国外追放を言い渡されましたわ!(嬉)
「流石は殿下ですわ……!」
自らの身を守るだけでなく、まさかこうして私を助けてくださるだなんて!
いえ、全くの偶然なのも殿下が頗る馬鹿であることもわかってますけれど!
賞賛せずにはいられません!
愚殿下万歳!!!!
──我が公爵家の裏稼業……それは暗殺。
闇ギルドを介しているので、王家も正体を知らぬ謎の粛清機関であり、この国の闇。
そして私に課せられた、初にして最も重大な使命が『第二王子殿下の暗殺』でした。
昔から我儘で金遣いも荒く、勉強嫌いな上に選民意識と自尊心だけは高い殿下。
ですが『馬鹿な子程可愛い』というやつなのか、陛下も王妃殿下も何故か甘やかす始末。
他のお子達がちゃんと育っているだけに、目が曇ってしまっているのでしょう。
そこにきて王命での私との婚約。
王家の方々にも疑われることなく、サックリ殿下を亡き者にする為にはうってつけ。
しかし、まだ人を殺ったことのない私です。
しかも婚約が結ばれた時は、幼児を抜けた程度の10歳。
当時から傍若無人だった殿下。
初対面時にイキナリ王宮内の人工池に無理矢理連れ出されたので、事故に見せ掛けて落とすチャンスだったのですが、私は緊張のあまり知恵熱を出しその場で吐いて倒れてしまったのです。
熱に浮かされた私に甦る、前世の記憶。
あろうことか、前世の私は平和な日本に生まれし一般人でした。
前世の記憶で得たのは、高い倫理観と愉快なサブカル知識。
……普通、前世の記憶ってもっと役に立つモノじゃないですかね?
殿下暗殺がお役目のガチ悪役令嬢たる私にとって、高い倫理観などハッキリ言って邪魔でしかないではないですか!
その上、吐いたことで殿下からは『ゲロッパ』という乙女としては甚だ不名誉なアダ名をつけられ、嫌われてしまいました。
それからも、前世の倫理観が邪魔して暗殺は失敗続き。
元々、ただでさえビビっていたのです。
いくらクソガキとはいえ、いたいけな少年を秘密裏に縊り殺すとか、ハードル高すぎな件。
どうせ『悪役令嬢』なら、『傲岸不遜なお嬢様』とかがよかった──っていうか『暗殺者』っておかしいでしょう。
何故にこんなハードボイルド人生を押し付けられねばならんのか。
理不尽さを感じずにはいられません。
しかも幸か不幸か殿下は、顔と血筋だけでなく、運だけはバリバリ絶好調によろしかったのです。
私がなんとかモチベを上げて殺ろうとする度に男爵令嬢と取り巻きを侍らせ(※鉄壁ガード)、予定外の(※潜ませた破落戸がいない)場所へ行くわ、『お茶(※毒入り)の約束をすっぽかす』、『プレゼント(※呪物)を売り渡す』などで暗殺を散々回避してくれやがりました。
歯噛みする反面、内心で安堵していたのは言うまでもありません。
しかし、『殺らねば殺られる』とひしひし感じる父の圧。
期限は刻々と迫っていました。
──そして、今に至ります。
「は~、自らやらかしてくださったおかげで殺らなくてすみましたわ!」
王命(※婚約)を無視した挙句の公爵家の娘を勝手に追放。
流石に、良くても廃嫡は免れません。
これで殿下の件はもう私の手を離れたことでしょう。
この追放は僥倖!
もう暗殺を請け負うのは真っ平御免です。
連れ戻される前に、さっさと逃げねば!!
「こうなると、ドレスではなく制服なのもラッキーですわね! パンプスとか、脱いで裸足とかどちらも地獄ですもの」
──ガサリ。
「はっ!?」
(魔物?! ……ならいいけれど、公爵家からの追手だったらどうしましょう!)
魔物は訓練で何度か殺ってますし、素材として売れるし食料にもなるのでむしろ『よっしゃーバッチ来い!』ぐらいのものですが、公爵家の手練や情のある家人だと最悪です。
身構えた私の前に現れたのは──
「ロンバート嬢! ご無事ですか?!」
「あ……貴方は……」
──誰?!
いやなんか見たことありますわね!!
残念ながら、即座に思い出せない方でした。




