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かえりみち  作者: 以下同文
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奪還

遅くなりすみません!!

なんでもするので許してください!

 油断したっ!

 

 考えるよりも先に追いかける。

 必死に手を伸ばすがわずかに届かず、壁に到着する前にはすでに風太は壁の中へ引きずり込まれていた。

 

 こちらが見ているということは相手からも見えているとは誰の言葉だったか……。

 

 あの全身黒い化け物が交差点を曲がって行くのを見送り、さてどうしようかという時に背後から襲われた。

 あいつは誘っていたのだ。

 この広大な場所で自分たちが探索している周辺で毎回わざわざ姿を晒す必要はない。

 つまり、探索するたびに俺の前に現れたのも、先ほどの探索で止まっているように見えたのもこちらの様子を伺い、油断するのを待っていたのかもしれない。



 完全に俺の失態だ。


 初めは未知の状況や得体の知れないものに恐怖したが、観察することである程度行動パターンも見えていた。

 帰り道になりそうなヒントも見つけて、自分たちなら大丈夫だとそうした考えが気を緩ませ、今回のことに繋がってしまった。


「くそっくそっ……くそっくそっくそっくそっくそっ!」


 悪態をつきながら壁を殴る。

 化け物がここから立ち去ったということは、目の前にあるこの扉が正解である可能性が高い。

 対して化け物は壁の中を移動できるので、探すにしても時間やリスクが大きすぎる。


 ははっ……そうだよ。 あの化け物がどこに行ったのかも分からねぇのにどう探せっていうんだ。 それに元々は風太とも知り合いでもなければ、始めは警戒していたじゃないか。


 目の前にあるものは自分が狂おしいほどに求めた出口かもしれない。


 目の前の扉を開けてくぐれば全部終わる話じゃないか。 どうせなら扉を開けてどうなっているか確かめるだけしてもよいのでは……。

 

 都合の良い言い訳を探しながら自分だけでも逃げようか、そんな甘い考えが一瞬よぎる。

 しかし、風太は連れ去られて壁に引き摺り込まれる直前なんと言っていたか。


 (にいちゃ!!!!! にげっ――)


 遠ざかる声と同時に発した言葉が思いとどまらせる。


 ……風太のことだ、きっと自分を置いて逃げろと言おうとしていたことは予想がつく。

 自分はあれだけ理不尽な状況にあって、トラウマ植え付けられて、遠慮して、我慢して、連れ去られる時でも相手のことを思いやっていた。

 そんな子を置いて逃げるのか、短いながらも風太と過ごした時間がそんな考えを押しつぶした。

 

 馬鹿か俺はっ! そんなことは絶対になしだ。 そこまで人間の屑になり果てた覚えはねぇよ!

 

 あの怪物に対する怒りが、それと同じくらい自分に対する怒りが沸々と湧いてきた。

 自分の頬に一発拳を入れる。

 鉄の味がじんわりと口内に広がって行くが気にはしてられない。


「数分無駄にした! 約束したからなぁ、さくっと助けに行かねぇと!」


 まずは、状況を把握するためこれまでの情報を整理する。


 商店街は広場から東西南北にそれぞれ同じ広さの通りが広がっている格子状の構造になっていた。

 化け物は、壁の中を移動して別の壁に出ることができるが、この場所の構造上、通りを無視して反対側の建物に移動することはできないはずだ……。

 ……つまり、別の店の壁に潜るためには一度通りに出て横断し、別の店に入る必要があるってことか。


 影の中から出た時のやつの移動速度は遅かった。 今から全力で走れば追いつけるだろ!


