5、前世からの教訓
滅びていく町。
遮るものの無くなり、迷宮から溢れてくる怪物。
それらが地上に溢れてくる。
いずれ人里に到達し、破壊の限りを尽くすだろう。
「じゃあ、お前らとはここまでだ」
女ギルドマスター、女職員、生還者を囮に使った探索者達。
それらを一人ずつ抱えて怪物の方に投げ飛ばす。
「あいつらの、餌になって、やれ、よ!」
言葉の句切りごとにクズ共を投げていく。
飛んでいった者達は怪物の前に投げ出される。
それを見て怪物は食いついていく。
飛ばされてきた人間を生きたまま貪るために。
「しかし、この世界にもああいうのはいるんだな」
貪られてる連中を見ながらため息を吐く生還者。
「生まれ変わって別の世界に来ても、人間は同じなのか」
ため息を吐きながら物思いにふける。
迫る怪物をたおしながら。
地球の日本で生きていた頃。
その頃も問題を起こす人間をかばう者達が多かった。
学校でも社会でも。
それこそご近所でも。
最終的にそんな連中の大半を根絶やしにしたが。
おかげで生還者も警察に囲まれて死ぬ羽目になった。
なんとも理不尽な事である。
そんな前世に続いて生まれてきたこの世界。
剣と魔法のファンタジーなここも同じようなものだった。
強い奴はどんな悪さをしても許される、擁護される。
被害者の方が糾弾される。
そんな世界に生還者は嫌気がさしていた。
幸い、超絶的な力があるので、被害者にならずに済んではいるが。
それでも他人との接点は極力減らして生きていこうとした。
変に接触を持つとろくな事にならない。
これは前世からの教訓だった。
なのだが、それが悪い方向に作用していった。
単独で行動してるのは仲間が集められないからだ。
それだけ無能なのだと。
それでも一人で迷宮に入って帰ってくる。
それだけ強いとわかりそうなものなのだが。
しかし、単独で行動してるという事だけ見る者が多い。
なぜそんな考えになるのかが不思議だった。
そんな噂が妙に拡がり、評価が下がっていった。
あいつは無能だという訳の分からない評判だけで判断されるようになった。
一人で充分すぎるほど稼いでるにも関わらず。
だからあちこちで絡まれるようになった。
貶される事も増えていった。
挙げ句に無理やり仲間を組まされて迷宮に放り込まれた。
これはもうどうにかするしかないと思った。
そう思っていた矢先に迷宮の中で囮に使われた。
あまりの事に呆れた。
仕方ないので、目の前にいる怪物を倒していった。
一緒に組まされた探索者には荷が重いのかもしれないが、生還者にはどうという事のない敵だった。
せっかくなので、そのまま暫く迷宮の中で稼ぐ事にした。
今でもかなり高い能力を持ってるが、レベルを上げて更にはね上げていく。
探索者だけでなく、ギルドや町の連中にも復讐をするために。
強さはあればあるだけ良い。
そうして気付けば数ヶ月。
そろそろいいかと思って外に出て報復を始めていった。
囮にして逃げた連中がいるのを確かめてギルドに報告。
どう対応するのかを見ていった。
予想通りに酷いありさまで、遠慮する理由がなくなった。