2、記録された事実
「だいたいですね」
ギルド側の担当者である女職員は反論を口にする。
「そもそも、評価の低いあなたを仲間に加えていたのです。
その恩がありながら──」
「だからなんだ」
囮にされた生還者は声を遮る。
「殺される理由にならねえよ」
全くもってその通りである。
「だいたいよ。
実力以上のところまで潜ってるのがおかしいだろが。
こっちは止めたぞ。
それを無視して進んでるのはどうすんだ」
「それについては証拠が──」
「あるぞ」
言いながら生還者は魔力結晶を出す。
「録音をしている」
そういって封じ込めていた音を再生させていった。
『危険だぞ』
止めに入る声。
それはどう聞いても訴えた者だ。
それに対して、
『いいから、気にすんな』
と退けようとするのは、訴えられてる側。
その前後の声も合わせて考えれば、どう考えても危険だから止めようとしてるのが明白だ。
更に会話は続き、
『でも……』
『うるせえ!
もう決めてんだよ!』
止めにはいる生還者と、押し切る囮にした連中。
録音された声は、事の次第をはっきりと示していた。
「偽造ですね」
「あ、そう」
録音した音声をギルドの女職員はあっさりと退けた。
予想通りの対応に、生還者も淡々と返す。
「それに、評判の悪い奴をつれてくから偉いってなんだ?
こっちは断り続けてんだぞ」
その事はギルドにも訴えていた。
単独でやっていけるから同行する必要はないと。
「それを無視して無理やり連れてったのはそいつらだ。
ギルドも無理やり同行者にさせたのよな?
記録は残ってるだろ」
「あなたの安全を考えての事です。
単独行動は危険──」
「誰が言い訳を言えっていった?」
その瞬間、怒気が膨れ上がる。
声は穏やかだが、他を圧する気の圧力が放たれた。
室内にいた全員が口を閉ざす。
「だいたい、今まで同じような事があったからな。
評判の悪い奴をつれてって、そんでそいつだけ死んでこいつらが戻ってくる。
囮用に一人連れこんでんだろ、その為に評判の悪いのを無理やり同行させてんだ」
「……憶測でものを言わないでください」
職員としての業務意識からか、女職員が声を出す。
しかし、その声は無理して出してる声音だ。
生還者は更に圧力を強めていく。
「憶測で無罪といってる奴がほざくな」
「推定無罪ってご存じですか?」
「そんなもんが事実を覆すわけねえだろ、カス」
言葉も荒れていく。
丁寧な物言いなどする必要もないと生還者は考えはじめた。
「よく分かった。
テメエらがこいつらクズをかばうってのが。
協会ってのは名前だけだな。
ぜんぜん協力してねえ」
ここまでの時点での対応で生還者は見切りをつけた。
「じゃあ、俺は俺で好きにやる。
文句はねえな」
「──ちょっと待て」
そこで一室の扉が開いた。