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かえりみち  作者: 以下同文
2/12

探索

気絶

「……誰かいませんかー?」


 声は虚しく、薄暗い商店街のアーケードに吸い込まれていく。

 もう何度目になるのか。十字路から続くすべての通りを、声をかけながら一通り回った。開いている店があれば覗き込み、奥まで目を凝らして見てみる。だが──


「……やっぱり、誰もいねぇよな」


 気配がまるでない。

 人間どころか、風も音も、匂いすらない。まるで無駄の空間だ。


 この異常な静けさのなかで、足音と自分の呼吸音だけが不気味に響く。

 そんな状況に、早くも心が削られていくのを感じた。


「はは……せめて猫でもいりゃ救われるのに」


 虚勢を張ってみても虚しい。

 照明のない店舗は、奥が真っ暗でよく見えず、スマホのライトを点けながらの探索になった。


 幸いバッテリーはまだある。

 昨晩寝る前にフル充電しておいてよかった。


 画面の右上、“圏外”の文字が冷たく光る。

 Wi-Fiもなし、GPSも反応なし。地図アプリを開いても「現在地を特定できません」の表示が出るだけ。


 ──ここは、どこなんだよ。


 周囲の店を回っていて気づいたことがある。

 まず、どの店舗も()()()()


 看板のある店舗はたくさんあるが、どれも売り場が4~5メートル四方。普通なら店の奥に厨房や倉庫があるはずなのに、それが見当たらない。

 まるで、張りぼての舞台装置のように、外側だけ作られた空間。


 置かれている商品も奇妙に偏っていた。駄菓子、古びた文房具、用途不明の雑貨。

 生活感はゼロで、商品数も極端に少ない。まるで「とりあえず置きました」とでも言うかのような、雑な品揃え。


 その中でひときわ目を引いたのは、ひとつだけぽつんと棚に置かれたリュックだった。


 新品ではないが、状態は悪くない。まるで()()()()()()のようだった。


「……誰か、ここにいたのか?」


 期待と不安が同時に胸をよぎる。


 俺以外の誰かが、この空間を歩いたのかもしれない。

 だが声をかけても、返事はない。


 ──やっぱり、ここには俺しかいないのか?


 広場に戻り、拾った物を地面に並べて確認する。



〈拾得物リスト〉

・駄菓子3個

・ドロップ2個

・リュック(中身)

 - 懐中電灯

 - 単三電池4本

 - 飲みかけの水1本

 - 空のペットボトル

 - ロープ(約3m)

 - 多色ボールペン

 - 手帳

 - 雨具

 - 簡易救急セット

 - トレッキングポール2本

 - ライター



 手帳を開くと、最初のページに大きく赤いインクで書かれていた。


 「扉を探せ」


「……扉?」


 突拍子もない言葉に眉をひそめる。

 他のページはすべて白紙。メモも走り書きも、日付もない。


 意味はわからないが、書き残した誰かがいたという事実は心を支えてくれる。

 この空間に、他の人間がいた──あるいは、いる可能性があるのだから。


「……よし、まずはわかってることを整理しよう」


 自分を落ち着かせるために、手帳に状況をメモし始める。



〈現在の状況〉

・最初に目覚めたのは広場の中心

・広場から東西南北に道が伸びている

・道の左右には雑多な店舗が並んでいる

・すべての店舗が異様に狭く、裏手が存在しない

・街灯が夕方のような光を放っており、光の変化が一切ない

・スマホは圏外。GPS、Wi-Fi、通信すべて使用不可

・時間の経過が体感と一致していない



 次に、空間構造の確認を試みる。

 広場から見て左へ左へと4回曲がり、元の位置に戻れるかをテストする。迷路や空間ループを疑ってのことだ。


 結果、無事に最初の広場に戻ることができた。


「……とりあえず、空間の基本構造は常識の範囲ってことか?」


 戻ってきた場所には、念のため置いておいた駄菓子がそのままの形で転がっていた。誰にも触られていない。


 しかし、その程度の普通さがむしろ気味が悪い。


 ──こんな世界で、理屈が通用するのか?


「……うーん、腹減った」


 探索に夢中で、空腹を意識していなかったが、身体は正直だ。

 とはいえ落ちていた駄菓子には手を出す気になれず、自前のコンビニ食料に手を伸ばす。できるだけ節約しようと、パンをひとつだけちぎって口に入れた。


 水を一口だけ飲み、休憩を取りながら、次の行動を決める。


「……今度は、直進だな」


 広場からまっすぐ伸びる一本道を、ひたすら歩くことにする。

 左右の分岐には目もくれず、ただひたすら、まっすぐ。何かが見えるまで、進み続ける。


 道は、ずっと同じ光景が続く。

 古びた看板、無人の店舗、無音の空気。


 まるで、コピー&ペーストされたかのような空間の連続。






⚫︎


「……なあ、もう2時間以上歩いてるんだけど!?」


 声がひときわ大きく空間に反響する。

 いくら歩いても、何も変わらない。

 標識も、地名も、案内板もない。


「どこまで行っても夕方ってどういうことだよ……」


 最初に時計を見たのは、18時を少し過ぎたころ。

 今はもう20時は回っているはずだ。

 なのに、アーケードから差し込む光は、あの時とまったく同じ──不気味なほどに()()()()()


 ここは、時間すら狂っているのか?


「いやいや……こんなのおかしい……3時間近く歩いてんだぞ……区どころか、隣の市に着いてもいい距離だろ……?」


 焦りが、怒りに変わり、そして絶望へと姿を変えていく。


 広場に戻って、力なく座り込む。


「……もう無理だ。わかんねぇ……俺が何をしたっていうんだよ……」


 自分の声が、思った以上に弱々しく響いた。


 その瞬間だった。


 沈黙のなか、空気がわずかに揺れた。

 ふと顔を上げると──右手の通路、その奥に、何かの気配がした。






 

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