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俺、親父から御米田家の秘密を聞く

 数日後の夜、俺はタイのバンコクに移住していた両親が一時帰国したことを知った。両親からスマホにメッセージが来たのだ。

 もなか村の神隠し事件を知り、また俺からの連絡で、もなか村ごと異世界転移した話を受けてのこと。


 その日の夜、異世界転移してきて初めて、俺は元の世界からの電話を受信した。発信者は――『御米田ゲンキ』。俺の親父だ!


『ユウキ。事情は私も把握している。とにかく母さんを頼む』


 低い落ち着いたバリトンの美声がちょっと途切れ途切れでスマホから聞こえてくる。

 俺と同じ田舎っぺのくせに、まったく訛りのない標準語。久し振りに聞いたが親父のこれは本当に不思議で仕方がない。もなか弁をどこに置き去りにしてきたのだ。


「もちろんだ。ばあちゃんも村長も勉さんも皆、元気でやってるよ。俺もな」


『よりによってその二人も一緒か……』


 親父の声はどこか思案げだった。


 通信状態が安定していたので、それからしばらく俺と親父は情報交換をし合った。

 そして案の定、元カノから振られたことや退職の経緯を揶揄われた。誰だ親父に垂れ込んだやつは! 両親にはばあちゃんが心配だから会社辞めたとしか言ってなかったのに!


『みどりさんだよ。お前のことをとても心配していた。早く日本に帰国しろと飛行機の手配までしてくれてね』


 お社長か! ……なら仕方ねえっぺ。

 あのおばちゃん、うちの親父が大好きだからな。親父を見てると過ぎ去った甘酸っぱい青春を思い出すんだそうだ。よくわからん。


『ユウキ。お前がどんな女性を選ぶにせよ私も母さんも受け入れるつもりだった。だが一つだけお願いしていたね?』


「……田舎の墓の維持と、ばあちゃんを大切にしてくれる人」


 二つだが、切っても切れないことなので実質一つ。


『そうだ。東京で結婚して定住するにしても、その二つだけは必ず婚前契約書を作成しろと念押ししていたね? で、お前を振った女性はどうだったんだ?』


「……多分無理だったと思う。田舎が嫌いな女だったから。ほら、ばあちゃんちのトイレ、ボットン便所改だったろ? それ言ったらもう話聞くのも嫌だって態度された」


 その頃にはばあちゃんちでは衛生的なバイオトイレもどきに改修してたし、手入れが嫌なら俺がやると言ってもダメだった。


『別に母さんの家に同居する必要はない。東京にいたままでも、定期的に母さんの様子を見に行ってくれるだけでも良かったんだ』


「……その辺の話はおいおいするつもりで……いたらプロポーズ前に捨てられたわ……」


『親の贔屓目だが、お前は私たちの自慢の息子だ。相手のお嬢さんは見る目がなかったのだね』


「そう、なのかな……」


 親父の低く穏やかな声が沁みる。父親らしい思いやりのある声に、ちょっと涙が滲んできた。

 十代の頃は反抗もしたが、親父に肯定されるとすごく自分の男としての自信が満たされる。こういうとこ親はずるいと思う。




『そういえば母さんからもう聞いたか? 御米田家のこと。そちらの異世界は母さんたちの故郷だと』


「……なんだって?」


『まだ聞いてなかったか。まあ今度私たちが帰国したとき家族会議でお前に話そうと思ってたのだが』


 親父から聞かされた事実にべっくらこいたのなんの。

 俺たち、元々異世界にルーツのある家だった。しかも王族。この国、アケロニア王族だ!

 道理で男爵もこの村の人たちも親切なわけだよ。黒髪黒目が~って最初の頃から言ってたし、あの頃から彼らは俺たちの素性を把握してたんだろう。


 ついでに、なんで日本のもなか村がこの、ど田舎村と繋がったかも判明した。

 お互いの土地は昔から微妙に次元が歪んでいて、もなか村は祠、ど田舎村はダンジョンで時折繋がっていたんだそうだ。


「それを早く教えてくれよ……」


 もっと早く知ってたら、ネット掲示板にスレなんて立てなかったぞ……?

 俺が立てた『村ごと異世界転移したけど質問ある?』スレは住人たちが張り切って、日本国内や海外の神隠し伝説まで網羅する勢いだ。

 有志が情報まとめサイトも作ってくれて、そちらで日々情報が更新されている。

 ……世の中に超常現象が溢れていることを知って、夜中に一人でトイレに行くのがちょっと怖くなったのは内緒だ。扉を潜ったらまた別の異世界に飛ばされでもしたらどうしよう……


 あとなぜか『異世界幼女を見守り隊』なるスレがいつの間にか立っていた。

 待て、俺はそんなスレ立てを認めた覚えはないぞ!?


 最後にまた『母さんを頼む』とばあちゃんを託されて、親父からの通話は切れた。

 昔からそうだが親父の包容力というか、見守ってくれてたらなんとでもなると思える自信と安心感を付けさせてくれるの、変わらないなあ。


 ともあれ、異世界の秘密だ。ばあちゃんに聞こう……と部屋を出たら居間の電気が落ちていた。もう寝ちまったか。ユキりんも自分の部屋に戻ったようだ。


 じゃあ村長と勉さんだ。俺たちもなか村の四人はスマホのメッセージアプリのグループを作っている。

 そっちに、親父から話を聞いたぞ、詳しい事情説明してけろと。




 翌朝、村長からメッセージが来て、朝飯食って田畑の手入れをした後で男爵家に皆で向かった。

 そこで、昨晩親父から聞いた話の詳細を教えてもらった。


 俺たちが王族の血を引くこと。ばあちゃんなんて昔神隠しにあった本物のこの領地のお姫様だった。

 それを一緒に聞いていたユキりんが青ざめて、俺たちに跪いてこれまでの非礼を詫びてくるハプニングなどもあったが。


「お、王族の方々とは知らず、無礼な態度を取ってしまいました……お許しください!」


 ひいい、やめてけろ、お前はかしずく配下じゃなくてうちの次男! 御米田ユキリーンだべ!?

 あと別に無礼でもなんでもない。俺はまだユキりんはツンデレのツン期だとちゃんとわかってるっぺ! 会社いたときの元後輩も似た感じだったので!


「ユウキ君はもなか村の次期村長なんだろう? なら、ど田舎村の村長に就任してくれないかい?」


 王族の血を引くといっても、立場を確立するには時間がかかる。今の王家との調整も必要だ。

 男爵の提案に俺は乗った。領主の男爵の部下になるが、一村民のままより村長のほうが使える権限が大きいし、村ごと転移してきたもなか村の土地や建物も自由にできるからだ。


「村の運営から成り上がるタイプの異世界転移……有りだな!」


 呑気に考えていたが、ど田舎村があまりに快適で優しい世界だったから俺は肝心なことを忘れていた。


 ユキりんはどこから逃げてきた? ――奴隷商からだ。

 この村には何が出没する? ――ドラゴンみたいな魔獣や魔物だ。

 そもそもユキりんは奴隷商に捕まる前はどこにいた? ――まだまだ俺には教えてくれそうもない。


 平和など田舎村のスローライフを満喫する俺は、皆に不穏な影が忍び寄りつつあることに気づかないまま『ど田舎村の新村長オコメダ・ユウキ』となったのである。



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