表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/208

俺、焼きおにぎりに秘密兵器

「でもこの芋煮、ちょっと作る量多すぎませんか。残ったら持ち帰るんですか?」

「ああ、それなら大丈夫」


 家から持ってきたキャンプ用のステンレス鍋は五人用。俺たち三人で食いきるにはちょっと多めの量を作ってしまった。

 だが、心配は要らない。芋煮だから。


「お、木炭に火ぃ入ったな」


 金属製のトングで、かまどとは別に石で小さな囲みを作っていた中へ、赤く熱した炭をぽいっと数個放り込む。

 上に金網。家から持ってきた塩抜きの三角おにぎりをのせて焼いていく。

 炭火は火の通りが早い。片面数十秒ですぐ焼き色が付いてくるので、調理用のミニトングでひっくり返してプラボトルで持ってきた醤油タレを振りかけていく。醤油に煮切ったみりんを少し混ぜたやつだ。

 家でやるならハケでじっくり繰り返し塗って染み込ませるがアウトドアだしな。


「わああ……いいにおい!」

「まだだ。こいつの本気はこんなもんじゃない」


 香ばしく焼ける米の匂いに、ピナレラちゃんばかりかユキりんまでソワッソワッとしている。

 両面を軽く焼く。焼き色が付いてきたら醤油タレを振りかける、を何度か繰り返して全体をこんがり焦げないよう気をつけながら焼く。

 焼けたら、持参していたクッキングペーパーを四つ折りした中に焼きおにぎりをイン。自作バーガー袋みたいなもんだ。


「おにいちゃ! はやくたべたい!」

「まあ待てピナレラちゃん。今日はとっておきがあるんだ」


 素早く荷物の中からジッパー付きの小袋を取り出した。中に入っているのは――イワシの削り節。カツオ節みたいな燻製ではないが乾燥させたカタクチイワシをそのまま細かく柔らかく削ったやつだ。

 焼きおにぎりに、ふわふわのイワシ削りをたっぷりのせて完成である。


「二人とも、熱いから気をつけてな」

「あい!」

「はい!」


 もう俺のことなど見ちゃいない。焼いてる最中から焼きおにぎりに夢中だった二人はさっそくかぶりついている。


「「!」」


 家でばあちゃんがグリルで焼いた焼きおにぎりなら、もう二人とも経験済みだった。

 しかし炭火でこんがり焼いたやつは今日が初体験。そして秘蔵のイワシ削り節も今日が初公開だ。


「おいちい……おくちのなかがおいちいい……」

「……お代わりください。あと二個ぐらい」

「あたちももういっこ!」


 よし。今日もピナレラちゃんのおいちいをたくさん貰って俺は満足だった。

 ユキりんも食欲旺盛で何よりだべ。まだまだ細っこいので早く肥えるがよい。俺と同じ年になる頃にはムキムキになれるぞ。


 先に二人のリクエスト分の焼きおにぎりを焼いて渡してから、俺も自分の分を焼いて食った。

 まず熱々のところをはぐっと一口。ふわっと飛び散るイワシ削りにむせながらも、醤油とお焦げとイワシ削りの旨みの塊と混然となったこれ……これこれ!

 焼きおにぎりとイワシ削りの組み合わせは、会社員時代の社内バーベキューで他部署のお局様に教えてもらったものだ。食べ歩きが趣味の人で、観光地で食べて美味しかったもの上位に入るらしい。

 ふつうにカツオ節でも美味いんだが、イワシ削り節のほうが美味い。圧倒的に美味い。俺的にも過去食べた焼きおにぎりの中で間違いなく首位を争うほど美味い。

 イワシ削り節自体が出汁の材料だ。それを丸ごと薄く薄くふわっふわに削ったものを選ぶのがコツだ。口の中に入れたとき、口当たりがよくすぐ溶けるように旨みがじわあ……となるのが良い。


 そこに芋煮の汁をずずっと。……あああああ。うま。何もかもが美味い、もなかの自然の恵み最高!

 そろそろ、日本で買っていた食料に期限間近のものが増えてきた。このイワシ削り節もだ。使いきりに近いうちに男爵の屋敷で村人たちと芋煮会……良いな!


 ピナレラちゃんとユキりんも頬っぺたを薄っすらピンクに染めて美味そうに食っている。

 はあああ~うちの子たちが今日も可愛い。この笑顔がユキ兄ちゃんの生きがいだっぺ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作と同じ世界観の「聖女投稿」書籍化しました!

3rejgvgtg6xwk5vsljj3a8cu7uds_14dw_v9_1ag_1djj1.jpg
→→ アルファポリス版「聖女投稿」作品ページ(別窓)
(※出版社の規約により、なろう版削除、アルファポリスでのみ続編連載中です)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