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その頃、日本では~side元後輩、お社長と一緒にファミレスオフ再び

 取引先のみどり社長からスマホにメッセージが来たのは、翌週のことだった。


『食事会の次の日、夕方からファミレスどうね?』


 待ってました!


 オレは速攻で社内の御米田派閥グループに情報を流した。

 ファミレスのテーブル席は四人がけが多い。この間のオレを含めた四人と、お社長で五人。……テーブル席もう一つ使ってあと三人いけるな。

 当日の会話は口外厳禁と約束させて、オレを入れた七人でお社長とファミレスオフ再びだぜ!




「あちし、心はいつまでも乙女なつもりなのよ。まさかお勧めコールガールを教えろなんて言われる日が来るとは思わんがった!」


 みどり社長はファミレスに現れるなり憤慨して、やはりフレッシュワイン赤をがぶ飲みしていた。

 お社長……八十神の野郎は嫌いだが、初見であなたを女と見破れるのはユウキ先輩のパパさんぐらいだったんでしょ……?

 むしろパパさんが何者なんだ……


 みどり社長によると、前日の夜に東銀座の料亭でうちの会社からの接待を八十神とその上司から受けたそうだ。

 その席でお社長を見た目通りのオッサンと勘違いした八十神は、下ネタ連発してタイの女の子事情や、コールガールつまり娼婦いるオススメの店なんかを聞いてきたらしい。


 ブルルルッ。オレは自分の下半身が震えるのがわかった。き、恐怖でキン○マが縮み上がる震えだ。

 怖ええ……八十神、あんた初接待でなんてこと取引先に聞いてるんだ。お社長が男だったとしてもアウトじゃないか? いや相手によっては有りなのか?


 まずは注文だ。ワインやビール、ドリンクバーを各自注文し、グラスが揃ったところで乾杯。サラダやポテト、チキンなどから順に注文していく。

 テーブル席に人数ぎっしりなのでピザやパスタ、スイーツを食べたい人はまた後ほど。


「あんな、あんだだちの会社がタイだけ支社持っでない理由知っとる?」


 おもむろにお社長が言い出した。オレたちは皆で顔を見合わせたが誰も知らない。

 うちは上場こそしてないが戦前からの古い総合商社で、アメリカ、ヨーロッパ、中国はもちろんそれぞれ主だった都市に支社がある。

 東南アジアはシンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナムにもある。タイだけなぜか、ない。そこが弱みだった。


「東南アジアのハブのタイに支社持つのはあんだだちんとこの創始者一族の悲願だあ。んだが先代社長のドラ息子が最初にタイ支店設立すんでってバンコクに駐在しどっだとき、酔っ払って現地の女の子を襲っだの」


 え。性犯罪ってこと? さすがのお社長もここは声をひそめてくれたので、他の客の視線は突き刺さらずに済んだ。

 この人、空気読めないわけじゃないんだよな。


「一応、合意の上だで話だけんど。場所が悪がっだ。王宮近くの高級店で、何人も政府の高官が来どっだ」

「………………」

「すーぐ警察さ呼ばれて大事よ。しがも酔っ払っだドラ息子がタイ王室のあるごどないごど口走っで、牢屋から出られなぐなっだ!」

「うっわあ」


 タイは王様のいる国だ。王様や王族の悪口を言うとふつうに捕まる。観光ガイドにも注意がちゃんと書かれている。


「そごでドラ息子を助けで、支社の引き上げだけで済まぜでやっだのが、あちしのお父ちゃん。だがらあんだだちのお社長は今でもお父ちゃんや娘のあちしに頭が上がんねえ。わがる?」


 この話の流れ。オレたちはお社長が何を言いたいか察した。


「あちしの可愛いユウキ君を退職に追い込んだ、あん男。確かにええ男だっだけんど、ありゃ駄目だあ。一人でタイには行がせちゃなんね」

「……やっぱりタイに欲しかったのはユウキ先輩だったんですね」


 あの人、女の趣味は最悪だけど、その手のおかしな間違いは絶対やらないんだよな。

 社内イベントでバーベキューやったときも、酔っ払って「あーん歩けなーい、ユウキ君、タクシーで送ってえ~」なんて女の子の誘いも平気でかわして女の子と同じ部署のお局様にバトンタッチしてた。やるう。


「そんだ。だけんどまだユウキ君も若い。支社長にするには理由がいる。あんだだちの会社がコンペやっだのは間違っでねえ」

「出来レースといえば出来レースですけど」

「ユウキ君とあの八十神って男。二人揃っであちしがバンコクで後見しでも良かっだんだあ」

「……その二人揃って、会社とみどり社長の思惑ぶち壊しちまったんスね……」


 きっかけは八十神のパクりだったかもだが、ユウキ先輩の突発的な退職もいろんな方面に迷惑をかけている。


 特にオレだ。社内でロボットアニメ主要全作を語れるオタ友なんてあんたしかいなかったのに……!

 オレんちで飲み会したとき、うっかりパーツを間違って壊しちまったプラモデルの話をして嘆くオレに、話を聞いたその足で近所の百均行って専用接着剤買ってささっと直してくれたときは神かと思ったわ。

 ビシッとオレのコレクションに最高のポーズを取らせた上で、地震でも崩れないよう固定までしてくれた。

 なんなんだあの人、何やらせても器用にこなしやがる。惚れるしかないわ。


 ラノベの異世界ものやチーレムものや可愛い幼馴染みとのラブコメでだって、あんなに熱くアフターファイブのファミレスで語り合ったじゃないスか!

