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ノベル4巻&コミックス5巻 同時発売記念SS

第一章と第二章のちょうど間くらい。

レナートがミミの実家に婚約の挨拶に行った時のお話です。


婚約手続きを終え、ミミのお父さんとムーロ王国王太子バルトロメイ(次女ニーナの夫でもあります)とレナートが応接室で談笑しています。

「お父さーん! テオが泥まみれで帰ってきたー! ライモンド様も巻き込まれてるから、ちょっとお風呂に入れて洗ってくるわねー!」


 応接室の扉から顔をのぞかせたマリーアが叫んだ。ゆったりとソファに腰掛け談笑していた父、バルトロメイ、そしてレナートが振り返る。


「レナート殿下、すぐに戻るからのんびり待ってて!」


 そう言ってマリーアは、バタン、とドアを閉めてどこかへ行ってしまった。


「……ライモンドもミミが風呂に入れるのだろうか」


 レナートのつぶやきに、バルトロメイが噴き出す。


「そんな勢いだったから、ありえるかも。ミミちゃんならやりかねない」


 アンノヴァッツィ公爵が大きなため息をついた。


「我が家はうるさい者ばかりで落ち着かないだろう。すまないね、レナート殿下」

「いえ、賑やかさでは王城も変わりませんから」

 

 レナートはそう言って微笑んだ。バルトロメイがにこにこしたまま小首を傾げる。


「公爵、僕の心配はしてくれないんですか」

「お前もうるさい中の一人だろうが」

「そうかなあ」

 

 笑い合う二人を横目に、真面目なレナートは、自分もいつかお前と呼ばれるようになろう、と心に誓った。

 

「テオが泥まみれだったそうですが、大丈夫でしょうか。怪我など」


 心配そうに眉をひそめるレナートに、公爵とバルトロメイが顔を見合わせて笑った。


「殿下、多分テオは転んだわけじゃないよ。どちらかと言うと自分から泥まみれになりにいったんじゃないかなあ」


 バルトロメイはそう言うと、ねえ? と公爵に視線をむけた。


「先日雨が降ったからな。林の中の日陰はまだぬかるんでたんだろう。あいつ、最近は林の中を走り回るのにはまってるから、ライモンド君に見せてやったんじゃないか」

「は、走る姿をですか?」

「走る姿を」


 公爵が頷き、バルトロメイも続いて頷いた。


「たまに僕もテオに、ご飯食べるの見てて、と言われるよ」

「なぜだろう……」

「ちっちゃい子ってそういう感じだと思うよ」


 首を傾げるレナートの肩をバルトロメイが叩く。

 公爵は腕を組み、さも当然といったように胸を張った。


「テオは丈夫だから、怪我などの心配はない。うちの子たちは皆丈夫だが、あの子はひときわ丈夫だ。男の子はやはり作りが違う。先日も崖から落ちたがピンピンしていた」

「崖から?」


 レナートが声を上げた。これにはバルトロメイも驚いている。


「崖を登るという特訓があるのだ。弟子たちが登ってくるのを私は上から見ていた。その日は妻が観劇に行くと言うので、私は子守しつつテオをこういう感じで抱きかかえたまま指導をしていた」


 公爵は左手を曲げ、子供を片手で抱きかかえる仕草をした。


「崖を登ってくる弟子たちの中で、登りながら喧嘩を始めた奴らがいて、危ないから止めろ、と叱っていたんだ」

「そ、それは危ないですね」

「ああ。急にそいつらが喧嘩を止めたと思ったら、崖を登ってきていた他の弟子たちも青ざめて動きを止めていた。気づけば腕にテオがいなかった」


 さすがにレナートとバルトロメイが顔をしかめる。子供を落としても気付かないとは、どれだけ怒っていたんだ。


「結論から言うと、ゴッフレードが崖の下でテオを受け止めたので無事だった。崖を登っている最中だったニーナが見たところによると、テオはきちんと回転受け身の姿勢を取りながら落ちて行ったそうだ」

