ルビーニ王国へ 3
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします<(_ _)>
土日お休みして、次の更新は4日(月)となります。
後書きにお知らせがあります。最後まで読んで下され~
大通りのひと際目立つ豪華な宿で一泊した私たちは、広い浴室と心地の良いベッドのおかげですっかり疲れも取れ、予定通り早朝に街を出た。
「ここからは途中休憩はとりますが、馬を急がせ、夜半過ぎに王都に到着する予定です」
「すまないな、ミミ。私の仕事が詰まっているせいで」
「私は平気です。体力だけが取り柄ですから」
「そんなことはない。ミミの取り柄は明るく元気で素直で親切で他人に真摯で健康で」
「はいはい、馬車が揺れますからね、あんまり喋っていると舌を噛みますよー」
褒められ慣れない私は、止めてくれたライモンドに感謝した。レナートが物珍しさだけで私と結婚しようとしているわけではないのは分かっているが、どうにもそう言った言葉には未だに動悸が止まらなくなってしまう。
赤い顔をしてうつむく私を、レナートが楽しそうに見ていた。
ライモンドと優秀な騎士たちのおかげで、何事もなく無事王都まで到着することができた。もう夜更けも過ぎた頃だったので、私はそのまま王城に連れて行かれた。先に連絡が行っており、きちんと客室が用意されていたのだった。
馬車から降ろされたお土産をすぐに仕分けしてから寝たので、起きたら昼近かった。ここまで誰も起こしに来ないことに呆然としつつ、慌てて身支度を整えていたら、王城の侍女が手紙を届けに来た。
手紙の主は王妃様からで、先日のお詫びがてら一緒に昼食を、と書かれていた。王妃様にお会いできるようなドレスを持って来ていないし、ちょっと面倒だったので丁重にお断りしようと思っていたら、アイーダが王城に到着したと連絡が来た。
昼食にはアイーダも呼ばれていたようで、私のドレスを届けに来てくれたのだった。
「おかえりなさい、ミミ。実家はどうだった?」
数日ぶりのアイーダは相変わらず美しく、女神の微笑みを携えて私の前に座った。王城の侍女が淹れた紅茶を飲む姿は指先まで完璧な角度で、まさにマナーの教科書の様だった。私はアイーダに教わった事を思い出しながら、慎重に紅茶をすする。
「家族全員とても元気だったわ。きっとアイーダのご想像通りに」
「ふふふ、皆さんとは久しくお会いしていないから、近々いらっしゃるのが楽しみよ。テオドリーコも大きくなったでしょうね」
私が正式にレナートと婚約した後、もしくは結婚式で私の家族はルビーニ王国を訪れることになるだろう。全員一緒にしたら相当うるさそうなので、できれば一人ずつ来てほしいところである。
「さ、積もる話は帰ってからにしましょう。ミミは急いで着替えてちょうだい」
アイーダが公爵家から連れてきた侍女たちに目配せをすると、私はあっという間に奥の部屋に連れて行かれ、窮屈なドレスを着せられ髪を巻かれ化粧をされた。これが面倒でなるべくなら王族には会いたくないのだ。
通されたのは王族専用のダイニングルームだった。正式な第二王子婚約者のアイーダはともかく、私が入っていいのか戸惑っていたら、王妃様の侍女に笑顔で促された。
「ようこそいらっしゃい。お座りなさいな、二人とも」
王妃様は既にテーブルについて待っていてくれた。
テーブルも椅子も可愛らしい貝殻のデザインを施されており、よく見れば内装やカーテンも女性的な優しい印象の物でまとめられていた。もしかしたら、ここは王妃様専用のダイニングルームなのかもしれない。
「ここには私しか来ないから、くつろいでちょうだい」
王妃様がそう言うと、テーブルにはすぐに食事が用意された。私の前にだけやたらと肉や魚のフライなどが多めに盛り付けてあるような気がする。朝食を食べ損ねた私は、お腹が鳴るのを必死で我慢した。
「先日は、みっともない所を見せてしまって、本当にごめんなさい」
優雅な手つきで食事を始めた王妃様が、私に言った。
「プラチドにも怒られてしまったわ。いくらミミちゃんのことが好きだからと言って、がっついて独り占めするような真似をしてしまってはダメだって」
「いえ、そそそ、そんなことは」
「わたくし、本当はあなたが戦う姿も見てみたいと思っていたし、その、思っていることをつい言ってしまう、という可愛らしい姿も見てみたいとずっと思っていたの。それがあの日、一気に見ることができたから、こっ、興奮っ、してしまって……」
「王妃様、どうぞ」
アイーダがすかさず王妃様に紅茶を勧める。一口飲んで落ち着いた王妃様が、話を続けた。
