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第一章

1



絶望の眼差しで見つめる真っ黒な瞳には

同じく絶望した表情の自分の顔が反射していた。


彼と自分、どちらの瞳から先に涙が溢れるだろうか。





走れ。とにかく走るんだ、あの場所まで______。






私は目が覚めたこと、現実に引き戻されたことに驚きつつも

なんとか肩で呼吸を整えた。



普段ならばこの夢を見る時は途中で現実の世界に帰ってくることはできなかった。

普段とはいっても定期的に見る夢ではあるが数年に一度だ。


このまま眠りに入ればまた夢の続きを見そうでベッドから抜け出した私は

琺瑯の白いケトルを火にかけた。


最後の一袋のノンカフェインのドリップコーヒーをマグカップにかけながら考える。


久しぶりにあの夢を見た。今回は何年ぶりだろう。

初めてあの夢を見たのは17歳の時だった。

初めて見るはずの夢なのになぜか結末までわかっていた。

それ以降、数年に一度変わらず同じ夢を見続けていた。

何度も途中で目を覚まそうとしたけど無理だった。

なぜ今日は目が覚めたのだろう。別に目覚めようとしたつもりもなかったのに。


沸騰したヤカンの火を止めてスウェットの袖口を伸ばしてミトン代わりにケトルをつかむ。


コーヒーの香りが一瞬にして周囲に立ち込める。

カップから出る湯気の向こうで壁にかけてある時計は2時を回っていた。


ひたひたにお湯を注いで薄く仕上がったコーヒーからフィルターを引き上げる。


「まりなの淹れるコーヒーってさ、コーヒー好きな人から怒られそう。」


突如懐かしい声が脳内に響いた。

ラムネがパチパチと弾けるような声。

反射的に瞳の瞳孔が広がるのを感じた。



はぁ…早く飲んで寝よう。

今ここで彼女のことを思い出したくない。


窓際まで歩いて行くとリネンカーテンの向こうで月明かりに照らされた彼女が外からこちらを見上げて手を振っているような気がした。










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