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かえりみち  作者: 以下同文
4/12

邂逅

全部書き終えたら…………見直しますから

……神よ、安眠求む

邂逅

 物音がして目を覚ます。

 慌てて起き上がり周囲を見渡すと気を失う前に見た噴水があり、今も水がざばざばと音を立てて上から下に流れている。


 …………確か……化け物から逃げてきて……そうだ、広場に逃げ込んだところであいつが引き返したんだ。 ここは他の広場とは違うみてぇだがセーフエリア……ってことなのか? そんな都合のいい、ゲームみたいなことあんのかよ。


 先ほどの化け物との鬼ごっこを思い出していると視界端で噴水とは別のものが視界に入る。

 所々赤茶色で全体的に黄ばんでいるが現実世界で見慣れたパーカー。


「――――スゥ」

 

 まさかっ! 本当に自分以外にもいたのか。


 ここに来てから心細く探しても見つからなかった――人間が今自分の目の前で苦しそうに寝息を立てていた。

 体を抱く様に横向きで寝ているため顔の右半分しか見えないが大きさから小学校低学年くらいに見える。

 瞑っているその目元は泣いていたのか赤く、痛々しかった。


 他に人間はいないかって考えてはいたが――流石に幼児は想定していなかったな。


 散々恐怖体験をしたため、流石に警戒は解けず、距離を取り持っていたトレッキングポールで触れてみる。

 すると眠りが浅かったのか触れた感触で幼児が目を覚まし、上体を起こした。


「…………っ、おがあざん……?」


「っ」


 第一声は掠れてか細く、今にも消えそうな声だった。

 驚いたのは、寝ていて見えていなかった子供の左目と左頬が鬱血して大きく腫れ上がっていること、加えて全身の擦り傷が痛々しい姿でこの様な場所でなければ今すぐにでも病院に連れて行くべきだと判断しただろう。

 

くそっ! さっきまでのことがあったせいでどうしても疑っちまう。 何か確証を得られるものはないか。

 

 怖がらせないようその場に留まり、逃げられる態勢で話しかける。


「……すまんねぇー、俺は君のお母さんじゃない」


 一気に話しても混乱させると思い疑問の方にだけ答える。


「おがあさんどご?」


「……あぁーすまん……それも知らない。 坊やの方は、怪我の方は大丈夫かい?」


「………………………………グスッ」


 困ったな。 意思の疎通は取れそうなので罠ではないかもしれねぇがコミュニケーションが取りづらい。 どうしたもんか。

 

 この子供がここにどれだけいるのか知らないが、自分でさえここに何時間も閉じ込められて狂いそうだった。

 怪我しているが幼い子供がここで生きている、それだけでも奇跡と言えるだろう。

 怪我のことやどうしてここにいるのか、聞きたいことは山ほどあるが、まずは警戒を解いてもらうため、膝を折り目線を合わせる。

 相手の目を見ながら自己紹介をしつつ、お腹を空かせていないか聞いてみるとお腹を空かせていたのか食べ物については食べたいと反応してくれたので、先にコンビニで調達したパンと水を渡す。


「!! ………………んんっ、ゴホッゴホッ」


「逃げないから落ち着いて食べな、ほれ水も飲むといい」


「……にいぢゃ、ありがどう」


 ひとしきり食べ終えてから話を聞きつつ、持っていた救急道具で応急処置を施す。

 名前は風太、近しい人からはふうと呼ばれているらしい。

 ふうと呼んでくれと本人が言うので話す時はふうと呼ばせてもらうことにした。

 

 話してみて思ったがこの子は幼いながら賢い。

 少し分かりづらいところもあったが、俺と会うまでのことをきちんと覚えていた。

 いつ来たのかまでは分からなかったが、庭先で遊んでいて気がついたらここにいたらしい。

 しばらく探索してみたが店の中は暗くて怖かったので入らなかったと言っていた。

 帰り道が全然見つからず時間が全然進まないことで不安になり広場で泣いていたが、そのうち空腹になり、店に食べ物がないか探そうとしたところ奥の壁から()()()が出てきたそうだ。

