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5 序盤のボスはやがて雑魚になるの……ご存じ? ですわ。

 唖然とするナディアに私は微笑んでいると、我に返るナディア。


「えっ? これは!!」

「あら、ナディア凄いですわっ。 まさか石の魔法なんてっ」

「これは、私では……」

「ナディアは凄腕の冒険者なのね。 お兄様に感謝しなくてはっ」


 私は、ナディアに向かって声を張って大声を出す。まるで遠くにいる兄の部下に届くように。

 【危機察知】で二つの気配が動かずにいたが、私の声が届いたのか消えていった。だが、その状況を知らないナディアはムッとしている。


「その、まるで私が聞こえないような声?」

「ゴメンねナディア。ナディアが私を守る事が出来るか――――兄の部下が見張ってたみたいなの」

「――――魔物ブラックウルフが来るのとか、さっきのとか……考えないでおくわ」 

「そうしてくれると助かるわ」

 

 森の奥へと進んでいくが、ブラックウルフの猛追が半端ない。

 数は少数になるが、やはり群れ。

 ナディアも慣れてきたようで……。

 武器を見つめるナディアが、険しい顔の視線が私に突き刺さる。


「慣れてないわ!! 魔障の魔物なのよっ。 冒険者一人でこうもあっさりと倒してしまうなんて――――絶対におかしい」

「何度も倒した相手の動きと、読めてる……いえ、先読みしてしまうなんてやはり冒険者は凄いのですわね」


 頭を掻きながら照れているナディアは、私の顔を見るなり我に返ったのか目を見開き姿勢を正してしまう。


「絶対に、おかしい」

「まぁ、気の所為ですわよ。 それよりも早くお兄様達の所に」


 ナディアは、首を傾げながら先へと進む。

 私もあとについて守られてる感出さなくてはね。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

「だぁぁぁーーーーっ!!」


 忘却無尽に剣を振るうナディアの周りには、ブラックウルフの死体が散乱。ナディアの鋭い視線が私に当てられるが、微笑みで返して上げる。


「絶対におかしい」

「あら、どうしておかしいのですか?」

「あのブラックウルフの数だ!! 前に行った騎士団――――どうした?」

「――――簡単ですわ」


 私の声に眉をひそめるナディア。


「騎士団全員、私とナディアがやられるのを楽しみにしているの」

「はっ?」

「お兄様は、私を冒険者にさせたくないものですもの」

「なら、こんな危険に晒すような」

「外の世界は怖いってことを身をもって体験すれば良いって、思っているのですわ」

「貴族とはそういうことをするヤツらなのか?」

「分かりませんわ」


 ライフェイザ家当主であり私の父親であるダグラスは、少し野心家。兄フォクスの珍しいギフト《黒獅子》と姉メリアの容姿端麗、才色兼備で王国第王子との婚約。そして自分自身のギフト《鑑定》でさらに上の爵位を狙っている。そこな意味不明すぎる私のギフトで、出世の足枷になるなら排除しようと目論む。

 私は、色々わかっているのですわ。なぜなら【人物図鑑】で兄と姉の説明がありましたもの。

 

「ちょっと、なに怖い顔して」

「大丈夫ですわ。 少しだけ考え事してましたの」

「依頼された身だがら全身全霊、護衛を全うするけど」

「お願いしますね」

「さっきからブラックウルフ倒す度に、何故か体の動きが良くなるし敵も弱くなってきたような」

「先ほどもですが、『慣れた』で良いんでは無いでしょうか?」

「ブラックウルフの首を一刀両断だぞ。 明らかに補助魔法掛けられて――――」

「ナディア。良いんでは無いでしょうか?」

「……」

「良いんでは無いでしょうか?」


 私は瞬きもせずグイッとナディアの顔に近づく。

 一瞬怯むナディアは、私から目を逸らし深呼吸する。


「わかった、わかった。 この場は慣れって……事で」

「ええ」


 呆れてものも言えないナディアは、笑うしかなさそうで私もつられて少し笑ってしまう。

 


