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かえりみち  作者: 以下同文
5/12

休息

指差し確認、ヨシッ!

 色々話していると風太がうとうとし始めた。

 怪我のこともあるので早めに就寝する。

 何時間か経った後、衣擦れの音で目を覚ます。

 隣では昨日?出会った風太が怪我の影響か少し寝苦しそうにしている。


 腹ごしらえの前に近場を探索しようかと思い、メモに散策してくることと風太はその場に留まることを書いておき、探索に出る。


 

 この店にも使えそうなものはなしっと。


 一日経っても変わらず商店街の道を照らしているオレンジ色の日差しと店の間、三メートルくらい影になっている部分に注意しながら店に向かって足を向ける。

 あれから10分ほど噴水のある広場の周りを探索しているが使えそうなものは初めに見つけたリュック以外にはなかった。

 店の外からざっとしか見ていないが、空の棚が設置されているコンビニのような店もあれば、空きテナントかと思われるような何もない店舗、荒らされたような店舗と様々だ。

 特に棚が薙ぎ倒されている店舗は何者かが通ったかのように不自然に奥の壁まで一直線に続いている。

 そこまで調べている時だった、急に泣き声が広場から聞こえてきたので大慌てで戻る。

 幸いすぐ近くにいたので走って戻れば1分とかからず到着した。

 広場に到着して目にしたのは寝ていたはずの風太が大きな声を出して泣いている姿だった。


「どうしたっ!! 大丈夫か!?」


「にいぢゃぁぁぁああああーーーー!!!!」


 まだ体調が万全ではない体でこちらへ這いずって来ようとする風太に走り寄り抱き上げる。

 風太は腕の中で鼻水を垂らしながら泣く。

 即座に周囲を警戒するも特に何も起こっている様子はなく、前日の化け物もいない。

 ここにいるのは泣いている子供とそれをあやす男二人のみである。

 何故泣いているのか分からず戸惑っていると少し間を置いて風太が吃逆混じりに話し始める。

 どうやら泣いていた理由は、置いて行かれたと思い、錯乱して泣いていたみたいだ。


「ごべんなざい、がばん、しなぎゃって思っだんだげどね、じでだんだけどっ。 おいでいかれぢゃうとね、おぼったら涙がでできぢゃうの」


「あーそうだな、そうだよな。 悪かった……こんな思いさせちまって、あれだけ怖い目に遭ってたらそりゃ一人は嫌だよな、本当に申し訳ねぇ」


 泣いている風太の背中をゆっくりと撫でる。

 小学生にもならない子供がこうなることくらい容易に想像がつくし、このような状況に自分にも余裕がないと痛感する。

 

 こうしていると下の弟が泣いた時のことを思い出すな――

 

 もう随分と会っていない下の弟にも小さい頃こうしてあやしたりしていたなと思い出す。

 弟も風太と同じ年齢くらいの頃はしょっちゅう後ろに着いてきてはぴーぴー泣かれてあやしていた。

 弟は歳が離れていることもあり、喧嘩などはほとんどしてこなかったが甘えん坊な性格で事あるごとに泣きつかれていた。

 しかも泣いたら泣いたで泣き止むのに時間がかかる事から兄である自分が基本世話役になっていた。


 まぁ、それでも頼られるのは嫌ではなかったけども。

 

 最後に帰省してからどれくらいになるだろうか、3年?いや5年くらいかもしれない。

 チャットでのやり取りはするもののお互いに自分から話題を振るタイプではないため、そのやり取りも簡素なものである。


 っといかん、いかん。 つい関係もないことを考えるてしまった。 まずは風太を落ち着かせないと、離そうとしても離してくれそうにないし……。


 いくら幼児とはいえ10分も抱き抱えるには中年の体には厳しい。

 できうる限りの言葉を扱い、宥めているとピスピスと鼻ちょうちんを出しつつも泣き止んでくれた。

 泣き止んだタイミングでどちらとも知れずにお腹が鳴ったので朝食にする。

 ここに迷い込む前、コンビニで買っていた缶詰を三つほど開けて二人で食べる。

 朝食は普段からだいたい抜いていたことに加え、今日の詫びも含めて風太の方に多めに渡す。


「にいちゃ……いいの?」


「子供が遠慮なんてするもんじゃねえさ。 気にせず食べな、そうすりゃ怪我なんてすぐに治る」


 こちらを伺うように見つめてくる風太の頭を乱暴に撫でて食事を促す。

 始めは遠慮していた風太も促されると美味しそうに食べ始める。

 気持ちのいい食べっぷりにこちらの腹も満たされる思いだ。

 食べ終えた頃を見計らい、コンビニで購入した食料品を整理する。

 コンビニで調達したのは今回食べた缶詰の他に携帯食が何食分かとカップ麺、後はたまたま袋麺を買っていた。

 

