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かえりみち  作者: 以下同文
9/12

脱出

なんでホラー小説なのに戦闘シーン書いてるんだろ?

 時間は後どんくらいだ?


 時計を見ると18時50分いくかいかないかだったが、いつゲームオーバーになってもおかしくない状況のため自分も早いところ扉を抜けたいと考える。

 

 後は俺だけだが、さっき飛ばされた時に立ち位置が変わって化け物(あいつ)が扉の前にいやがるんだよなぁ……。

 

 勢いよく立ち上がったはいいものの壁にぶつかった時のダメージで膝が震えている。

 全身の骨が悲鳴を上げており、左の視界も何かぼやけている。

 軽く手で拭うとヌルッとした感触と共に赤黒い血が付着する。

 

 あぁー、頭切れて血が出てるのか。 早いところ全部終わらせて……風呂……入りてぇなぁ。


 しかしこの状況、満身創痍にも関わらず、自分でも驚くくらい頭は冴えており関係ないことを考える余裕すらあった。

 理由はわからないが人生の中で今が最も集中できているかもしれない。

 加えて、化け物はこちらを警戒しているのか立ち上がるまでの間追撃を入れず、様子を窺っていた。


 ……警戒してる? こんなふらふらの人間にそりゃ悪手だろ。

 

 警戒して様子を伺っている化け物に対して、挑発する。


「お前形が変わって、図体もでかくなったのにこんなもんかよっ! びびってんのか? なっさけないなぁ、少し力が増したかもしれんがご自慢の爪もなくなったみてぇだし、あのままの方がよかったんじゃねぇの?」


 化け物が言葉を理解しているかはわからないがコケにされていることは伝わったのか、雄たけびを上げながら触手を振りかぶる。

 

 くるっ!


 腰を落とし身構える、同時に化け物が両方の触手を勢いよく伸ばしてきた。

 思ったよりも速かったが目で追えないほどでもなかったので、身を投げ出すように前斜めに前転する。

 一瞬遅れて先ほどまで自分がいた場所を触手が叩くように通過していった。


 へぇー、化け物でも驚くことあんだな。


 避けられたことが意外だったのか、一瞬固まる化け物。

 そのタイミングを逃さず、転がった勢いで起き上がり1歩、化け物の方に近づく。


 ……まずは、1歩目。


 すると今度は戻した触手で薙ぎ払おうとする。


「させるか、よっ!」


 薙ぎ払う予感がした俺は、持っていたもう一本のトレッキングポールを化け物の顔の上側に当たるよう投擲した。

 この行動に不意を突かれたのか化け物は反射的に向かってくる獲物を払う。

 上の方に投擲したおかげで薙ぎ払いの軌道もわずかに上にそれる。

 それた拍子にできた人一人分が屈めるくらいの隙間に体を潜り込ませてさらに化け物の方へ近づく。


「……助走つけて殴れるとこまで来たぜ。 覚悟できてんのかぁおい」


 この間わずか1分と立たず、先ほどまで開いていた距離もわずか4メートル程度まで縮まった。


 ……まずは一発だ。 一発思いっきり決めたら隙をついて扉の方まで全力で逃げる。


 時計の進む音と街灯の電球が焼ける音だけが聞こえてくる。

 それ以外は、その場にいないのではないかと思わせる静寂が数秒続いたのち、こちらから攻める。


 一度左にフェイントを入れながら右側に鋭く切り返し距離を詰める。

 対して化け物は接近されるが嫌なのか触手を再度突き出してぶつけようとするがフェイントに釣られ狙いが甘くなった。

 紙一重で触手を回避した俺は変形した右腕を力一杯握り締め化け物の腹を思いっきり殴る。

 しかし返ってきたのはゴムを殴る様な鈍い弾力で大して有効打にならない。


 化け物が捕まえてこようとするのを感じたのでバックステップで距離を取り、仕切り直しの状態に戻る。


 ……耐久上がってるのかよ。

 

 一方、化け物の方は始めの不意打ち以降攻撃が当たらずフラストレーションが溜まっているように感じる。

 こうした応酬が数度行われ、時間は18時53分を回った。

 いくら集中しているからといっても相手の攻撃はほぼ一撃必殺、その攻撃を全て避け続けるのは神経をすり減らす行為である。

 そのせいか、時間はほとんど経過していないにも関わらず早くも息が上がる。


 しんっど! でもいい感じにイライラしてきてるみてぇだな。 そろそろ行けるか?