 次に、風太をどこへ連れ去ったのか。

 これについても一つ当てがある。

 恐らく化け物は扉へ連れて行こうとしているのではないかと思う。

 何故やそこに連れて行かれるとどうなるかは分からないがきっと碌なことにはならない、そんな予感がする。


 店がある区画の周辺を探してみれば、もう一つの扉のある方向で風太が何か落としているかもしれない。

 そう思い、急いで区画の周辺を回ってみると、ちょうど反対側の通りに先ほどまでなかったお菓子が落ちていた。


 これは、風太に持たせておいた目印用のお菓子! ってことはこの反対側の区画を探せば――。

 

 そこから更に反対の建物がある区画を回ってみると今度は風太の靴が片方、お菓子を拾った通りとは反対の通りに落ちていた。

 

 これで確信する。

 化け物(あいつ)は、HELLの文字が書かれていた扉のある場所へ向かっていると。


 ここからだと大体1キロ前後ほどだったな。

 そうと分かれば後は全力で追いつく!!

 

 なくなりかけていた気力が湧いてきて足を突き動かしていく。

 回転する足は徐々に速度を上げ、自分でも驚くくらいの速度で扉の方へ向かう。



 全力で追いかけたおかげかギリギリ追いついた。

 そこに辿り着いた時、化け物とその脇に抱えられた風太は例の扉がある店へ入るところだった。


 させるかよっ!


 俺は勢いを緩めず、化け物へタックルするためそのまま走り寄る。

 後1メートルもないところで化け物の方もこちらへ気づくがすでに遅い。

 

 ぶつかった化け物からは意外にも人に近い弾力のある感触が返ってくる。

 幸いそこまで重くなかったのか化け物のバランスが大きく崩れ、片足が地面から離れる。

 そのチャンスを見逃さず、低い体勢で化け物の懐へ潜り込むともう片方の足首側を掴み、円を描くように思いっきり引っ張る。

 するとふいをつかれた化け物はバランスを取れず盛大に背を地面に打ち付けた。


 倒れる動作に風太が巻き込まれないことを確認し、間髪入れずマウントを取ると持っていたトレッキングポールを一本化け物の顔に思いっきり突き刺した。

 少しの反発があり、先の尖ったスティックはそのまま化け物の頭を貫通する。

 

「ふう!」


「にいちゃ!」


 突き刺した際に緩んだ拘束を解き、化け物の腕から風太を取り戻すことに成功した。

 そして、すぐさま化け物から離れれば、化け物はおぞましい雄たけびを上げて寝ている体勢で暴れまわる。

 持ち前の鋭い爪を大きく振り回す度、切り裂く風音が聞こえてきて体が縮み上がる。


 こんなのに当たったら一発でお陀仏だな……。 にしても往生際が悪くてまったくもって困るぜ。


 しばらく暴れた後、ゆっくりと起き上がりこちらへ近づいてこようとする。

 しかし、受けたダメージが相当なものだったのか、その足取りは重い。

 

「ふう、後ろに下がってろ」


「でも――」

「今度は、今度こそ守らせてくれ」


 後ろにいる風太の表情は見えないが素直に後ろに下がってくれている気配がした。


「お前との付き合いもそろそろ終わらせてもらおうかね!」


 呼応するように化け物も腕を広げて威嚇してくる。

 初めに動いたのはこちらだった。


 こっちもあまり体力が持たねぇし、やるなら速攻!

 

 近づく俺に化け物が大きな爪を振り下ろす。

 その爪の初撃をサイドステップでかわすと、先ほど刺したスティックをさらに押し込もうと手を伸ばす。

 化け物ももう片方の腕を薙ぎ払いの要領で突き放そうとしてくる。


 これを待ってた!


