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日本に戻って来てからのこと

「俺、異世界に戻りたいんだ」


 戻ってきた日本で、再会した親父に俺は頭を下げた。

 親父は俺そっくりの顔で、仕方ないなあって表情で、俺の黒髪をがしがし掻き回して来たのだった――




 日本に帰還した後、判明したことがいくつかある。

 まさかの八十神の正体が異世界人だった……!

 例の夢の王様の側近で、夢見の術を利用して地球人をやっている、との設定らしい。


 ほんとこの夢の話は正直よくわからない。

 だってその話で行くと、俺も俺なのか? という根源的な疑問を考えなきゃいけなくなる。


 その八十神は、俺の元勤め先でもあった総合商社を退職して、みどり社長の会社へ転職していた。

 それなりにこき使われてるようだ。はは、みどりさんはイケメン好きだからなあ。弄られるがいいさ。


 異世界転移する前の俺の個人情報や資産はちゃんと残っていたから、また元の生活をするのは難しくなかった。

 というより、虎視眈々と狙っていたみどり社長に、八十神と同じように引き取られた。

 みどりさんの会社では不動産部門に配属された。全国にある、会社所有の土地や建物を管理するお仕事だ。

 会社から出張費を貰って仕事しながら、異世界転移の謎を解けという話らしい。


「あちしのご先祖様のお墓だけでも取り戻しでぐれ!」


 ……そうだ。もなか村に俺たち御米田家と同じく、先祖代々の墓を持っていたみどりさん。

 彼女の米俵家の墓の数々も、異世界転移したアケロニア王国に残ったままなのだ。




 日本では俺のいない間に、親父、八十神、みどりさん、それに元後輩の鈴木の四人で異世界研究会が発足されていた。


 けど不思議なことに、俺が日本に戻ってしばらくすると、世間はすっかり東北もなか村の消失事件を忘れていた。


「世界が、次元の歪みを修正したのだと思う。御米田、君ちょっとアケロニア王国から写真や情報を流出しすぎてたよ。それも含めてだろうね」

「ああ……ネット掲示板に投稿してたっけ……」


 八十神の見解を聞かされるも、世界の仕組みはやっぱりよくわからない。


 そのネット掲示板は今も丸ごと過去ログが残っている。かなり盛り上がっていたのに、今じゃ世間は誰ももなか村や俺について取り上げない。

 まあ普通にその辺歩いても後ろ指を差されることもない。それは助かったか。


 世間では、もなか村の消失事件はそもそも〝なかった〟ことになった。

 世界が補正したともいうし、違う世界線に移動したとも言えると八十神が言う。


「元々世界はそんなに確固たるものじゃない。特に僕たちは夢見の術を用いて、地球に来てるわけだし」


 だが、元々もなか村の村民だった俺や、墓地に墓のある縁者たちだけは覚えていた。

 俺の両親やみどり社長もだ。

 親父は、異世界に残ったばあちゃんや墓のことは諦めていた。


 けど資産家のみどりさんは別だ。自分のルーツを失いたくないと、少しでも墓を取り戻せる可能性を信じて、異世界に戻りたい俺に支援してくれることになったのだった。




 日本に戻って来て判明したことをまとめると、


 カズアキは前と同じように、高一の冬に事故死した。

 でも前と比べると、毒母の悪影響から自衛できてたと本人の日記で確認できた。


 バイトの帰り道にサイ◯リヤが開店して、そこで月二ぐらい、ラノベ新刊を読みながらピザ食って帰るのが至福だったらしい。

 ……それを読んだ俺はもう号泣だ。自分ひとりが家族の出前ピザからハブられて悲しんでいたカズアキは、もうどこにもいなくなったんだ。


 カズアキは遺品に、女魔王が改造した大量の魔石入りセイバーを遺している。

 これは俺がそのまま預からせてもらうことにした。




 鈴木がカズアキの弟だと判明した。

 もっとも知らなかったのは俺だけで、親父やみどりさんは最初から知ってて連絡取り合ってたという。


 その鈴木とカズアキの……例の母親、俺にとっては叔母にあたる人は、金銭面のトラブルで息子の鈴木と揉めて鈴木を殺しかけたそうだ。

 人目の多い銀座だったからその光景を撮影されて、駆けつけた警察官に逮捕される。すぐ釈放されたそうだが、激怒した実家のお兄さんに地方の、山奥の保養施設に送られたそうだ。


「もうすっごく厳しいとこだそうですよ。監獄並のセキュリティがあって、伯父の許可がないと絶対出られないやつ。ほんとざまぁっスわー」


 もなか村に戻って来た後、俺は迎えに来てくれたみどりさん、八十神と一緒に親父が帰国していた東京に来ていた。

 そこで鈴木とも再会した。久し振りのサイ◯リヤでピザを摘まみながら、現在までの鈴木や毒叔母の話を聞かされて。


 ……こいつも波瀾万丈な人生だよなあと、ワインを飲みながらしみじみ嘆息した。


「異世界からこっち帰ってくるとき、お前が叔母さんと争ってるとこを見たんだ。カズアキが助けに行ったと思うけど……会えたか?」

「あ、やっぱりあれ、お兄ちゃんだったんですね」


 弟の危機を見て、カズアキは元の時代に戻る前、この時代の鈴木と母親の諍いの現場に降り立っていった。

 俺とはそれっきりだ。けど鈴木によると、銀座の歩道橋から落ちかけた鈴木と母親を助けた後、通行人に通報させたんだと。


 そっからは警察署に母方の伯父さんと弁護士を呼び、東京にいた俺の親父も呼び……

 身内の問題ってことですぐ釈放された叔母さんは、もう自宅に帰ることも許されずに、そのまま保養施設行きとなったんだとさ。


「歩道橋の上が暗くて顔はよく見えなかったんですよね……でも〝オサム〟って名前呼んでくれる口調が子供の頃と同じで。……オレを助けに来てくれたんだ。嬉しかったですよ」


 そう言う鈴木は、なんかすっかり毒気が抜けていた。

 いつも細目で眠そうな、見るからにやる気のなさそうだった顔は、目がぱっちり開いて別人と化していた。

 はああ……薄い弥生人顔だと思ってたけど、なかなか顔立ちの整ったイケメンになった。あの毒叔母も顔は美人だったからな。母方に似てたのか。


「オレも異世界、行ってみたいんですよね。カズアキお兄ちゃんが活躍した世界なんでしょ?」


 そんなことを言っていた鈴木だが、その後すぐに勤め先の総合商社から辞令が出て東南アジア出向が決まった。


 それに合わせて、俺の無事を確認した親父も、お袋が残っているバンコクに戻っちまった。


 俺は東京でみどり社長の社宅を借りて、半分仕事、半分異世界研究を八十神と一緒に行なっていくことになった。




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