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俺、甥っ子(?)との対面

 俺を伯父さんと呼んだその子――ユキレラ君は、昼寝していた祠の影から出て、墓地を指差した。


「うちの村のもんは、あんたが戻ってきたら何をどうするか、代々受け継いでるんです。まあ大雑把にですけど」

「今の男爵にも話は聞いてきたよ。いろいろ話が早くて助かる」


 俺が帰還したときに備えて簡単なマニュアルがあると聞いて驚いた。

 大雑把にだが、もなか村のことや、異世界転移でど田舎村に戻ってきた、ばあちゃんたちかつての王族のことを伝え聞いてるという。


 その後、ユキレラ君の案内で墓参りすることになった。

 元々ど田舎村にあった王族の墓に、ばあちゃんや勉さん、村長の名前が石碑に刻まれている……


「で、こっちがおたくの弟や妹の墓。俺の曾祖父母ですかね」

「………………っ」


 こっちの異世界の文字で、個人の名前が二つ並んでまた別の墓石に刻まれている。


 ――ユキリーン・オコメダ

 ――ピナレラ・オコメダ


 その名前を認識した途端、俺は息が詰まった。


 俺は間に合わなかった。二人の元に戻れなかったんだ。

 わかってはいた。けど、実際こうして目の当たりにすると、もう……


「え。ちょっと、大丈夫なんですか?」


 億劫そうに、ちょっと面倒そうにユキレラ君に声をかけられた。

 けど俺は返事ができない。

 人は、本当にショックを受けると顔も身体も固まって、泣くこともできないと身をもって知ったのだった……




 俺は墓石に縋りついて泣くようなキャラじゃない。

 でも、俺の感覚だとほんの数ヶ月前に別れたばかりのユキりんとピナレラちゃんが、もう土の下にいる。


 墓石はこっちの国の文化のものだ。日本のものと形が違う。形だけなら西洋のキリスト教圏の墓が近い。

 墓は、御影石を濃いグレーにした感じの石で作られている。二人が継いでくれた〝オコメダ〟家代々のものとして建てられており、隣に故人の名前と没年が彫られていた。


 名前の後に刻まれた没年を見て、また息が詰まった。

 先に亡くなったのはユキりんだ。まだ中年期だろって早い年。ピナレラちゃんは六十頃まで生きてたようだが……


 俺は後ろで待っててくれたユキレラ君を振り返った。しかしちょっとだけ申し訳なさそうな顔で首を振られる。


「すいません。ひいばあちゃんは、オレが物心つく前に死んでるんで。記憶に残ってないです」

「……そっか」


 俺は二人の墓石に両手を合わせた。

 ごめん。すぐに戻れなくて本当にごめん。


 何度夢見を行っても、俺は二人やばあちゃんたちがいたあの時間軸には辿り着けなかった。

 今後も試してみるつもりだが、……可能性は低いんだろうな……




 墓参りを終えて、さてどうするか。

 

「あ。そういえば、あんたが戻ってきたら渡すもんがあったはず。男爵様のお屋敷へ行きましょう」


 とユキレラ君が言うので、二人でてくてく墓地から歩いた。

 田舎の広い土地を徒歩で。そこそこ距離があるので、俺たちはいろいろ話をした。


 ユキレラ君は複雑な家庭環境のようだ。


「最近になって親父が再婚したんです。子連れ同士の再婚で、オレ、新しくできた妹と合わなくて」


 父親は隣町に仕事を持ってて出勤中。母親と連れ子の義妹ちゃんは家にいるらしいが、関係が微妙でユキレラ君は家に居場所がないらしい。


「なんだ、だから祠の裏手で昼寝してたのか?」

「うちにいると義妹がうるさくて。あそこ、屋根もあるから時間潰すのにいいんですよ」


 聞けば年は十四歳、別れたときのユキりんと同じだ。ちょっとグレかけてるが、不良まではなってない。

 そもそも、ど田舎村は不良化できる場所じゃない。みーんな顔見知りの村社会だもんな。実際、今も男爵の屋敷へ歩きながらも、村人たちが声をかけてきたり手を上げてきたり。

 ……めちゃくちゃ見守られてるじゃないか。やはりここは良い村だ。


「まあそれ以外にも理由があります。オレ、母親にも父親にも似てないんですよ、髪や目の色も違うし」

「へ? そうなのか?」


 話を聞いて驚いた。この子は実の両親も、祖父母も容姿の系統がまったく違ったようだ。

 つまり、子孫はユキりんじゃなくピナレラちゃんの因子のほうが強く受け継がれたことになる。


「オレは一応、ひいじいさん似だって言われてますけど……でもひいじいさんもこんな髪と目の色はしてなかったって」

「あー……それは」


 ユキりんも、そういえばそのことで悩んでたっけ。家族で自分だね母方に似た髪と目の色で、学校でいじめられたとかなんとか。


「お前はその曾祖父さんの父方の先祖返りだべ。そう聞いてないか?」

「さあ……そうだといいんですけど」


 それから俺がどれだけ、こいつの曾祖父にあたるユキりんのことを説明しても、ユキレラ君は本気にしてくれなかった。


 確かユキりんは王都の男爵家の出身だったはず。この様子だと、ユキりんは実家とは縁遠いままでど田舎村に根を張ってしまったんだろう。


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