 ……ロリものは食指が動かなかったようですけど。どちらかといえば巨乳派スね。そこは相容れねえ。


 休日の社内バーベキューで燻製の作り方やダッチオーブンの使い方を教えてくれながら、コミュ障ぎみでぼっちになりがちなゆとりのオレを誰が人の輪に戻してくれるっていうんスか!(涙)


 ……世話になったのと同じくらい、口の聞き方がなってねえって尻をぶっ叩かれましたけどね。


「結局、八十神のコンペ企画盗用は証拠不十分で不問ってことになったみたいです」

「そうだか。タイ支社の話もお流れにさせだ! 次の機会は五年後か十年後か……」


 オレの補足に、お社長はミートソースのドリアを豪快に喰らいながらも思案げだった。 




「あちしんち、ご先祖様のお墓があの子の故郷にあっでなあ」

「もしやご親戚でしたか?」

「馬鹿言うでね! そっだらあちしもイケメン顔でなきゃおがしいべ!?」

「お社長、自分で言ってるし」


 どっと場が笑いで弾けた。お社長もゲハハハと馬鹿笑いしている。


「知ってるべ? 今話題の〝もなか村〟」

「「「「ああ~!」」」」


 もうユウキ先輩が現代の怪奇事件、『もなか村の異世界神隠し事件』の中核人物なことは知れ渡っている。

 不思議とあの八十神と元カノさんは知らないんだよな。事件そのものはいま世の中でホットだから知ってるようだけど、ユウキ先輩の故郷だと理解していない様子だった。

 所詮、どっちも先輩への興味なんてその程度だってことなんだろう。


 みどり社長はもなか村に住んでたわけじゃなかったそうだ。

 でも盆暮れの墓参りのとき家族ぐるみで挨拶する程度の顔見知りではあったらしい。


「あちし、あの子大好きなんだあ。あの子、初めて会ったときあちしを見て何で言っだと思う? 『怒らないで聞いてけろ。おばちゃんとおじちゃん、どっちだ?』て。怒らねて! ちゃんと聞いでぐれだほーが、あちしだって嬉しんだがら!」


 そう。このオバサンは元から田舎のイモ顔だが、それを逆手に取ってわざと演歌歌手崩れの小汚いオッサン演出をしてる節がある。

 それで初めて会う他人が困惑するのを楽しむ趣味の悪いお人でもあった。八十神も洗礼にあったようで何よりですな。


 ただし、前にユウキ先輩が「鼻毛は切ったほうがいいですよ」と言ったら「東京もバンコクも空気が悪いがらゴミ吸わねえようにっで鼻毛伸びるの! あちしだっで好きで伸ばしてるわけねえべ!」とお社長を半泣きに追い込んでいた。

 まあそこで先輩も「みどり社長もですか!? 俺も最初に東京来たときは伸び伸びで学校でいじめられましたよ〜。仕返しに油性ペンで鼻毛描いてお揃いにしてやりましたけど!」とか言ってた。


 ……こいつら同類なんだなとオレは思ったもんスわ。陰キャのオレとは人種どころか出身星まで違うんじゃないのってぐらい。

 ちなみに鼻毛を描いてやった同級生とは今でも友達らしい。……この人の強キャラっぷりは正直他ではお目にかかったことがねえっス。

 鼻毛カッターはドラッグストアで売ってるから買ったほうがいいっスよ……




 ともあれ、初めてお社長とユウキ先輩がもなか村で会ったとき、互いの家族と一緒に撮った写真があるそうで。

 オレたちはお社長がデカい本革の手帳から取り出した、ラミネート加工され大切にしてることがわかる写真を見せてもらった。


 写真の中は家の居間のようだ。壁際にこたつとちゃぶ台を立てて退かして、畳の上に全員が立った集合写真だった。

 みどり社長は旦那さんと高校生ぐらいの男の子二人。

 ユウキ先輩はご両親と祖母、それに叔父夫婦と同い年の従兄弟。

 先輩と従兄弟さんはどちらもお揃いの暖かそうなもこもこトレーナーに半ズボン姿。あどけない顔で笑っている。四歳ぐらいかな。


「うっわ、可愛い……! これ男って知らなかったら幼女じゃん……!」

「そんだ。同じ東北ど田舎モンだっちゅうのにね。あちしは小汚えイモ顔、あっちは涎出るほどかわゆくて男前に育っだ。世の中不公平だっぺ!」


 しかし何より、その写真には気になることがあった。


「ユウキ先輩のパパさん、デカいっスねえ!」


 見た感じ190はゆうに超えてる。同じように写真を見ていた女性陣たちからキャアッと黄色い声が上がった。

 冬なのかな。もっさりした紺色のはんてんを羽織った、三十手前の短い顎ひげの男性だ。


「ンッフフフフフ……これがあちしのお気に入りのパパしゃん! ええ男だべ?」


 先輩とよく似た黒髪黒目のパパさんは、先輩にはない目元の色気がすごい。別に流し目なわけでもないのに男のオレでもゾクっときた。

 あと全身から滲み出る只者じゃない感が半端ない。写真からでもわかるぐらい覇気がすごい。


 なんていうんだろう。世紀末でも征服するのかなって印象。人相がいいから怖い感じはしないんだけどね。

 確か外資の、目利きで有名なバイヤーだったらしいス。




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