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1 私の名はマリベル。白の勇者さまに一目惚れと女神像ですわ

「お父様! 早く」

 ありふれた焦げ茶色した長い髪を踊らせ、顔立ちは整っているように見えるがごく一般的な容姿の少女が、後から着いてくる身なりの良い初老の男性に向かって笑顔で呼ぶ。

 

「マリベル! マリベル。 走るなっ」

「はい、お父様」


 私に声をかけた初老の男性はお父様。名はダグラス=ライフェイザ。

 お父様は、この都市を管理している貴族で爵位は子爵。

 子爵家の末っ子として育った私は、お兄様《黒獅子》のフォクス=ライフェイザの凱旋をお父様と共に見に行き迎えに向かっている所。

 この都市から少し離れた所に現れた邪悪な魔物が生まれる魔障を消しに、お兄様は勇者と共に騎士団を率いて見事に魔障を消す事が出来たの。

 お兄様の素晴らしい活躍を聞いていてもたってもいられないわ。

 勇者様も見たいけど、お兄様の勇姿が見たいし何処か怪我とかされてないと良いのだけれど。

 人混みですわ。こうも人が多いとお兄さ……ま!!

 ざわめく人々の声、勇者と騎士団を見たのか歓喜の声がこの都市の空を覆い尽くす。

 だが、私の目に飛び込んできた一人の姿。

 その姿に目が奪われる。

 まるで時が止まったかのように……。

 あのざわめきが消えた。

 可憐で美しい顔、まるで天から注がれた光を受け無垢と言ってもいい白色の絹のような柔らかそうで艶やかな髪の少女。そして一際私の目に止まったのはその青い瞳。

 なぜなら目が合ってしまった。

 人の影に消え見えなくなってしまった少女を追いかける私。

 もう一度、見たい。

 もっと間近で……。

 既に体が動いてしまっている。

 私は、人混みを掻き分け凱旋をする人の前に出る。

 あれ?

 その瞬間景色が沈み、体全体に痛みが走る。

 石畳の窪みに足を奪われ転んでしまった。

 

 痛い!!

 

 だが、そんな事より私はあの少女を――――。

 

「大丈夫ですか?」

 

 何、天使様?

 心地よい声が私に掛けられると、直ぐド汚い声が私の名前を叫ぶ。


「マリベル!! お前っ何してる!?」

「あら、このお嬢さんの名前?」

「ええ、私の妹でして……」

「そうなの……」


 私は顔を上げるとそこには、キメの整った肌をした手が差し伸べられていた。私はその手を取るとぐいっと引っ張られ立ち上がる。

 そんな事より、私はいまあの少女に抱き着いてしまった。

 引っ張られた拍子に抱き着いてしまったのだもの。

 それよりも、それよりも良い香り。

 戦場に行った人の香りではない。


「私も、こんなのでは無ければアナタと友達でも……それ以上でも」


 私の耳元で囁く少女。

 その香りと声色に意識が奪われてしまい、その言葉の内容に気付けなかった。


「勇者様、領主様がお待ちです」

「ごめんなさい。 では……私の名はアイリス。 マリベルさん名前だけでも覚えておいてね」


 あの香りが遠のいていく。

 鎧でわかりに行くが体は華奢のような気がする。

 あぁ、なんて素敵な方。

 私の胸は、激しく鼓動をする。

 落ち着かない動悸、紅潮する顔。

 離れていくアイリスに私は手を伸ばす。

 痛い!!

 手首を掴まれた。そしてアイリスに向けていた視線にド汚い声と共に現れる兄の顔。


「お前、早く戻れっ!! お父様が怒っているぞ」

「はっ!!」


 兄の言葉に我に返る私、そして私の周りにいる大人達が、クスクスと笑っている。

 別の意味で赤面する私は、さらに恥ずかしさのあまりさらに紅潮し人混みの中に消える。

 


 夜、父親に怒られた。

 だが、その怒りは何故か私の心に留まることがなくそのまま消えていく。

 わたしは、いつの間にか終わっていた説教の後、眠りにつく。

 


 あぁ、私の心を全て埋めつくしたアイリス。

 あなたを思うと何故か、苦しくなる。

 胸の奥が、締め付けられるのよ。

 でも、あなたを思うと苦しみから解放される。

 でも、また苦しくなる。

 あぁ、この想いはなんなの?

