コミックス2巻 発売記念SS
本日、コミカライズ「逃がした魚は大きかったが釣りあげた魚が大きすぎた件(漫画:ながと牡蠣先生)」2巻が発売となりました!
巻末に私が書いたSSも載せていただきました。
各書店さんで特典もあるようです。牡蠣先生のTwitterで告知されていますので、チェックしてみてください。
調査報告書 (ムーロ王国潜入調査について)
報告者:呪術師 ベンハミン
調査目的:
呪術者の呪いを打ち返す武器、及び、その素材の収集
調査方法:
現地にて情報収集
調査内容:
サンデルス帝国からの旅行者として、ムーロ王国へ入国。
関所のやたらとガタイの良い役人に呼び止められ、有無を言わさず応接室へ拉致される。体格的に抵抗は無駄と判断。そのまま軟禁される。(ただし、応接では尻が跳ねるような高級なソファに座らされ、平民にはとても手の届かないような紅茶と茶菓子を給仕され舌鼓を打たされる。こちらを油断させて隙を作る作戦の模様)
すぐにこれまた、さらにガタイの良い兵士四名がやって来て、当方の身柄を引き取る。ちょっとやそっとでは壊れないような、見るからに頑丈な馬車に押し込まれ、移動。馬車の周りは兵士四人が騎馬で並走。逃走は断念。
兵士はアンノヴァッツィ公爵家の遣いであった。隊長らしき男がゴッフレードと名乗る。ルビーニ王国次期王太子妃マリーア・アンノヴァッツィ公爵令嬢より、当方の情報が共有されていた由。
軟禁された馬車には高級なフルーツ、茶などが用意され、非常に快適にアンノヴァッツィ公爵家へ収監される。
一人ではとうてい開閉することのできないような重厚な扉、厚い天板の大きなテーブル。椅子は一度座ったら二度と立ち上がれなくなるほどの快適さ。この後、ここで大勢の軍人に囲まれ尋問されるのだと思えば身も震えあがるような恐怖を覚えずにはいられず、給仕された菓子を頬張り気を紛らわした。
窓から燦燦と降り注ぐ陽光に照らされ、非常に美味なフルーツティーの香ばしさに鼻腔を焼かれ、非常に不本意ながら体が沈み込むようなベッドにて意識を失う。
うすら笑いを浮かべた不気味な侍女に揺り起こされ、有無を言わさずに部屋を移動させられる。
大きな扉の向こうには、アンノヴァッツィ公爵当主と奥方、跡取りであるテオドリーコ卿(4歳)、そして、四女のジョンナ嬢が待ち構えていた。公爵の眼光の鋭さに抵抗を断念し、ひとまず従順な態度を見せ席につく。
見るからに高級な肉、この時期にはめったに獲れない魚、屋敷の畑で収穫されたという新鮮な朝採れ野菜を、帝国兵かと見間違うかのような屈強なメイドたちに給仕される。
どんなに拒もうとも、遠慮するな、と高慢にのたまう公爵の声のせいで、目の前の皿が空くことはなかった。簡単に逃亡できないよう、敵は当方の腹を脹らませる作戦と推測。抗う術無し。
毒の可能性を疑い、全ての飲食物に解毒の呪いをかけたような気もするし、しない気もする。
ジョンナ嬢の笑い声に鼓膜の危機を覚えつつも、無難に会話を交わし、ほうほうの体でその場を辞す。
再び監禁部屋に戻ると、一度沸かした湯を冷まし、肩までゆっくりと浸かれる程度のぬるい湯に沈められた。薫り高く泡立ちの良い石鹸を与えられる。遠方からの旅程で汚れた体を侮蔑しているのだろう。思う存分泡立たせ、石鹸を小さくすることにより、こちらのささやかな抵抗を示しておいた。
入浴後は、再び非常に不本意ではあるが、かすかに花の香りのする清潔なシーツに身を包んでベッドで休息。今後の敵の出方が不明のため、体力だけでも保っておかねばならないため、やむなくベッドをつかうことを選択。誠に、不本意である。
またもや不穏な笑みの侍女(昨日とは違う)にたたき起こされ、強制的に窓辺の椅子に腰掛けさせられる。身も縮むような冷水で洗顔させられ、歯にしみいるようなレモン水を飲まされる。風呂とベッドのせいでやたらと体が軽く、さわやかな目覚めを強いられ、今日この後行われるであろう尋問を思うと腹が奇妙な音をたててきしみ、朝食を完食してしまう。屈辱だ。
※余談ではあるが、アンノヴァッツィ公爵家の別棟には“弟子”と呼ばれる兵士の宿舎がある。
国内外からアンノヴァッツィ武術を学ぶために弟子入りしたものたちが寝食を共にし、日々鍛錬に励んでいる模様。中には帝国出身者もいると聞く。
食堂を覗くと、筆舌に尽くしがたい大きさの鍋がたくさん並べられ、弟子どもが奪い合うようにして食事をしていた。みるみる鍋の料理がなくなっていく様は圧巻であった。
地味ではあるが、これもまた対呪術の秘密の一つであるのかもしれない。