 化け物が持つ大きな爪は人間と同じような体を持つ化け物的に近距離に弱い。

 加えて自分に刺されたトレッキングポールはかなりのダメージが入っていると思わるので押し込もうと近づけば小回りが利かない化け物は距離を取ろうと大振りをしてくると思っていた。

 その大振りを見逃さず体を沈み込ませて薙ぎ払いをやり過ごし、懐に潜り込むとレスリングの要領で足を持ち上げてもう一度転ばせる。

 悪あがきとして爪を伸ばしてくるが重心を崩されて転ばされた化け物に抵抗するすべはなかった。

 そして――

 

「いい加減にくたばれえええええええ!!!!」 


 俺は頭に刺さったスティックをさらに深く頭にねじ込んだ。

 化け物はビクンッと一瞬大きく震えるとドサッと鈍い音を立てて力なく手が地に落ちる。

 1秒、2秒と静寂がその場を支配し、ようやく終わったことを実感する。


「うぉおおおお、ふう!!」


「にいちゃーー!!」


 お互い再開を喜んで抱きしめあう。


「よかった、お前さんが無事で本当に良かった!」

「怖がっだぁー! でもねふうね、信じでだよ。 にいちゃ、ありがとう!!」


「おう、これに懲りたらもう逃げてとかいっちょ前なことぬかすんじゃねぇぞ!」

「うん……うんっ!」

 

 お互いそれほど大きな怪我はなく、自分が化け物の猛攻を避けていた時にできた切り傷が少しできた程度である。


 これで後は、ゆっくり戻って――。


 ふと冷たい風が頬を撫でる感触がして倒した化け物の方に顔を向ける。

 すると、あの巨体が消えており、墨汁のような黒い液体が扉の方へ続いて伸びていた。

 

 嘘だろっ!? 生きてたのかよ!


 慌てて風太を抱き上げて店の正面まで走り、店の中を凝視する。


 っ?!


 とっさに風太の目を隠すだけで精いっぱいだった。

 目を向けたとたん、込み上がる吐き気に逆らえず胃の中のものを吐いてしまう。


「にいちゃ」

 

 店の中にあった扉が開いており、扉の向こうには色々な絵の具を混ぜたような色の空間が広がっており、()()()()()がいた。

 扉の大きさをはるか優に超えてこの場所のどんなものよりも大きな何かがいる、それを理解するための大量の情報が流し込まれるが、これ以上理解することを脳が拒む。

 また、扉から手前に焦点を移すといくつかのライムグリーン色でスライム体の腕が伸びており、化け物を扉の向こうへ引きずり込もうとしていた。


 これ以上直視できず慌てて扉が見えない位置まで避ける。

 風太が心配そうに自分を見つめてくるのに対し、頭を撫でて大丈夫だと一声かけるだけで精いっぱいだった。

 

 ふざけんなよっ! あんなのがいるって聞いてないぞ! あれには絶対に勝てない。 早く逃げないときけ――。


 その時、何かの甲高い叫び声が店の中から響き渡る。

 何か悲鳴にも近いその音は時間にして10秒程度続くと自然と鳴り止んだ。


「次から次へと、神様はどんだけ俺らのこと嫌いなんだよっ! ふう、早くここから逃げるぞ!」

 

 その時点で初めて気がつく。

 これまで、あの優しげに自分たちを照らし続けていた空が徐々にオレンジ色から赤く変色してきていた。


 おいおいおい、こりゃ世界の終わりって感じがプンプンするぞ! 本格的にやばいんじゃね?

 

 続けざまにゴーンッゴーンッと響くような低音が辺り一帯から聞こえてくる。


 今度はなんだっ!

 

 一番身近に聞こえてくる方に目を向けると時計から発されていたようで、時計に注意を向ける。


 嘘……だろ…………?


 そこには空の移ろいに呼応するかのように動く時計の針があった。



いつも私の拙い文を見てくださりありがとうございます!


読んでくださって気づいた方もいらっしゃると思いますが大体1日の終わりごろの投稿となってしまっています。

これは作者の書く速度が遅く、いつもギリギリになってしまっているためです。

(そのせいで抜いてしまった描写や話もあり、品質問題にも繋がってしまっていますが…)


直近は完成させることを第一目標と置いているため、完成重視で書かせていただく予定です。

完結次第、加筆もしくは修正という形で見直せればと考えています。

作品自体はあまり長くならない予定のため、短い間ですがどうぞよろしくお願いいたします。

いつも見てくださっている読者の皆様に多大なる感謝を!

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