 あぁ、あなたの声がまた聞きたい。

 あぁ、あなたからの香りが忘れられない。

 あぁ、あなたの手の温もりをもう一度感じたい。

 アイリス、あなたに会いたいわ。

 あなたに合わないとこの苦しみ、解放されないもの。

 

 夜の空と同じく私の心は晴れない。

 ベットの中でアイリスを想いそのまま就寝している。

 そして数日、私は父親ダグラスに呼ばれ、父親の自室に入る。

 そこには兄と姉の姿も。

 兄フォクスの姉メリザ共に目尻がとんがり目付きキツい。

 だが、そんな姉メリザはスタイルも良く、この国十本の指に入る美女である。私は何度も姉とお風呂に入りその姿を見ているが、大人になったら理想の体型なのだ。その姿を舐めるようにまじまじと見ていたら「何見てるの? 気色悪いわ」とまるで嫌な目をして言われた事が数えるだけで数十回とある。娘もそうだから私のお母様も一緒に入った時に同じ事言われた。

 兄は、貴族からも平民からもモテるが、その理由は分からないというか考えない。あんなド汚い声なのよ。 


「マリベル。 なに扉の前で突っ立っている? こちらに来なさい」

「はいっ」


 兄や姉のため息が聞こえるが、無視する。

 応接用のソファに腰掛けると、机の上に並べれたガラクタ?


「お前に話があるが……」

「お父様、これよりも早く言ってあげた方が宜しくては?」

「そうです。 わがライフェイザ家に泥を塗ったコイツに知ってもらうしか」


 すごい剣幕で私を見つめる兄と姉。

 頭を悩ませる父親が、私を睨み口を開く。


「マリベル、この前神殿に行き神の恩恵(ギフト)を承ったな」

「はい」

「フォクスの恩恵(ギフト)は《黒獅子》メリザの恩恵(ギフト)は《並列思考、思考加速》」

「はい、わかってますわ」

「だが、マリベルお前の恩恵(ギフト)は――――意味がわからん」

「私のは《継承》ですわ。 後ろに分からない文字が有りましたが」

「あぁ、この私の恩恵(ギフト)《鑑定》でも分からないのだよ」


 父親の恩恵(ギフト)《鑑定》は物体は勿論、恩恵(ギフト)の意味さえ分かるらしい。だが、私のを鑑定しても意味不明らしい。


「お父様、この世界いえ基礎社会では恩恵(ギフト)の優劣で立場が変わりますわ」

「もう、マリベルも十二歳なのです。 よく分からない恩恵(ギフト)によって辱めを受けるよりも、早めに将来を決めてあげた方がいいかと」


 何を言っているんだ? 私の将来? 勿論アイリスと添い遂げますわ。

 父親は、真剣な目で私の目を見る。

 そんな父親の顔は、仕事以外でも稀に見るけど私に向けられたのは久方ぶり。


「お前は、後3年。 成人するまでに教養を身につけろ」

「……」


 私は無言になり、喉を鳴らす。


「いいか、教養さえ身につければ『お前はある貴族の所へ嫁いでもらう』か『神殿に入ってもらう』身につけなくてもどちらかだ」


 へっ? 何を言っているのお父様?


 目が点になる私。

 椅子から腰を上げ近寄ってくる父親から女神像を受け取る。


「これは、勇者アイリス様が、魔障にいたゴブリンの巣から持ち帰ってきた物だ。 ここにある物が全てだが、鑑定の結果これは魔法や呪術等の類は掛けられてないからな」


 父親は、そのまま椅子に戻る時「その女神像、すこし色合いが違うが鑑定で女神像と出たからな」と椅子に手をかける。

 父親は椅子に座るろうとすると、兄や姉の顔を合わせると頷く2人。


「お前達もこれでいいか?」

「ええ、私はそれでいいですわ」

「まぁ、マリベルの為に思えばこそです」

「そういう事だ。 マリベル――――」


 兄と姉の言葉に私は、席を立つ。


「なにを勝手に!! 私がこんな変なギフトを貰ったからぁっ!?」

「マリベル、お父様はお前の将来を考えて言ってるんだ!!」

「そうよっ、女は貴族に嫁ぐのがいいのよ」

「お姉様は、第三王子と婚約してますから良いけど。 私はどこのか分からないの。 それに私の気持ちなんて考えてもないじゃない!!」


 私は、そう言葉を吐き捨て部屋から出ていく。

 

 細身で黒髪の女神像を握り締めながら自室に戻り、ムスッとした顔のまま着替えベットに潜る。

 アイリスの想いがさらに強まる。

 あの日から数日、アイリスは勇者として別の地へ向かった。

 私は、もう会えないアイリスを想いながら、あの二つの選択肢しか選べないの?

 涙目ながらベットの中で考え事をしていたら。

 寝る前にしておけば良かった……。

 我慢できない……。

 ベットから飛び起き、血なまこになって扉のノブに手をかけ扉を開けたと思っていたら、部屋に入ってくる闇。

 その闇が部屋を真っ暗にし、わたしもその闇に包まれ意識が遠ざかっていく。

 僅かに目に入ったのはあの貰った女神像が目を光らせていた。 


読んでいただきありがとうございます。


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