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その頃の???~side王都のとある男爵家

 私はアケロニア王国、魔法の大家リースト一族の傍系男爵家当主、リースト男爵ユキオン。


 王都に屋敷を構え、ご本家のリースト伯爵家を支えながら愛しい妻と子供達に囲まれる幸せな日々を過ごしている。

 そろそろ六十の大台だが、まだまだ元気だよ。何せ私と妻の間には息子四人、娘二人の六人の子供たちがいる。一番下の息子が成人して結婚するまでは、まだまだ現役一択さ!


 だが。そんな私の幸せはある日、突如ぶち壊されることになる。


「お、お父さん。ユキリーンがまだ帰ってこないの」


 夕食にはまだ少し早い時刻、執務室で書類仕事を片付けていた私のもとに、一番上の子供で長女である娘が恐る恐るやってきた。

 ドアの外を見れば、他の子供たちも中の様子を窺っている。


「またか。あの子ももう中等部の二年生だ。どこかで寄り道でもしてるのだろう?」


 ユキリーンは私たち夫婦の末息子だ。すでに成人している者もいる他の姉や兄たちとは年齢が離れていて、今年まだ十四歳。

 私や妻はもちろん、上の子たち皆で溺愛する可愛い可愛い末っ子だ。


「多分、違うと思う。……その、道に落ちてた学園のカバンを届けてくれた人がいて。中に、こんな手紙が」


 娘の震える手から開封済みの手紙を受け取った。

 中には便箋が一枚、書かれているのはたった一言だけ。



『偽物は消えます。探さないでください』



「どうしよう……どうしよう、お父さん。ユキリーンが家出しちゃった」


 泣き出した娘を前に、私まで途方に暮れそうになった。

 末っ子ユキリーンは最近、反抗期を迎えて私たち家族と距離を取ることが多かった。それは確かだ。

 だが、まさかこんな手紙を残して家出するほどだとは……


 後にその手紙は本人の筆跡を真似た偽物だと判明したが、当のユキリーンはまだ戻ってこない。

 一日経ち、二日経ち、三日経ち、一週間が経過しても帰ってこない。


 私たちは焦り始めた。ご本家では数年前に直系のご令嬢が誘拐されたばかり。しかもお嬢様の消息はいまだ不明のまま。

 私や家族の頭には、末っ子の行方として最悪の可能性が浮かび始めた。


 既に本家の伯爵家にも報告し、王都の騎士団にも行方不明届けを提出してさらに数日後。私たち家族は驚愕の事実を知ることになる。




「ユキリーンが学園でいじめられていた、……ですか?」


 既に家を出て結婚していた子たちも呼び寄せて、家族会議を行うことになった。

 特に一番ユキリーンを可愛がっていた三男が愕然としている。この子は魔法と剣の腕が際立っていたので学園卒業後は近衛騎士団にスカウトされた。王族の警護が仕事のはずだが末っ子の危機に一番に飛んで帰ってきたようだ。


