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俺、炊き込みご飯で酒を飲む

「はい、お皿よけてけれ」


 至福のローストドラゴンに舌鼓をうつ途中で、ばあちゃんが台所から大きな土鍋を持ってきた。

 俺はすかさずちゃぶ台の上の皿を退かして鍋敷きをセット。こういう手伝いは子供の頃からやってるから慣れたもんだ。


 ぱかっと開いた土鍋から居間いっぱいに広がる香ばしい米と出汁、醤油の香り。――五目炊き込みご飯だ!

 ばあちゃんの炊き込みご飯は本当に絶品である。そもそも、もなか村の〝ささみやび〟で作る炊き込みご飯ぞ? 間違いないやつだ。

 今日の五目炊き込みご飯はローストドラゴンがあるからか、鶏肉抜きのゴボウ、ニンジン、干し椎茸、こんにゃく、油揚げで五目。


 俺たち酒飲みの男三人もこればかりは後回しにせずいただくことにした。

 東北の炊き込みご飯なので味は濃いめだ。具も多めで、主食とおかずを兼ねた一品として作られている。

 つまり、――酒の肴になる。


 土鍋炊きの醍醐味、お焦げのできた炊き込みご飯をまずは一番幼いピナレラちゃんへ。次はユキりん。

 うちは昔から子供優先の家だ。俺も子供の頃はどんなときも、飯もおやつも一番先に配膳されていた。子は宝、この伝統はぜひピナレラちゃんとユキりんにも引き継いでもらいたい。


 最初こそ箸が使えずスプーンとフォークで食べていた二人だったが、数日で箸の使い方を覚えて今では器用に使いこなしている。若さゆえの学習能力だなや。


「ほれ、ユキちゃん。飲め飲め」

「あ、どうも。村長と勉さんも」


 酌にお返しにと、日本酒〝最中(もなか)〟をグラスになみなみと。


最中(もなか)飲むの久し振りだなあ」


 ぐいっと一口。……飲み込んでさらに一口。

 軽い。一升瓶のラベルを確認すると普通酒だ。それでなんでこの軽い飲み口になるのか相変わらず不思議な酒だ。

 ちゃんと日本酒の味がするのに水みたいに軽やかな口当たり、飲み心地。吟醸や大吟醸の華麗さとはまた別方向の爽やかさがある。

 度数が一般的な日本酒と比べて低いわけでもない。もなかの酒はかつて「悪酔いしない酒」として有名だったと聞く。


 そこに五目炊き込みご飯をばくっと大口開けてもぐもぐと。……くう、日本酒と干し椎茸の出汁がよく出た炊き込みご飯のマリアージュよ……!

 ベースの出汁はばあちゃんが肉なしの炊き込みご飯によく使う昆布だ。仏壇にお供えすることも考えて、精進料理ふうに動物原料を使わずまとめているのだ。


「おばあちゃのごはん、みんなおいちい! しゅき!」

「……美味しいです。あの、後でお代わり欲しいです」


 ピナレラちゃんも満面の笑顔だし、ユキりんに至ってはちょっと恥ずかしそうにお代わり予約までしている。ええのだ、子供はたんと食って肥えるがよい。

 ばあちゃんは自分の料理を美味しく食べてもらうのが大好きだ。ニコニコで目尻が下がっている。




「男爵んとこに一瓶分けてきた。これで最中(もなか)は最後だあ」

「……そっか。もなかの酒もついに終わりなんですね」


 かつては皇室や全国の有名神社や寺に献上や奉納していたほどの、銘酒〝最中(もなか)〟。

 うちはばあちゃんがあまり飲まない人なので、酒蔵が最後に愛好家たちに日本酒を頒布したときも遠慮して家には備蓄もしてなかったそうだ。

 昔はみりんも作ってて、買ってたのはもっぱらそっちのほう。


 そこで勉さんがぽつりと。


「……もなかの酒、もしかせんでもここの水なら作れるんじゃなか?」


 チェイサーに俺が朝に汲んできた湧き水を別のグラスに注いで、しげしげと薄っすら光るさまを見ている。


「昔はもなかの水も、ここまで顕著じゃなかったけんど光っとった。試してみるべ」

「酒米はどうするんです?」

「見てみろ」


 勉さんがポケットから小さな布袋を取り出して俺に放って来た。中身は白い粒々、米だ。


「これ、ど田舎村の米ですか?」

「んだ、心白がある。酒米代わりになる」


 ど田舎村にも米があるのは、異世界転移してきた俺たちの歓迎会を男爵が開いてくれたときのメニューに出て来たので知っていた。

 心白は酒米に特有の、中心にあるデンプンが多く含まれる部分だ。食用米にはない特徴で、日本酒はこの心白だけを残して削って使う。


『あたち、それきらいなの……ぼそぼそしてやー』


 ライスサラダを見たピナレラちゃんの言葉が思い出される。

 デンプン質の多い米は当然、洗って冷たくして食べるライスサラダだと普通の食用米よりぼそぼそ固くて舌触りが悪くなる。


「ユキちゃんや。麹菌や酵母は保存してあるんだ。やってけらいん?」




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