いい加減にしろって」
肩に手をかける。
「何も見えん。そこにいるのか?」
そう言って振り返った友人。瞼の開き方的に、目を見開いているはずだ。それなのに、眼球があるはずの場所には、まるで真っ暗な洞窟のような穴だけがあった。
主人公は無事で良かったですね。




