プロローグ
馬車から降りたルシールを乱暴に、けれどどこか気遣わしげにエスコートする騎士は、少しばかり歩いて立ち止まる。
「……悪く思わないでくれよ、こっちも命令に従っただけだ」
バツが悪そうにそう言って、そそくさと森の入り口まで戻っていった。
まだ陽は落ちていない時分というのに薄暗いそこは、隣国との境界。
魔物が出現する瘴気に侵されし森──通称『魔の森』。
「……先程までの煌びやかさが嘘のようですわね」
そう呟く彼女が数時間前までいたのは、シャンデリアがキラキラと光る、王立学園大ホールだった。
「ルシール・ロンバート! 貴様との婚約を破棄する!!」
学園ホールで開かれていたのは殿下を含む卒業生の、卒業を祝い寿ぐパーティー。
ひとつ年下のルシールは在校生で裏方なので制服だが、参加する皆は一様に素敵なドレスやスーツを身に纏っている。
宴もたけなわとなった頃、ルシールの婚約者であった第二王子が突如壇上へと上がり、彼女との婚約破棄を宣言した。
ルシールはあまりのことに言葉も発することができず、竦み崩れ落ちそうになる足を、人知れず踏ん張るのがやっとという有様だ。
たたみかけるように、王子の傍らに立っていた男爵令嬢への執拗な虐めという冤罪から国外追放を言い渡され。
騎士様に囲まれた彼女は、そのまま馬車へと乗るように歩かされた。
馬車の中。
ようやく少し冷静になったルシールの脳内に過ぎったのは、先程の王子の言葉と、男爵令嬢が彼女だけに見せた嘲るような微笑み。
「嗚呼……! なんてこと……!」
とめどなく涙が溢れて止まらなかった。
「流石は殿下ですわ……!」
──ただし、歓喜の。