 処置をしている全身の傷はその時、化け物にやられたもので化け物はあの凶器の手を叩きつけてきたとのこと。

 吹き飛ばされた先がこの噴水のある広場だったらしく、叩きつけられた時は痛みで気を失ったのだが、その後目覚めると怪物がいなくなっていたらしい。

 後は痛みで意識が朦朧とする中、中央にある噴水まで這いずって行き、傷口をその小さな手を使って洗い流して、空腹と闘いながら動かないように眠っていたと言う。

 答えてくれたふうは、その時のことがフラッシュバックしたのか自分の体を抱え込み震えていた。


「ふう……お前さんはすごく頑張ったなぁ。 俺なんてチビって逃げてきたってのにあんな化け物相手に生き残るなんてホントすげぇよ尊敬する」


 背中を撫でながら落ち着かせる。

 嘘や偽りはなかった、あの様な初見殺しの塊みたいな化け物相手に怪我を負っても生き残り、懸命に生きようとする姿を見て尊敬した。


「ご、ごわがったけどね、ぼくね、おがあざんとおどうさんにま、ま゛た会いたかったがら……」


「……そうだよなぁ、また会いたいよなぁ。 わかるぜその気持ち、絶対にまた会えるから心配すんな」


「うん……うん……うん……。 にいちゃ、ありがと」

 

 宥めていると少しずつ落ち着いてきたので手当てを再開する。

 

 にしたって、あの馬鹿でかい鉤爪に引っ掻かれでもしたら大人でさえ一発でお陀仏だろ。 なんで風太は怪我だけで生きている? あの化け物の攻撃は大したことがない? いや、だけど自分が爪を避けた時、床が壊れていたはず……なら何か条件みたいなものがあるのか……それとも――


「いだっ――」


「すまんっ、強く触りすぎた。 大丈夫か?」


 泣き顔になりながらもこくりと本人は頷く。

 パーカーで覆われていた左腕は確認した感じ、折れてはないがヒビが入っているかもしれない。

 これは流石に何ともできなかったので近くにあった木材で腕を固定する。

 

 風太の全身の怪我は、打撲や打ち身、擦り傷が多かったが、一番目を引いたのは顔の腫れと左腕の怪我だ。

 本人に聞くと噴水の水で洗い、冷やした手を患部に当てて、喉が渇いた時は噴水の二段目の方の水を飲んで渇きを耐えていたらしい。

 一通りの応急処置は完了したのでしばらく安静にしていれば腫れも引いてくると思うがこんな理不尽な暴力に晒されていたことに少なからず怒りを覚える。


 応急処置は今はこれくらいしかできないかな……。


「ほい、手当終わったよ。 次は服を洗うけど一人で脱げるかい?」


「うん! ふうね、一人で脱げるよ!」


「そらゃ偉い! 脱いだら寒いだろうからこれに着替えな」


 服を脱がすのはどうかと思ったが、今風太が着ている服は血と涙でよれよれに黄ばんでおり、ズボンからはアンモニアの独特な匂いがした。

 清潔にしておくことに越したことはないので拾った荷物に入っていた雨具を渡して、着替えてもらう。

 風太が着替えている内に、リュックに入っていたペットボトルの中身を商店街の通りの方まで捨てに行き、噴水の方で水を汲み、洋服を洗っていく。

 水が浸透していくにつれ、茶と赤黒が混じった汚れが洗い流れていく。

 元は白いはずの湿ってヨレヨレになった白色のシャツと血が滲んでいるパーカーを洗いながら改めて風太の状況が悲壮であったことが窺える。


 この子は、どんだけ泣いていたんだろうか……。 怖くても寂しくても頼る相手もおらず、帰れるかもわからねぇところに置き去りにされて、果てはあの化け物に襲われるとか…………早く治るといいな。

 

 考え事をしているとあっという間に洗濯が終わる。

 石鹸などはないので水洗いのみになるが、これで乾いた時多少マシになると思われる。

 不幸なのか幸いなのか、ここは、気温が緩く一定に保たれている上、ずっと天井から夕暮れの日差しがさしているし、乾くのもそんなに時間はかからないだろう。


「にいちゃ、着替え終わっだよ!」


 まだ枯れ気味だが幾分声に元気が戻った風太は全身青色の雨具に着替えてお披露目するように俺に見せてきた。

 そんなふうの頭を優しく撫でる。

 黒髪であまり癖はなく、子供特有の髪の毛がふわふわしており、ふう自身も安心するのか撫でると笑顔を見せてくれる。


 こんな状況じゃなきゃ捕まってたわ……………………。


 

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