俺、親戚のおじちゃんポジション
それから俺は、夢見の術が解けるまでずっとユキレラ君と一緒にいた。
実際には二週間ぐらいかな。隣町の学校に通っていたユキレラ君と待ち合わせて、男爵に頼んで少し貰った金で、喫茶店で駄弁ってからど田舎村に戻ってくるを繰り返した。
父親が再婚して、義母と義妹のいる家に帰りたくなさそうだったユキレラ君。可能な範囲で時間潰しに付き合っていたともいう。
彼と話して知ったのだが、どうもユキりんは、自分が王都のリースト一族出身だとは子供や子孫たちには明かさなかったようだ。
ユキレラ君も自分の容姿がリースト一族に特有のものだと知らないまま。ど田舎領はアケロニア王国の最果ての北の僻地だから、王都が本拠地になってる他のリースト一族とは全然会ったことがないらしい。
そもそも、貴族といえばど田舎領の領主様しか知らないと言うし。
一応、その件について今のブランチウッド男爵に確認したんだが、ユキレラ君の容姿からどこかの貴族の末裔なのは薄々理解しているものの、詳しい出自を把握はしてないそうで。
……こりゃ、ユキりんは当時の男爵と話を合わせてるなと。だから俺も下手なことを彼に言うのは控えた。
代わりに、親戚のちょい悪おじさん的なポジションから、いろいろ悪知恵を教え込むことにした。
とはいえ大したことじゃない。ど田舎村みたいな閉鎖的で小規模の場所で、どう息抜きするかのアイデアだ。
ユキレラ君は学校に通うため平日は毎日隣町のど田舎町に行くから、ここで友達を増やして時間を潰せばいい。そんなことだ。
「ユキレラ君は学校卒業したらどうすんだ?」
「ど田舎町で仕事が探せればいいんですけど。でも、田舎ですからね……雇われ仕事はあんまり」
少し話してわかったが、ユキレラ君はものすごく頭がいい。どちらかといえば寡黙だから気づきにくいが、一を聞いて十を知るの典型タイプだ。
けど自分が魔法の大家リースト一族の血を引くと知らないから、魔法も使えなければ魔法樹脂も使えない。せめて出自が明らかになれば、王都に出れば引く手数多だろうにな。
ただ、あのユキりんの血を引くだけあって、妙に不器用な性格をしていた。
あの後輩鈴木とはまた違ったベクトルの不器用さだ。人生諦めてる様子はないけど、どう自分の中に燻ったものを解放したらいいかわからない様子。
さすがにまだ十四歳じゃ独り立ちはできない。十八までは学校に通う文化があるから、その後は仕事に就くなり結婚するなり。
俺がアドバイスしたのは単純なことだった。
「できるだけ顔、売っておけ? ど田舎村は皆知ってるだろうけど、せっかく隣町の学校まで毎日通ってるんだからさ。ど田舎町でもたくさんの人と仲良くなれ」
学校なら同級生だけでなく他の学年の生徒たちとも。教師はもちろん、校長や副校長みたいなお偉いさんとも挨拶するところから。
そんな他愛のない交流を続けていたらユキレラ君は学校の同級生に彼女を作って、放課後は一緒に勉強したり、彼女の家に遊びに行ったりするようになった。
……うん。この麗しの顔で落ちない女はいねえっぺ。
彼女のできたユキレラ君は、もうど田舎村の祠の裏手で隠れるように昼寝しなくてもよくなった。
そろそろ俺の余計なお世話も役割を終えそうだなと思った頃、夢見が解けて現実へと戻ることになった。
「おじちゃん、あんた身体透けてますけど?」
「時間切れだ。元の世界に戻らねえと」
ええと、ええと。何か言い残すことは……
「あ。あの魔法樹脂の塊とオルゴール、中身ごと王家に献上してって男爵に伝えてけろ」
「……なして?」
「百年後、必要な人たちの手に渡るべさ」
王様とか。竜殺しのべっぴんとか。勇者君とかだ。
上手くいけば、王様たちと日本にいる俺とで通話できるかもしれない。