元カノが怖すぎて、鈴木がグッジョブだった件
俺も八十神も、あの異世界アケロニア王国の人間がベースらしい。
今日はこの後、夕方から都心の同じ場所に出かける予定があった。その前に目的地近くのカフェで待ち合わせていたんだ。
もろオカルトやスピリチュアル系の怪しい話題を話すだろうから、店内の端っこの席を取って、声をひそめて話していた。
「今の地球人はエネルギーが低いことで有名だと聞いていたんだ。だから、元々の〝八十神アキラ〟の目的からズレたらどんなことでもいい。エネルギーチャージする設定になっていた」
「それがお前の〝本体〟が仕掛けた設定か?」
「そう。君も多分同じはずだけど……お互い、付き合う人間が悪かったね」
ここで初めて俺は、元カノ野口穂波が〝エネルギーを奪う〟タイプの人間だと聞かされ、驚いた。
「マジかよ。そりゃ確かに、あの子と付き合い始めてから貯金は減ってたけど」
「ゲンキさんやみどりさんはわかってたみたいだよ。あれは〝さげまん〟タイプだなって言ってた。君にもたびたび忠告してたけど、話を全然聞かないから半分諦めてたって」
「げ。親父とみどりさん……。ああ、そういえば」
二人から、特に親父からは野口穂波と交際してからほとんど田舎に帰省しなくなったことを、かなりきつめに注意されてたっけ。
いや俺だってちゃんと田舎やばあちゃんのことは考えてたんだ。でも彼女が水洗トイレもないど田舎は無理だって言うから……
「鈴木君情報だと、彼女、叔母が霊能者で縁結びのおまじないを僕たちにかけてたらしい」
「おまじない? 何だそりゃ」
「異世界の呪術ほどではないけど、効果はあったようだよ。君、そして僕。なかなかいい男を彼女、捕まえたじゃないか」
「自分で言うかよ、八十神」
まあ確かにこいつは、今どきの女の子が好きそうな綺麗な顔した優男だ。
俺だってまあまあ自分は悪くないイケメンだと思ってる。わりと仕事できるからお買い得だったはず……だべ……?
くそ、そういえばあの子からは一方的に捨てられてたっけなあ……ションボリする。
八十神はセカンドバッグから、アルミホイルの塊を取り出し、コーヒーを飲んでたカフェのテーブルに置いた。
パッと見た感じ、おにぎりでも包んだみたいな大きさだ。中を開くと、黒や茶色の割れた石の欠片がいくつか入っている。
「う。何だこれ」
「穂波ちゃんが〝おまじない〟に使った媒体さ。鈴木君が彼女から話を聞いて、捨てると言うのを貰ってきたらしい」
「あいつはほんと、何やってんだ? ……これ、ちょっと……」
「気持ち悪いだろう? 異世界に行ってあちらの魔力に触れてきた君ならわかるんじゃないかな」
わかるも何も。見るだけで何か、テンションが下がる。何の呪物なんだよ。
「勇者のセイバーは持ってるかい?」
「ああ。お前の言う通り、持ち歩くようにしてる」
あ、なるほど。セイバーで石を浄化しろってか。
カズアキが持ってた、魔王のお姉様カスタムのペンライトは20色近いLEDのカラーバリエーションがある。
カチッとスイッチを入れて、赤や青、黄色など色々光らせて石に浴びせ、試していく。
……ネオンイエローはウパルパ様の魔力の色だよなあ。あのお方の魔力は虹色キラキラにも光ってたけどさ。
「お。薄緑色が当たりか」
「蛍石の緑色だ。この色は……聖女様の伴侶の魔力だ」
「聖女様って……既婚者かよ……」
まだど田舎村にいたとき、カズアキに真実を告げるため使った王様の大剣、最後の魔石を媒体に現れた女性がいた。
赤い軍服を着た、健康的でナイスバディのお姉さんだった……
石の欠片に薄緑色のLED光を当てると、光が石を包んで幾何学的な模様が出てきた。
「お、おお……?」
映画でよくあるホログラムみたいな光景に、思わず声が出た。
薄緑色の光は石を包んだまま、次々と光の角度と模様を変えて、やがて消えた。ほんの十秒ほどのことだ。
「うん。呪いの効果は消えたみたいだ」
「呪いって」
「聖女様の伴侶は、魔法や魔術の構造を見抜くのが得意な方でね。……でもカズアキ君がそのセイバーを入手した時期と、時代が合わないんだよね……」
石の欠片を摘まんで八十神が呟く。呪いって。やっぱりそういう類いだったのか……怖かっぺ……
時代が合わないは俺も気になってた。あの赤い軍服の聖女様は、王様や竜殺しのべっぴん、勇者君と同時代の人間だ。
そもそも、俺やカズアキからして、ど田舎村に百年前の時代に現れたわけで。
……まあ深く考えても仕方がないか。
「御米田、防御機能がありそうな光はセイバーにあるかい?」
「ある。聖女様のネオンレッドだな」
今日はこの後、SNSで話題になってたスピリチュアル系のセミナーに二人で参加する。
エネルギーが大切なことや、風水的な土地の力のことを解説してくれるそうで。
俺たちの目的と合致しそうだからと申し込んだら、八十神も一緒に行くと言い出して、今日はカフェで待ち合わせしていた。
俺はセイバーをカチカチ操作して、真っ赤な光を出した。
八十神に向けて、魔法使いが杖を使うように軽くクルクルと回した。俺にも同じように。
「結界」
周りから見たら何をしてるかわからなかっただろう。ちょっとふざけて良い年の大人がおもちゃを振り回して遊んでるような図だ。
だが俺たちの目には、身体の表面を薄っすらと赤い光が三重になって覆っているのが見えている。
「こんなんやって、どうするんだ?」
「まあ、この後行けばわかるよ」
結界が必要だってことか……?