「レナートが自分で婚約者を見つけてきた、と聞いてとても驚いたのよ。あの子はあまり自分の結婚に興味がなさそうだったから。生まれた時から王太子候補として育てられたから、常に国のことを考える子になってしまって……自分のために何かを選んだのは初めてじゃないかしら」
私は恥ずかしくなって、魚をぽいぽいと口に詰め込み、アイーダにじとりと睨まれた。
「身分も問題はないし、皆に好まれる性格といい、その辺の騎士よりも強いと聞いたし、次期王妃としてぴったりだと思うわ。この国はずっと国内の貴族との婚姻が続いていたから、そろそろ違う血を入れた方がいいのよ」
隣に前婚約者のアイーダがいるのにそんな事言っていいのだろうか、とちらりとアイーダの様子を窺うと、彼女も深く頷いていた。きっとこんな話を以前から二人でしていたのだろう。
ここまで手放しで賞賛されてしまうと、どうにも頬がにまにまと緩んでしまい、淑女の微笑みを作るのに苦労した。
「きっととても元気な子が生まれるわねー」「ミミの姉弟は皆明るくて健康だからそれは間違いないと思いますわ」と、王妃様とアイーダが勝手に話を進める中、私はふと顔を上げた。
「そういえば、先日の犯人はどうなったのですか」
「ああ、そういえば、それもきちんとお礼しなければならなかったわね。本当にあの時のミミちゃんはすごくかっこ良くて、むしろ襲われて良かったとさえ……」
「オホン」
王妃様の背後に控えていた年かさのいった侍女が咳払いをした。
「あ、いえ、わたしくしを守ってくれて本当にありがとう。それで、犯人なのだけれど、あの後すぐに捕まって今も牢に入れられているわ」
「私を狙ったのでしょうか」
王太子妃の座を巡り命を狙われることさえある、とは聞いていたが、あれほどあからさまに襲われるとは。私は気を引き締めて尋ねた。
「まあ、間接的にはそうね。捕まえた犯人によると、どうやら原因はイレネオのようなのよ……」
「イレネオ様!?」
「イレネオに捨てられた愛人の逆恨みらしいのよ。それが間に何人も入っているらしくて、そもそもイレネオは心当たりがありすぎてその令嬢を特定できないと言うのよ。本当に、王家の恥さらしだわ、あの子ったら」
「そんなにいるんですか」
「そうらしいわ。最近ミミちゃんに執着しているでしょう。ミミちゃんを危険な目に合わせてイレネオを牽制したかったようね」
王妃様が困ったように頬に手をあて、ため息をついた。
下手したら王妃様に当たっていたかもしれないというのに、そんな危険を冒してまで攻撃をしてくるなんて、そうとう恨まれている。
「イレネオ様って見た目通り本当にどうしようもない人なのね」
「ミミ、声に出てるわよ」
「今のはあえて出した」
私がアイーダに怒られているのを見て少し笑った王妃様は、食事の手を止めて私たちに向き直った。
「あの子をかばうわけではないのですけれど、イレネオも若い頃はいろいろあったのです。まだレナートが生まれる前は、彼が王太子候補だったの。あの容姿もあって、王太子妃狙いの令嬢が付きまとい、彼を操ろうとする有象無象の貴族たちが甘い言葉で近付いてくる日々を送っていたそうよ。……レナートが生まれる頃には、イレネオはすっかり人間不信になっていて、あまり王城には姿を見せなくなっていたわ」
あの羽より軽い優男にそんな過去があったとは。私は少しだけイレネオに同情した。
「それがどこで何があったのかはわからないけれど、久しぶりに人前に出てきたと思ったら今の様なイレネオになっていたのよ……」
「私も子供の頃にお会いした時は、普通の優しいお兄さんという感じだったわ」
アイーダが悲し気に眉を下げた。もしかしたら今のイレネオは仮の姿で、自分が祭り上げられてレナートに迷惑をかけないようにしているのかもしれない。それなのに、私ったら彼にとても冷たくしてしまった。
私の食事の手が止まったことに気付いた王妃様が、明るい声で食事の続きを促した。
「まだその犯人の令嬢が見つかっていないから、ミミちゃんは気を抜かずに十分気を付けていてちょうだい」
王妃様に最後にそう注意され、私たちはダイニングルームを出た。プラチドの所に寄って帰る、と言うアイーダとは途中で別れ、私は騎士に案内されてレナートの執務室へ向かった。
新年早々どうしようもない人の話題が出たところですが、お知らせです。
「逃した魚は大きかったが釣りあげた魚が大きすぎた件」書籍化することになりました!
応援いただいた皆様のおかげです。ありがとうございます<(_ _)>
活動報告に改めてお礼を書きますので、お時間ありましたらそちらも見ていただけると嬉しいです。