 携帯食はそのまま食えるとして、麺類は水もしくは最悪水なしとかで食えないもんか…………

 

 災害時に備え、水で麺を戻して食べるというのを一度SNSで見て同じようにして食べられるか考える。

 しかしネックになるのは水である。

 

 飲み水に加えて麺類に使うとなると残りの水がぜんっぜんたらねぇー、どうするか……


「ふうちょっといいか?」


「どうしたの、にいちゃ?」


「あー、俺と会うまでは噴水の水を飲んでたんだよな?」

 

 肯定を表す様に風太は頷く。

 水を飲んでからどこか異常はないか聞くが怪我以外は問題はないらしい。

 後は無味かと思いきやほんのり甘いというよく分からない情報までいただいた。

 

 噴水の水を飲んでから一日以上経ってて風太の体に異常はなさそうだし飲んでも平気…………なのか?


 この状況でも本来は飲みたくないが持っていた水も二リットルのペットボトルに僅か残っているのみである。

 たった一日で早くも覚悟を決める時がきたようだ。

 一応?水の確保できたので、問題となった探索についてルールを決める。

・片方が寝ている時は広場から出ない。

・探索する時は何分ほど探索するかをあらかじめ伝えておく。


 あまり多くしても覚えきれないし、いつまでもここにいるつもりもないので風太が気にしている二つだけ決めた。

 風太にはしばらく怪我を治すことを優先させるため、この広場で安静にしていることを言いつける。

 風太自身もまたあの化け物に襲われたくないので約束は守るつもりのようだ。



 そうしてまた一日が経過した。


 

 風太の怪我が良くなっていた。

 始めは気のせいかと思ったが顔の腫れなどはこんなに早く引く物なのか疑問に思うほどで、薄く残っているが風太の整った顔立ちがわかるくらいには腫れが治っている。


 どうなってる……素人目で見てもあれは月単位で治療が必要なレベルだった。 たった二日で治るものではないぞ。 ここでは怪我が早く治るのか? 他に思い当たるのは噴水の水だが、やっぱり飲むのは辞めておいた方が良かったか。 飲んだ後じゃ遅いけど……


 風太自身からは添木をしていた腕の痛みもだいぶ引いていると言われたがヒビが入っていると思われる腕の痛みが二日程度で取れるとは到底信じられなかった。

 風太も元気になって嬉しいのか食事の準備、片付けを積極に手伝ってくれる。

 頭を撫でると嬉しそうにするためついつい頭を撫でてしまう。

 基本食事をしたら自由時間になるため探索はするものの風太との時間も取るようにしている。

 始めに不安にさせてしまった詫びも含めているが、後々の遠距離の探索を考えるときちんと信頼関係を作っておいた方がデメリットが少ないと考えたからだ。

 

 先日、寝ている時風太の夜泣きがあった。

 落ち着かせるために1時間ほど要した上、朝起きたら服を濡らしてしまい、風太はこの世の終わりのような顔をしていた。

 泣いてはいなかったが、この状況でまた迷惑をかけてしまっていると思っているらしく、罪悪感が顔に出ていた。

 

 そうした経緯もあり、風太との時間も割くようにしている。

 風太自身は大丈夫と言っているが、俺が休みたいんだと言って聞かせる。

 始めは遠慮していたが話を重ねていくうちに嬉しそうに自分の話をしてくれた。

 自分が大好きな両親の話、通っている幼稚園の話、友達が誕生日会に来てくれたこと、ここにくる前に父親と遊園地に行こう約束していたこと、すべて宝物のように話す風太は目はキラキラと輝いていた。

 

 その後、まだ時間があったので風太の方から探索してきても良いと提案があった。

 本当に大丈夫か心配だったが俺のことを信じてくれているのか大丈夫と強く頷いてくれた。

 後ろ髪を引かれながらもいつもより30分ほど足を伸ばして探索した所、あの全身黒色の針金のような化け物を見つけた。

 距離にして二十メートル弱は離れており、徘徊しているようでこちらには気づいていない。

 咄嗟に隠れることができたが風も吹かないようなこの迷宮はほとんど物音がしないせいか自分の心臓の音がとてもうるさく感じる。


 気づくな!気づくな!と祈るように息を潜めていると化け物はそのまま反対側の通路へ消えて行く。

 時間にして数分の出来事だがとても長く感じた。


「…………っはぁ゛ぁ゛ぁあ。 死ぬかと思ったぁ……」


 壁際にもたれ掛かりながら大きく息を吐く。

 多少消耗したが不安にさせるわけにはいかないと帰ってから何事もなかったように風太と過ごした。

 この日、夜泣きはなかった。

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