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俺、男爵の見解を聞く

「あにゃ」


 美味しそうに蕎麦を食べてたピナレラちゃんが片手で口元を押さえた。

 一本だけ歯抜けになってる上の前歯の犬歯から、食べたものをこぼしかけたようだ。


「ピナレラ。お口の中のもの飲み込んだら、ちょっとお口開けてみて」

「あい」


 しばらくもぐもぐして食べかけの蕎麦を飲み込んだ後、ユキりんの言う通りあーんと大きく口を開けている。

 ユキりんはじーっといろんな角度からピナレラちゃんの口の中を覗き込んでいた。

 はて。何してんだべ? ちゅーは許さんぞまだ早い!


 ユキりんの片手に鮮やかな紫色の魔力の塊が現れる。と思ったら、小さな爪ほどの透明チップに変化した。女性の付け爪みたいなやつだ。

 それをそーっとピナレラちゃんの歯抜けになった部分に当てると、透明チップはぴたりと歯の間にフィットした。


「応急処置だけど差し歯を創ってみたよ。どう?」


 かつて両親と乗っていた馬車の事故で犬歯一本か歯抜けなせいで、ピナレラちゃんは滑舌がいまいちだ。

 いつもの舌足らずな口調、あれは可愛い幼女アピールでもあり、そうでなくもある。


「すごい。ちゃんとかめるよ、ユキリーンちゃ!」

「うん」


 おお。差し歯効果でサ行もしっかり発音できるようになっている!


「あ。とれたった」

「まだ改良が必要かな。でも乳歯だしやっぱり大人の歯が生えてくるまで待ってたら?」

「ユキリーンちゃがいうならそうしゅる」


 また元に戻っちまってら。

 いやそんなことより。


「男爵。あれって」

「魔法樹脂だね。高度な魔法だよ」


 男爵に借りっぱなしの魔法大全にも載ってた魔法だ。魔力で創った透明な樹脂で、武器防具やああいう差し歯、骨や軟骨の代替品なども自在だとか。


「あの。ユキりん……ユキリーンのこと、男爵はどの程度ご存じですか?」

「うーん……ユウキ君、後で私の執務室に来てくれる?」




 夕飯の後、言われた通り男爵の部屋に向かうと分厚いアケロニア王国の貴族名鑑を渡された。


「前も言ったの覚えてる? 人物鑑定スキルだと初級でも善人か悪人かの区別がつくって」

「はい」

「それ以外に悪人だとね、魔力に濁りがあるように見える。ユキリーン君はどうだい?」


 さっきピナレラちゃんに魔法樹脂の差し歯を創ったときのユキりんの魔力の色は……


「澄んだ紫色でしたね……」

「それが答えさ」


 ついでだからと男爵はユキりんの扱いへの考えを教えてくれた。


「実はユキリーン君からは、自分のことを王都の中央には報告しないでくれって頼まれてるんだ。私も国から任された領主の責任があるからずっとは無理だって言ったんだけど、なら半年でいいからって」

「理由はなんて言ってたんです?」

「それも言ってくれないんだよね。でも予想はつくだろう?」


 そうだ。ど田舎村で助けられたときからユキりんには秘密が多い。

 ただあの子の言動から読み取れることもまだ多かった。


「例の奴隷商ですか。たしかギルガモス商会。でもそこから逃げてきたなら、早く実家に帰りたいんじゃ」

「うーん。そこは、彼の一族を知ると知らないとで見解が分かれるところだねえ」


 聞けば、男爵は王都の学園に通ってた十代のとき、ユキりんの実家の本家筋の嫡男や親戚数名と同級生だったそうで。

 髪と目の色は違うが、今のユキりんによく似た麗しの美少年や美少女たちだったそうだ。


「普通ね、奴隷商にあんなまだ子供が囚われて逃げてきたなら怯えて口も聞けなくなるよね。で、ユキリーン君はどうだったか覚えてる?」

「ああ……。怪我して消耗はしてたけど、ガクブルはしてなかったですね。あれ? ということはもしかして」


 俺は一つの可能性に気がついた。


「もしかしてユキりんって」


 ど田舎村に留まっているのは自分を再び捕らえに来るだろうギルガモス商会を待っているのだろうか?


 でも何のために? まさか自分から捕まりたいわけじゃねえべ?


「その貴族名鑑でリースト一族の項目を読んでみるといい。彼はまだ子供でも間違いなく魔力使いだからね」




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