 チャンスは一度切り。

 これまで攻撃のみ集中してきたのでこちらが攻撃してくる意識を刷り込んだ。

 次の攻撃は囮で、再度攻撃と見せ掛けて意識を逸らし一気に扉を狙う。


 後もうひと押しについても考えはあるがうまく行くか……。


 リスクとリターンはもはや天秤にかけるまでもなかった、やるしかない。

 タイミングを見計らって横から回り込む様に攻める。

 化け物はこれまでと違った行動に虚を突かれたがすぐに警戒を強め迎撃体勢に入った。


 「おせぇ!」


 助走を十分につけると化け物へ向かって飛び上がりながら殴りかかる。

 化け物も負けじと上から鞭の様にしなる腕を振り下ろす。


 そこだっ!


 化け物が、自身の腕で正面が見えなくなる時を狙っていた。

 ジャンプフェイントの要領ですぐさま重心を下に向け、地面に着地、助走の勢いを殺さないように化け物の股の下からスライディングして通り抜ける。


 うまくいったぁぁああ!!!


 一瞬正面が見えなくなった化け物は俺を見失い、腕に伝わる肉を打つ感覚がないことに戸惑う。

 

 一瞬、その一瞬があれば十分だった。

 化け物の背後にある店内に侵入できた俺はすぐさま立ち上がると背負ったリュックを上に放り、まだ空いている扉に向かって最後のスタートを切る。

 

 俺が扉に着くのが速いか、化け物(お前)が触手で俺を捕まえるのが速いかスピード勝負だ!

 

 扉まで後4メートル。

 さらに一歩足を前に突き出す。

 そこでようやく自分が抜かれたことに気づいたのか背後から殺意が膨れ上がる。

 

 後3メートル。

 後ろは見えないがゾッとする様な悪寒が走るが振り向かない。


 後2メートル。

 悪寒が増す。

 ヤバい……駄目か……と思う。




 急にドサっという音と共に悪寒が消えた。

 なんとか無事、扉にたどり着いた俺はそのまま扉の中に飛び込んだ。


「やった、やったぞぉおおお!!!!」


 嬉しさのあまり両手(もろて)を挙げ力強く叫ぶ。

 すると一拍置いて後ろからドンっと大きな音がなったので慌てて振り返る。

 そこには化け物から伸びた触手が扉の前で見えない壁によって弾かれた音らしい。

 どうやら伸びた触手の上に先ほど放ったリュックが落ちてきて当たり、こちらに届くまでの時間を少しだけ稼いでくれた結果、間一髪扉に着くことができたみたいだ。


 一か八かの保険が役に立ったな……。


 化け物も諦めず、再度こちらに触手を伸ばしてくるが見えない壁の様なものに阻まれて扉の先までは届かない。

 化け物から戦闘中に何度も聞いたどのように発しているのか分からない声が聞こえてくる。


『まテぇ゛ お゛縺セ縺だけ縺ァ繧 道連れにシ――』


 っ?!

 

 ここにきて急に相手の言葉が断片的だが聞き取れるようになっていた。


 おーおー、怖いこった。 何で聞こえる様になったかは知らねぇが、聞こえているなら都合がいい。

 これまでの恨み、まとめて返させて貰うぜ。


 俺は、高らかに笑いながら宣言する。


「ははははははっ。 俺の勝ちだ…………あばよ!!!」

 

 最後に化け物に向かって舌を出し、中指を立てる。

 同時に足元の感覚が薄れ体が重力に従って落ちていくのを感じながらそこで意識が途切れた。

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