剣闘奴隷編 2日目
不定期更新ですが、最後まで読んでもらえると幸いです。
目が覚めると、冷たい石の上にいた。
いや、正しく言うと石畳の上と言った方が合っているか・・・。
今日も変わらず、会社と家を往復する日のはずだった。小さい頃から住み慣れた家で慣れた布団で寝ているはずだ。
今は、石の冷たさが非情にも現実だと感じながら、どこか受け止めきれてない自分もいる。
ただただ、困惑しながらもまず気が付いたのは足元の怪しげな魔方陣だった。
次に周囲を見渡す。
薄暗く窓もないジメジメした空間、淀んでいる。
そして、見たこともない男女が10人程度いる。
そして、それらを囲うようにアニメや映画でよく見る甲冑を着て腰には剣を携えている兵士が多数囲み、ローブを着た数名の老人が甲冑を着た人たちの一歩後ろでこちらを見ていた。
なんだろうかすごく嫌な視線を感じる・・・。
周囲からはこちらを品定めしているか、蔑んでいるような普通の人間に対して向けるような視線ではなかった。
ざわめく俺たち、数えると男女合わせて12名ほどだ。
皆高校生ぐらいに見える。
格好はジャージやスーツ姿、普段着など様々だった。
急な展開で混乱もあり、反論出来るような雰囲気ではない。ただただ、唖然とするしかなかった。
「よし、儀式は成功した。“流れ人”よ。よく来られた。説明することは沢山あるが、まずはこちらに来て頂きたい。」
ローブを着た老人に言われるがまま、石造りの部屋から出る。
甲冑を着ている兵士が周囲を取り囲んでいるので、暴れることも逃げ出すことも小心者の俺にはできなかった。
怪しげな部屋から出ると部屋と同様に窓もなく、カビ臭い空気が鼻に突いた。
どうやらここは地下なんだろうと無駄に冷静な分析をしつつも前を歩いている人に付いて行くしかなかった。
階段を上り、次の部屋へと通された。
先ほどいた地下の部屋よりかは、明るく小綺麗な部屋で少しホッとした。
部屋には水晶が置かれた机にフードを深くかぶった人が既に座っていた。
俺ら“流れ人”たちが全員部屋に入る。
「一人ずつ水晶の前に。」
深々とフードを被った老人が言う。
兵士が俺らを一列に並べ、一番端にいた男から水晶の前に立つ。
フードを被った者がボソボソと独り言を話す。声的には老婆か、呪文のようなものを口ずさんでいる。
すると、それに呼応するかのように水晶が淡く光った。
時には強く、時には弱く。光る色も人によって違うようだった。
「最良」、「良」、「不」と三段階評価みたいだ。
「最良」と呼ばれると周囲が少し騒めいていたので、珍しいのだろう。
逆に「不」と言われた者に対しては、失笑と失望したような目でその人を見ていた。
これまで「最良」が2名、「良」が4名、「不」が2名だ。
この評価で何が変わるか分からないが、良い方が良いに決まっている。
何しろこんな訳も分からない所で、「不」と判断されたら何をされるかも分からない。
「最良」と判断された人たちは少し余裕そうな表情をしている。なんだろうか同じような境遇なのに既に優越感を感じているのか・・。
逆に「不」と判断された人は既に顔に覇気がない、青ざめた顔をしている。
そして、とうとう俺の番になった。
水晶が光る。
ただ、色は無く靄のように漂っている弱い光だ・・。
「不」
現実は無情だった。
その後も次々に判断されて、結果は
「最良」が3名、「良」が4名、「不」が5名だ。
「今年は豊作だったな・・・。」
そう水晶で俺らを判定した人が呟き、「最良」と「良」の7名は違う部屋へと移動していった。
残されたのは俺含めて5人
男が4人で女が1人
兵士の一人が口を開く。
「君たちに拒否権はない、これから奴隷契約をしてもらう。」
あぁ、これは想像してなかった。単純に元の|場所・・)に戻してくれるなら良かったのに、もしくは適当に放任されるだけかと思ったが奴隷ときたか。
「ふ、ふざけんなっ!勝手な事して何様だっ!」
男の1人が怒りだして、喋った兵士に食ってかかる。
「なら、今死ぬか?」
兵士が腰の剣に手を置く、周囲にいる兵士もガチャリと動いた。
「く・・・」
口答えさえもできないそんな状況で男は下がるしかなかった。
既に俺ら5人には選択肢としては、今死ぬか奴隷になるしかなかった。
数分もすると、黒いローブを着たやせ型の男と皮製の鎧を着た厳つい男二人が入ってきた。
「今回は少ないですね~。」
にやにやと下品な笑いでこちらに近寄ってきたやせ型の男。
「ならさっさと済ませてしまいましょうかね。」
そういうと、屈強な男に首輪を付けられ、ナイフで指を切り不思議な用紙に血を垂らす。
それで奴隷契約が済んだようだ。
その後、やせ型の男ら二人に連れられ建物の外に出る。
「女とそこの男一人はこっちの馬車、他はこっちの馬車に乗れ。」
女性とイケメン風の男は赤色の木製の馬車に乗せられ、俺を含む男3人は黒色の鉄格子が付いている馬車へと乗り込む。
「これからどうなるんだ・・・。」
頭を抱えながら色白い青年が一人がそうつぶやく。
「くそっ・・・。なんでこんな目に合わないといけないんだ。」
先ほど兵士に食って掛かった短髪の男も拳を握り足の震えを抑えているようだった。
「分からない。」
俺はそうつぶやき、今は遠い平穏な生活を思いながら鉄格子から見える二つの月を眺めるだけだった。
最後まで読んでもらいありがとうございます。
誤字脱字や訂正、コメント頂けると最高です。 あとブックマもいただけると喜びます。