12 ゴブリンどもをけちょんけちょんに。私のランク上げの糧にしてあげますわ。
肩で息をするグレン達。その姿は立っているところがやっと。
猛撃するナディアの周りにはゴブリンの死体が転がる。
ナディアは木の枝にいるゴブリンアーチャーの矢を払い除けつつ、真正面から飛びかかってくるゴブリンを斬りまくっている。
ゆっくりとこの場に登場する私。一瞬グレンと目が合うと口を開いたのは騎士のエンレイ。
「無印が、ここに来たら死ぬわ」
「……」
「エンレイ。少しだけでも時間を稼がせろ」
「何を言う!」
「俺たちがもう一度戦う為! 無印の冒険者が戦場に来たら死ぬ覚悟があるって事だ!!」
「くっ……」
私の横で無印、無印と蔑んでいるの?
まぁ、新人は無印から始まるから仕方ないけど、あなた達はしっかりと目を開けて私の活躍を見てもらわないと。
あなた達の声で私のランクは上がって、私とアイリスを結ぶ赤い糸はどんどん短くなるのっ!!
『キィィッ!!』
飛びかかってくるブラックゴブリン。刃こぼれしたショートソードを振り上げ狙いを定めてくる。
その汚い声に我に戻る私、剣の柄に手をかける。
二つに割れたブラックゴブリンは、私の後ろに転げ落ちる。
「おい、何した?」
「斬った……の?」
「見えない」
グレン達の驚く顔が見ることが出来ないけど、アイリスとのイチャつき妄想を邪魔しやがって!!
木の枝にいるゴブリンアーチャーに剣の切っ先を向ける。
「ストーンアロー、ストーンアロー、ストーンアロー、ストーンアロー……」
幾つも剣の切っ先の向きを変え、ゴブリンアーチャーに向け放つ石の矢。『プギャー』『ブヘェ』と共に枝から落ちるゴブリンアーチャーの肉体は丸い穴がポッカリと空いている。
ブラックゴブリンの姿はなく、目の前にいるのはゴブリンメイジ2体とゴブリンジェネラルの1体。
『ウゲッゲゲゲェッ!!』
ゴブリンジェネラルの放つ言葉に、2体のゴブリンメイジが、前に出て手のひらを突き出す。
口が小刻みに動くゴブリンメイジ。
「ゴブリンメイジ、厄介のが出てきたわ」
「本当、厄介なのよね。一見魔法だけしか取り柄がないのかと思うけど、案外素早いのよねぇ」
「ええ、魔法放つ時が動きが完全に止まるから攻撃のチャンス!!」
「ほんとに、あの口元が汚い」
ゴブリンメイジに切っ先を向ける。
なんで、会話できるほど時間があるのにゴブリンメイジは魔法を放たない……いや放てないのよねぇ。奴ら最初に放つ魔法は必ず少し上の魔法、見合ってない魔法だから詠唱に時間がヤケにかかるのよね。
身をわきまえて初動からそれなりの魔法を放てば良いのに。
「ショックボルトォッ!!」
「へっ!」
切っ先から放たれる電撃。狙うのはあの汚い口!!