「13番の回転受け身ですね」

「おお、レナート殿下。よくご存じで。やはり先に受け身を教えておいて良かった。わはは」

「ちょっと待ってください、公爵」


 こめかみに指をあてたバルトロメイが声をかける。大きな口を開けて笑っていた公爵がぴたりと動きを止めた。


「ニーナが崖を登っていたんですか?」

「ああ。崖を登るニーナの頭上を笑顔のテオが回転しながら落ちて行った、と言って……ん?」

「王太子妃のニーナが、崖を登る訓練を?」

「あれ?」


 公爵がぐりんと大きく首をひねる。何事かと、レナートは黙ったまま二人の会話を聞いていた。

 眉間にしわを寄せ、バルトロメイが口を開いた。


「それ……テオじゃなくて、ミミちゃんの思い出なのでは」

「えっ」


 声を上げたのは、レナートの方だった。公爵が気まずそうな顔をしながら、レナートを見た。


「……そうだった。ニーナが崖登りの訓練をしている頃に幼児だったのは、ミミだな……」

「公爵、それ、十数年前の記憶ですね」

「ついこの間のような気がしていたのだが、そうか、あれはミミだったか」

「ミ、ミミが崖から……落ち……」


 額に手をあてたレナートが天井を見上げた。しかも、無事だったとは。さすが私のミミ……いや、さすが、なのか?

 腕を組んで、ううん、と唸った公爵が、パッと顔を上げる。


「そうだ、今年の豆まきでは、テオは鬼役の弟子に取り押さえられたのだが、怯むことなく鬼をボコボコにしたのだ。しかし、なぜか鬼チームにいたサンドラの奇襲攻撃には敵わず蹴り飛ばされ……。いや、これもミミだったか」

「大人のサンドラちゃんは、豆まきに参加するタイプじゃないですもんねえ」

「じゃあ、これはどうだ。年の数しか豆をもらえなかったテオは、自分の分が一番少ないと泣いて暴れ、ジョンナの豆を奪おうと喧嘩になり、……イデアが自分の分の豆を二人に分け与えてその場を納め……これも、ミミか」


 公爵はさらに唸りながら顔をしかめた。


「子供というのは本当に成長が早い。つい先日生まれたばかりだったのに」


 そう言って、ぶつぶつと口の中で言い訳を繰り返している。


「まあ、ミミちゃんの小さい時って、テオにそっくりですからねえ。あはは」


 バルトロメイが朗らかに笑った。公爵も一緒になって笑い始めた。


「そうなんだ。ミミもテオも、とにかく健康で丈夫なのが取り柄だ。レナート殿下、末永くよろしく頼むぞ」

「は、はいっ」


 突然話を振られたレナートが、あわてて返事をした。バルトロメイが笑いをこらえている。

 ミミの昔話を聞けたらいいな、と思ってはいたが、想像していたよりもかなり激しい想い出だった。期待していたのは、酸っぱいレモンを齧りびっくりして泣いちゃった、とか、そういう可愛らしいエピソードだ。

 確かに、このような大らかな家風の中でのびのび育てば、ミミのようにちょっとやそっとじゃへこたれない強く明るい性格になるのかもしれない。

 公爵はやっとテオの思い出話を思い出したらしい。バルトロメイがそれに程よく相槌を打っている。

 二人の会話を微笑ましく聞きながら、レナートは、豆まきの時にはとりあえずミミに渡す豆は一番多くしよう、と心に誓ったのだった。


ミミ「王族の豆まき、何かすごそう」


本日2/7(水)逃げ釣りノベル4巻、コミックス5巻 同時発売!


ノベルは無事結婚したミミとレナートの新婚旅行編、コミックスはまさにレナートが婚約挨拶にムーロ王国を訪問しています。


同時発売記念に、ノベルには牡蠣先生の書き下ろし漫画、コミックスには私の書き下ろしSSが載っています。

バレンタインをテーマに、牡蠣先生の漫画→→私のSSと続いています。

そんなつもりはなかったのですが、レナートが不憫なので(;´Д`)是非両方読んでくださいね。


どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらずぶっ飛んでて面白い! [気になる点] 早く続きを… [一言] 大好き!
[一言]  姉の子から目を離したらバランスボールにつかまったまま階段を転げ落ちて遊ぶという暴挙をかまして大泣きしていたことがあります。叔父さんまじびっくりだよ……。  他にも甥か隣の席から離れないの…
[一言] すごい豆…… 先日、グーグルさんのおすすめ情報で流れてきたサイトによると、モダマとかいう巨豆は、直径5、6センチの円盤状でとても固くて水に浮くのだとか。 あいにく食用ではないそうですが。
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