話のオチ
《舞台》
某県某所の某高校の教室の一室。
《登場人物》
白鳥白花━━17才の女子高生(2年生)。中肉中背。ロングヘアー。通称“白ちゃん”、“シロ”。
大黒屋黒子━━17才の女子高生(2年生)。中肉中背。ショートヘアー。通称“黒ちゃん”、“クロ”。
この“よしなしごと部”というのが何をする部なのかはわからないが、暇な生徒が暇な時間に、部室に来て他の暇な生徒と“よしなしごと”を語り合ったり行ったりする部なのである。
某月某日のある日、“よしなしごと部”でのこと。
□□□
「ねえ、黒ちゃん」白鳥白花は大黒屋黒子に話しかけた。
「何? 白ちゃん」
「話のオチってあるじゃん」
「あるねえ」
「時々、自分が体験したことを他人に話したくなることってあるじゃん」
「まあ、そうだね。例えば、どんなことがあるの?」
「いや、いきなりそう言われても、すぐには思いつかないけど。例えば幽霊を見たとか」
「幽霊を見たの?」
「いや。見たことないけど。例えばの話よ」
「まあ、そうだよね。私らみたいな普通の高校生がそうそう珍しい体験なんてしないわよね」
「そうなんだけどさ。でも、自分が体験した人に話したくなることってあるっしょ」
「これ以上、聞くと話が延々とループしそうだからその話は置いといて。話を元に戻して話のオチがどしたの?」
「そうそう。そんでさ、自分が体験した話を雑談の中で話そうとすると、『その話にオチはあるの?』とか話し終わると『それで、その話のオチはなんなの?』とか言う人がいるじゃん」
「あー、いるねー」
「いや、違うから」
「何が?」
「テレビとかで、大物芸人が若手芸人に『その話のオチはなんなんだ?』とか『話のオチが弱いなー』とか言ってるのを真似して、私らみたいな普通の高校生の雑談にいちいち面白いオチを求めるのが間違ってるから」
「あー、そうかもね」
「大体が私らみたいな、普通の高校生が話す雑談なんて喫煙所で煙草を吸いながら、語られる与太話みたいなもんだから、口から白い煙を吐いたらその煙はしばらく空中に漂ってすぐに消える。そういうものだから」
「白ちゃん。煙草吸うの?」
「いや、吸わないけど。小説で読んだイメージで語ってみただけ」
「まあ、最近は喫煙者の肩身が狭いみたいだしねー。私らみたいな高校生に煙草を売ってくれる店もないでしょ。と、いうわけで一応、白ちゃんの言葉を信用します」
「いや、本当に煙草なんて吸ったことないから!」
「わかった、わかった。そんで話のオチがどしたん?」
「そうそう。そんでさ、テレビとかで“オチ”がどうしたとかって話をするのは、あれは芸人がお金をもらってやってることだから、商売でやってるのよ、商売で」
「まあ、そうだね」
「だから、そんなにオチがある面白い話が聞きたいなら、金を払えって話よ。お金をもらったら私だって必死になって、オチがある話を考えるよ。そんで、その話のオチが面白くなかったら、『こっちは金を払って話を聞いてるのに面白くねーぞ』って文句を言われても仕方がないって思えるんだけどね」
「それも程度の問題ではあるけどね。お金を払えば何を言ってもいいとか、何をしてもいいってわけじゃないと思うけど」
「まあ、それはそうだけど、さあ」
「いいや。話を続けて」
「だから、いちいち素人の無駄話にオチを求めるな、と私は言いたい」
「そうは言っても、私ら思春期真っ只中の高校生なんて承認欲求のかたまりみたいなところがあるからさ、みんな多かれ少なかれ、誰かに自分の話を聞いてほしいんよ」
「うーん」
「実際、時々いるっしょ。聞いてもいないことを延々とする人。そういう人の話を聞きたくない場合に言ったりするかもね」
「まあ。いるけどさ。じゃあ黒ちゃんは私が空気を読まずに、自分のことばかり話してたっていうの?」
「さあ? どうだろ。でも親しい他人の話を聞いてあげるのは大切なことだと思うけどね。それもやっぱり程度の問題ね」
「でも、やっぱり私は芸人かぶれで他人の話にオチがどうだの、こうだの言う人は嫌だな」
「それは、私もそうだけどね。こっちもとりあえず、自分の話を聞いてくれる親しい関係の相手だと思うから、話をしようとしているのに、そんなことを言われたら、どんどんその人と話をしたくなくなるわよね」
「そうだよ。私はその人の太鼓持ちじゃないっていう風にも思っちゃう」
「でも、利害関係がない、例えば友人同士の会話だと、一方的に自分のことばかり話すよりも、その話で相手を楽しませたいとかも思うけどね」
「そうそう、そうなのよ。今、黒ちゃんの話を聞いて思いついた。こっちが相手を楽しませようとして話をしたりするのに、それに対してオチが弱いとか、M1の審査員じゃないんだから。そんなこと面と向かって言うならTwitterの裏アカにでも呟いていればいいのにって思っちゃう」
「話が元に戻ってきたね。要するに白ちゃんは、他人の話にオチがどうのこうのっていう言い方が気にくわないんだ」
「まあ、そうなるのかな? まあ、そうだね。対等の立場の相手だと思うから楽しく話をしようとしているのに、それをさっきも言ったように、大物芸人が上から目線で若手芸人にダメ出しするみたいな言い方が嫌なの」
「うん」
「そんな態度や言い方をするなら、自分が見事なオチがある面白い話をしてみなさいよって思う」
「その考え方もまた大人気ないと思うけどね」
「まあ、まだ高校生だし」
「まあ、私らは都合のいいときに子供になったり、大人になったりできる年頃ではあるよね」
「『子供のくせに』とか、『もう大人なんだから』とか言われることもあるけどね」
「まあね。そこら辺はうまく立ち回らないとね」
「話を元に戻すけどさ」
「うん」
「やっぱり私は友達同士だったら、楽しみを共有しあったり、悲しみを分かち合ってあげたいと思う。会話ってそのための一番簡単で重要なツールだと思うんだよね」
「それは、そうかもね。それに現実の会話にはいちいちオチなんてないよね」
━━キーンコーンカーンコーン
「あ、下校時間のチャイムが鳴った」と白花。
「それじゃ、私らもかえりましょうかね」と黒子。
「そだねー。でも今日もオチのない話をしちゃったね」
「まあねー」
「でも、私はこういうオチのない、どうでもいい話をして楽しく時間を過ごすの、好きだよ」
「私も」