街へ出たいと希望を出してみると、マッキオという御者がやってきて、地獄からやってきたような猛々しい馬が引く馬車に押し込められる。ちなみにマッキオもゴッフレード同様やたらとガタイが良い。小生の身長では見上げても胸筋が邪魔をして顔がよく見えなかった。
不当に軟禁されているとはいえ、ある程度の自由は保障されているようだ。
王都へつき、予定していた店をまわり、ムーロ王国独特の鉱物や好物を物色。その間、マッキオにより終始監視され、途中、大きな食堂へ連行される。庶民向けらしい店の庶民向けの定食を食す。※支払いは「オジョーサマガ、オセワニナッタソウデ」という謎の呪文を唱えたマッキオが済ませた。ごちそうさまでした。
いくつかの鉱物を入手したものの、ルビーニ王国次期王太子妃マリーア・アンノヴァッツィ公爵令嬢の使用していた小型武器の材質とは異なるようである。
最悪、口封じされる覚悟のもと、マッキオに材料を審問。
比較的安易に、小型武器製作者の在籍する宝飾店へ連行される。
丸眼鏡の店主の経営する店の奥には、狭い工場があり、秘密裏に王家や高位貴族からの依頼の品を製作していた。
「マリーアちゃんのナックルの素材? なんでそんなの知りたいの? ほい、これだよ。軽くて丈夫な鉄だよ。帝国のほうが丈夫な材料あるんじゃね?」
と、非常に侮辱的な言葉を投げつけられながらも、何とか手渡された素材を確保。
ルビーニ王国次期王太子妃マリーア・アンノヴァッツィ公爵令嬢の姉たちも同じ素材で制作した武器を所持しているとのこと。形はそれぞれ違うものの、どれも手にはめて使用。
非常に硬質、かつ、軽量。加工にも特別な技術は必要ない、とは店主の談。要検証。
素材、武器の購入経路を入手したため、ムーロ王国を脱出したいものの、マッキオの監視からは逃れられず。体格のわりに素早い動きははやぶさのごとし。穏やかに見せかけて鋭い目つきは猛獣のごとし。
隙のないマッキオからは逃げられないと判断、命に従い、屋台での食べ歩きに連れ回される。串焼き肉、甘いクレープがとくに美味。胃袋から懐柔しようとしているのがあからさまであったが、抗うすべなし。無念。
公爵家にもどると、屋外で弟子たちとともに夕餉。無骨な野菜をぶち込み得体のしれない動物の臓物を煮込んだ野蛮な汁物を食べさせられる。
不快な香り、不気味な食感に耐えきれず、胃の消毒のためについつい酒が進んでしまう。無念、まさに無念。
弟子の他、公爵夫妻、テオドリーコ卿(4歳・無邪気で元気)、三女サンドラ嬢が同席。なかなか行ける口のサンドラ嬢に勧められムーロ王国産の酒を飲み比べ、そこから記憶をなくす。しかし、明朝には二日酔いもなく快適に起床。成分を分析すべく、昨夜の酒も譲ってもらう。
※これは自分で解析しますので、提出はしません
アンノヴァッツィ公爵家に監禁されること一週間、相変わらず弟子たちは見上げても顔が見えないので、胸筋の形の違いで見分ける術を会得。
王都、そして主要な観光地に引きずり回され、毎夜くたくたで就寝。
王城にも連行され、国王、王太子、第二王子、第三王子と謁見。呪いを見てみたいというので、窓辺にあった観葉植物を急激に成長させ天井まで這わせてみたら、全員大爆笑。褒美に王城謹製ハム詰め合わせをいただく。
※帝国に毒や菌を持ち込むのを防ぐためにちょっとつまんだら手が止まらず、全て食してしまったので持ち帰ること敵わず。何らかの呪いがかかっていた模様。
旅程最終日、皆に見送られながらアンノヴァッツィ公爵家を這う這うの体で出る。関所までは地獄から来た馬が引く馬車でマッキオに送ってもらう。
無事、関所を越え、サンデルス帝国への帰途につく。
見解:
ムーロ王国の国民は非常に友好的で楽観的。アンノヴァッツィ公爵家で修行した弟子たちが国中に在住しているため、治安が良い。食べ物がおいしい。産地直送がほんとに直送だった。
結果:
また行きたいです。
上長確認: 【差し戻し】
・日記ではなく、ムーロ王国の近況、経済、また、目的の武器素材について詳細に記載すること
・「ルビーニ王国次期王太子妃マリーア・アンノヴァッツィ公爵令嬢」で文字数を稼がないこと
・3日目以降も初日の熱量で記載すること
・ハムには呪いはかかっていないはずです
・酒代は経費とは認められません
皇太子アントーニウス所見:
旅行楽しんでんじゃねーよ!
「次にくるライトノベル大賞2022」に逃げ釣りをエントリーしていただきました!
ありがとうございます!
投票まだの方、逃げ釣りに投票いただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします!!




