お茶会 1
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とうとう明日、完結です。
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麗らかな晴天の下、ピノッティ侯爵家ではごく私的なお茶会が開かれ、私とアイーダが招待されていた。
「田舎者はこのようなケーキの取り方も知らないのでしょうね! この精巧かつ優美なフォルムを崩すことなく私が取り分けて差し上げますから、感謝なさい」
「わあ、ありがとうございます。ロザリア様って器用ですね」
ロザリアは今日もガッチガチの見事な巻き髪で私を見下しつつも、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。
確かにムーロ王国では見たことないような何が入ってるんだか分からない美しいケーキを小さな口でちびちび食べ、背筋を伸ばして紅茶を飲んだ。私は日々厳しくなっていく淑女教育を順調に習得し、卒業も近いのではと自負している。
「ロザリア様のお家はとっても素敵ですね。目に入る物全てご立派ですし、見て、アイーダ。このテーブル、こんなに華奢な足なのにとっても頑丈。私もこんな風になりたいものですわーおほほほほ」
「……ミミ。あなたの向上心は感じられたわ」
「えっと、それは褒められた、ということで」
「間違えた、ってことよ」
「あちゃー」
ロザリアが半笑いと呆れの中間の顔で私とアイーダの会話を聞いている。そして、上品な仕草で紅茶のカップを持ち上げると、最も美しく見える角度で一口飲んだ。
「……マリーア様、何でもレナート殿下がムーロ王国にわざわざ足をお運びになるそうですわね」
冷たい口調ではあるが、私の跳ねた髪を片手で直してくれながらロザリアが訊ねた。彼女は令嬢でありながらも、美容に関することにとても詳しく、化粧や髪結いなども自分ですることができる。つい必要以上に動き回ってしまう私の乱れた髪を激怒しながらいつも整えてくれるのだ。
「ええ、そうなんです。来月うちへ来て家族に会ってくださるそうです。その時に一気に婚約の手続きをしちゃうって、ライモンド様がおっしゃってましたわ」
「まあ、まだ手続きしてませんでしたの」
ロザリアが珍しくきょとんとした表情をした。それを見たアイーダも珍しくおかしそうに笑った。
「レナート殿下があまりにもミミにご執心だからか、皆さんその様におっしゃるんですよ」
「アイーダ様には失礼ですけれども、あんなレナート殿下初めて見ましたもの」
「ふふ、ミミだから、殿下もあんな表情をなさるんでしょうね」
アイーダとロザリアが扇で口元を隠しながら笑う。この二人はつい先日までレナートの婚約者とその座を狙う令嬢だった。それがなぜ二人揃って私をからかっているのか……。
私は赤い顔を隠すように両手で頬を覆った。
「そういう時は扇を使いなさい、と教えたでしょう」
アイーダにぴしりと手を叩かれ、私は慌てて扇を広げた。
三人で扇から目だけを覗かせてしばらくの間見つめ合った後、堪えきれずに全員で声を上げて笑った。
「おやおや、ずいぶんと楽しそうですね」
扉がノックされ、すらりとスタイルの良い紳士が部屋に入って来た。
体の線を最大限に品よく見せるよう計算されたフロックコートに身を包んだこの紳士は、ロザリアの父であるピノッティ侯爵だ。髪の一本一本までコーティングされたように輝くオールバックが良く似合っている。
「侯爵様、お招きいただきありがとうございます」
「国一番の女神と名高いアイーダ様がご訪問くださるなんて、恐悦至極。我が家の格も上がるというものです」
アイーダに挨拶した侯爵が、ゆっくりと私に振り返り最高の笑顔を見せた。
「マリーア様も本日は本当にご訪問ありがとうございます。これからもどうぞ、うちのロザリアと仲良くしてやってください」
「こちらこそ! ロザリア様にはお世話になりっぱなしなんです」
私がそう言うと、ロザリアが気まずそうに眉をひそめながらも頬を微かに赤く染めた。
王都に戻ってから、ナヴァーロ村のヴェロニカから手紙が届いた。正式にウーゴと婚約した、と書いてあった。その手紙を見て、私はふと思いつきでロザリアにナヴァーロ村の不思議な作物の話をしてみたのだ。
「柑橘類ではないのに、花と一緒に嗅ぐと柑橘の香りになる……!?」
ロザリアはそうつぶやいた後、しばらく考え込み、すぐに侯爵家に帰って行った。化粧品、特に香水に関しては造詣の深い侯爵はすぐにこの話に飛びついた。
侯爵自らがナヴァーロ村を訪れ、作物を持ち帰り研究した結果、花だけではなく、果物の種、香木の葉などと合わせても香りが変わることが分かり、新しい香水の開発を始めたそうだ。第一弾の試作品は概ね成功で、私とアイーダも試供品を頂いたばかりだ。
もしこれがうまくいけば、ナヴァーロ村は今よりずっと裕福になる。作物だってもっとたくさん作らねばならなくなるだろうから、人口も増えるかもしれない。先日再び届いたヴェロニカからの手紙には、ウーゴと一緒に作物の刈り取りの真っ最中だが、ひと段落ついたらお礼を兼ねて王都を訪問すると書いてあった。
「マリーア様からご紹介頂いた作物のおかげで、我が領も更なる発展を遂げそうです。本当に何と言ってお礼を申し上げたらいいのか」
侯爵が揉み手しながら体をくねらせる。
ロザリア様が王太子の婚約者を狙っていた頃は私たちを目の敵としていたくせに、ころっと手のひらを返してきた。さすがやり手の貴族である、と感心せざるを得ない。
「私はただ、帰国した道中の思い出話をしただけで、それに気付いたのはロザリア様ですわ」
「ナルディ伯爵もご紹介頂いて」
「間に私が入ると間違ったこと伝えてしまいそうですから、直接やり取りして頂いた方がいいと思っただけです」
「是非今後も何か有用な情報がございましたら、まずはわたくしめにご相談いただけるように、切に、切に」
ダンディな紳士が体をくねらせる様子にアイーダがそっと目を逸らし、ロザリアが心底嫌そうな顔をしている。
「お父様、私たちまだお茶会の途中ですのよ。さっさとお仕事にお戻りくださいませ」
「おお、そうだった。申し訳ない。では、お二人ともどうぞごゆっくり」
侯爵はくるくると回りだしそうに浮かれた足取りで部屋を出て行った。
お留守番中に誘拐騒動起こしてお父さんに怒られたウーゴは、罰として村人の農作業の手伝いをさせられています。
(やってみたら意外と楽しかったらしい)
次回で完結です。
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