 森の奥から大きな叫び声が聴こえる。

 武器を振るう金属の音と激しく飛び交う男どもの声。

 そして、大きな獣の唸り声。

 私とナディアは、無言で頷きその声が聞こえる所に向かう。

 目に飛び込んできたのは、負傷した騎士達の前に赤黒い巨躯の熊。そして、四体の赤い火を口から息のように吐き出す赤黒い犬。

 私は知っているわ。その熊……ブラッドベアと、犬はヘルハウンド。

 兄と数名は、ブラッドベアの間合いをとり牽制してあっているようで、他の騎士もヘルハウンドに圧されている。

 兄の方の騎士がブラッドベアの爪にやられ地に伏してしまう。兄の剣撃にブラッドベアは怯むことなく、向かってくる他の騎士を大きな爪と腕で払い除ける。


「冒険者!! お前聞いているぞ、魔法使って助けろ!!」

「……嫌です。 私はマリベルの護衛だけ(・・・・)しか依頼されてないので」

「ならっ、追加する」

「別途料金やら掛かりますが」

「この状況打開でするなら、幾らでも払ってやるっ」


 舌打ちするナディアは、目の前の状況に臆しているようだ。だが、状況は悪化する方向へ。戦意をなくした騎士達を嘲笑う目付きをする四体のヘルハウンドが、ゆっくりと唸りながら私とナディアに近づく。

 あの火は少し厄介なのよね。魔障の魔物としては強いけど、ブラックウルフよりも機敏性やらそんなに変わらないのよ。

 むしろ、ブラッドベアの方が強靭な肉体、あれが厄介すぎるわ。強い武器を使えば問題ないけど、兄の目前では出せないし。


「はぁ、めんどくさいわね」

「えっ――――それどこから?」


 ため息と共に出したのはごく一般的なロングソード。

 先ほどまで短剣しか持っていなかった私に驚くナディア。

 吠えるヘルハウンドが、容赦なく飛びかかってくる。

 ヘルハウンドの脇を狙うナディアは、剣を構える。

 歯を食いしばるナディアは、力を込め剣を振るおうとする瞬間、白目をむくヘルハウンドは地面へと落ちる。

 口を開くナディアは、私の目を見るなり何か言いたげそう。だけど私はそのナディアに微笑みで返すわ。

 すると、ナディアは少しだけ肩を落とし何も聞かずにブラッドベアと交戦する兄達を見ている。


「冒険者とお前ら――――入れっ」

「……」

「お前らっ、俺は回復するまで持ちこたえろっ」


 崩れ落ち疲弊している騎士達に兄は、恫喝する。無言のまま立ち上がる騎士、少し涙を流す騎士、歯を食いしばる騎士、兄の命令に逆らえず猛威のブラッドベアに向かっていく騎士達とすれ違う兄は、足をふらつかせこちらに向かってくる。


「おい、冒険者……いや平民がっ。 調子こくな」

「冒険者組合の冒険者に向かって、何を分かっているのか?」

「分かってるさ。 でも平民は平民……魔法使えても所詮、平民。持っている回復薬全て渡せ」


 兄のフォクスは、ナディアにむけ見下している。ナディアも負けじと睨み返している。わたしはそんな二人の間に割って入り口を開く。


「呆れましたわ、お兄様。あんな雑魚に負けて」

「はぁっ!? 何を言うマリベルっ! 雑魚だとぉっアレが!!」

「ええ、どう見ても単なる大きな熊しか見えませんわ」

「ええい、ならお前が倒せ」

「お兄様も、他の騎士達と戦っていましたわよね?」

「この俺よりも弱いそこの冒険者連れて、アレが単なる熊かぁっ身をもって知れぇっ!!」


 私とナディアは、顔全体ひくつかせ怒りで顔を赤くする兄の横を通り過ぎる。

 ナディアは、兄を薄らと笑っているのを見たわ。

 心身共に疲弊しきっている兄は、単細胞で簡単で。私がロングソードを持っていることすら気づかないのよ。

 

 森全体を震撼させる咆哮を上げるブラッドベアが私達の前に立ち塞がる。

 騎士達は、恐怖のあまり木々の影に逃げ隠れた。

 

「マリベル、私達の勝てるのよね?」

「魔障を浴びた少し強く硬い体の大熊。 動きが単調だし特殊な攻撃も無い。 よく見て戦えば勝てるわ」


 【魔物図鑑】内で何度も繰り返し戦ったわ。最初はこっぴどくやられたけど、弱い私でも時間をかけて慎重に戦ったら勝てたのよねぇ。


「でも、よく知っているわね。 そんな事」

「えっ、あぁ。 そそそそうよ。 王都からきた家庭教師の方に教えて貰ったのよぉっ。 たしかそうだわ……そうだったと思うわ」


 狼狽えるな私に、ナディアの憎たらしい笑顔。

 あぁ、もうこの苛立ちあの熊にぶつけてやるんだからっ!! 

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