ゴブリンメイジの口に入る電撃は、貫通しそのまま頭が破裂。辺りに血をまき散らしゴブリンメイジは何もすること無くただ朽ち果てた。
「さぁ、ナディア!! あとはゴブリンジェネラルだけよっ」
「えっ、えっ、ええぇぇぇっ!!」
ゴブリンメイジの血を浴びたゴブリンジェネラルの目が充血し激しい怒りに震えている。
「私達で倒せるかどうか?」
「ジェネラルってそんなに強いの?」
「前に3パーティーでやっと倒せたけど、勇者グレンのパーティーが動けるなら……」
ナディアが、勇者グレン達をチラッと見ると、顔を曇らせゴブリンジェネラルに集中する。
ゴブリンジェネラル、ナディアがパーティーを組んでいた時の話ということは、冒険者組合長グリフの兄とそこにいる姉シエンと活動していた時って事だよね。強いって周りから伝わるんだけど、このゴブリンジェネラル――――武器は戦斧、頑丈な防具を身につけているが、ひたすら武器を振り回すだけ。戦略的なことなどなく猪突猛進的な所あり。
って【魔物図鑑】に書いてあるし弱点は弱体化魔法と、魔障絡んでるから聖属性なの。
弱体化しまくれば楽勝だし、というか楽勝だった。【魔物図鑑】で模擬戦したときその戦法で勝てたから。
唾を飲み込むナディアは、凄い剣幕でゴブリンジェネラルと対峙。
そのゴブリンジェネラルは、スっと手を出すと突然現れる大きな戦斧。鉄の鎧を身につけこちらに向かってくる。
「ナディア、援護するわ」
「戦える……の」
「戦えますわっ!! ゴブリンを大きくしただけのウスノロじゃない。楽勝ですわ」
「はっ、ははは……わたし死んだな」
「死にませんわ。死んだら私が悲しむわ」
「えっ? それは死ねないね」
ナディアは、剣を握りしめ大声を出しながらゴブリンジェネラルに突撃する。
ゴブリンジェネラル、大きく口を開くとナディアやわたしにむけ咆哮を上げる。
森の木々や葉が、激しく揺れ小鳥たちが逃げていく。
震動が凄いわ。こんな攻撃もってたかしら?
勇者グレン達、先程まで立っていたがゴブリンジェネラルの咆哮で、地面にへたりこんでいる。
まさか、精神作用のスキル?
ナディアは!?
直ぐにナディアの方へ視線を動かす。
既にブンブンと戦斧を振り回すゴブリンジェネラルから攻撃を躱し、反撃の機会を伺って動いている。
ほっ、勇者グレン達が倒れてナディアは倒れないってやはり【ランクB+】の『+』分だけ強いって事――――姉のシエンも同じじゃぁ……あれっ……ナディアの方が精神的に強いって事?
ブンブンとゴブリンジェネラルの戦斧が風を斬る。
ナディアの「こんにゃろぉぉぉっ!」と唸って反撃できない回避一辺倒の状態にイラつきが見える。
考え事は後回し!!
それよりも、早く倒さなくちゃ。
剣の切っ先をゴブリンジェネラルへ、放つ魔法は……。
「クッギャァァッ!!」
怒りだしたわ、魔法効いているのね。
鈍化の魔法……ゴブリンジェネラルの俊敏さや攻撃の速度をかなり遅くしたわ。
あのブンブンってうるさいかったのよねぇ。
ナディアの戦斧を避ける動きが小さくなる。
チラッと私を見るや、剣の柄を硬く握り締め反撃を試みる。
向けた切っ先から再び魔法。
再びゴブリンジェネラルの怒り狂う叫び声。
「遅いっ」
「ウギャァァアァァッ!!」
ナディアの懇親の一撃がゴブリンジェネラルの肩に入る。
脆くも崩れるゴブリンジェネラルの鎧。
防御力減少……そう効くの? あんな硬そうな鎧が砕ける程に!
そこからはナディアの斬撃が、ゴブリンジェネラルに浴びせる。
あらゆる所から血を噴き出し崩れ落ちるゴブリンジェネラルは、そのまま血に伏し動かなくなる。
ナディアが、剣をしまい笑顔で私に近づいてくる。
その笑顔、目が笑ってない。
なにか不服が、おありのようね。
「マァ〜リィベルゥ?」
「あらぁ、ゴブリンジェネラル勝てて良かったわぁ」
「おかしい、おかしいすぎるのよっ」
「おかしいすぎる? ナディアのおかげよ」
私は微笑みをナディアに向ける。
「おぉ……」と困るナディアは頬を赤く染め少しだけ視線をそれした。
ナディアは照れ屋さんなの?
まぁ、これで私の活躍でゴブリンジェネラルを倒した事が知れ渡るし、勇者パーティーでしかもグレンはランク『B』だから、私のランクもそれに近くなるでしょう。
ウフフフッ。
私の脳内にいるアイリスが、褒めてくれているわっ。
「おいっ! お前っ何しやがった!?」
「そうよっ、これは私達のパーティーの依頼」
「うん、私達の依頼……邪魔した」
突然押しかけてくる怒号を私に掛けてくる。
素敵な妄想を打ち消した、勇者グレン達を睨んだ。
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