 ユキリーンの置き手紙が偽物だと判明する前から、私は末っ子の最近の行動を配下に調査させていた。

 ようやく報告書が上がってきたと思ったら、まさかの学園でのいじめ判明だ。


「待て、理由を今から話す。良いか、落ち着いて聞くのだぞ。……落ち着いて。良いな?」


 家族にくどいくらい念押ししてから、私は報告書を読み上げた。


「ああ、ユキリーン! 私などに似せて産んでしまったばかりに……!」


 妻はその場に泣き崩れた。


 我々リースト一族は、偉大な進化した種族(ハイヒューマン)を始祖に持ち、世界屈指の高い魔力を持つ一族だ。

 今の王族より古いルーツを持ち、一族は青銀の髪と薄いティールカラーの瞳、白い肌と麗しの美貌を持つ。

 この特徴は世界中どこの国や民族を探してもリースト一族しかいない。


 我がリースト男爵家も、私を始めとして息子三人、娘二人は同じ外見的特徴を持っていた。同じ美貌が一家に六人、なかなか壮観なものだよ。私の自慢の子供たちだ。




 ところが末っ子のユキリーンだけは違った。

 顔は同じだ。麗しの美貌はリースト家のもの。

 ……ただ、髪と目の色が、母親である妻譲りなのだよね。我が最愛の妻と同じショコラブラウンの髪とアメジストの瞳。


 私はずっと、密かに妻に似た子供が欲しかった。だからユキリーンが生まれたときはどれほど嬉しかったか。

 何せ先に儲けていた五人の子供たちは私の複製品みたいなリースト家の特徴しか出なかったからね。


 子供たちも大好きな母親に似た色を持つユキリーンをやっぱり可愛がった。

 

 だけど、そんな私たちのユキリーンが。学園で。


「『リースト一族なのに父や姉、兄たちと違う色合いだから、母親の不貞の子』そう言われていたのですか? 俺たちのユキリーンが?」

「顔は私たちにそっくりだから、ほとんど言いがかりだな。あの子は優秀だから、やっかみ半分だろう」


 私たちは、ここ最近ずっとユキリーンから距離を置かれていた理由を知った。

 反抗期ではなかった。学園で同級生たちから言いがかりをつけられて、そのことで悩んでいたのだ。


「どうして。相談してくれれば……」


 子供たちの一人が呟いた。だが言えなかったのだろう。言えば自分に髪と瞳の色を授けた母親を悲しませるとわかっていたのだ。あの子は優しい子だからね……




 それから妻や娘たちは泣き暮らした。

 この父と兄たちも途方に暮れたが、例の三男だけがアクティブだった。


 まずユキリーン行方不明の話を知るなり近衛騎士を辞めてきた。同世代で一番の出世頭なのに未練もなにも残さずに。

 その足で末っ子をいじめた同級生たちの家全部に殴り込みに行って、ぶん殴って反省文と『二度と同じことはやりません』『以後の人生は善い人間になります』と誓約書を書かせ、破ると天罰が落ちる神殿誓約を結ばせてきた。


 ついでに親たちから慰謝料もぶん取ってきた。すごくたくさん。相手も自分の子供がリースト一族に喧嘩を売ったと知って恐怖に慄いたようだ。相場より高い金額を自ら提示してきたそうな。

 リースト一族は身内の結束が強い。こと愛する者を傷つけられたときの苛烈さは歴史にたびたび名を残すほどだ。今回の件ではご本家も彼らの家に対して動くはずだ。

 そりゃ怖いだろうね。魔法剣で串刺しにされるより慰謝料を支払ったほうがマシだ。


 三男は特に、いじめの首謀者と実行犯らには念入りに報復したようだ。

 ……相手、うちより家格が上の伯爵家と子爵家の子息ぞ? ああそうか、だから王族に侍る近衛を辞めてきたのだと私たちは知る。


 ……三男の行動を皮切りに家族も変わった。


 社交が苦手だった子たちも積極的に学園時代の伝手を辿って、ユキリーンの行方を探し始めた。

 我が家は分家で血が薄い分、魔力の低い子が多かったが、魔法や剣の腕を磨くため同じ王都のご本家に願って修行に力を入れ始めた。

 

 妻はユキリーンのいじめを知った日から体調を崩して寝込みがちだ。


 父の私はといえば、ひたすら金策に走って末っ子の捜索に注ぎ込む毎日だ。

 うちは男爵家だからあまり目立つと他の貴族に目をつけられる。だから何ごとも〝ほどほど〟を心がけていたのだけど、――もう抑えることはせず事業でも投資でもとにかく収益の最大化に努めた。

 利益はそのままユキリーンの捜索費用に。


 そうしてひと月後、ようやく掴めたユキリーンの情報は。




 悪名高い奴隷商、ギルガモス商会に囚われたとの報告を最後に消息が途絶えた――



 



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