優雅 【短編】
私は、頭も悪いし運動も出来なかったけどいつも沢山の人に囲まれていた。
今でもつくづく感じている嫌な思い出といえば、この優雅という名前だ。
優しく和やかで思いやりのある子に育ってほしいという意味で祖母が名付けたらしいが私は気に食わなかった。
小学校高学年の時に好きだった男の子に言われた一言「優雅の名前って男みたいだよな。」
小学生だった私にはかなりこの言葉が重く心にのしかかった。
「そんなことないだろ。」と笑ってごまかしたけど、あの時自然に笑えていたかは今でも不安に思う。
確かに昔からこの名前には気になっていた。幼稚園でも小学校でも同じ名前の子はいた。でも全員異性だった。始めは全然に気にならなかったけど周りは花ちゃん、らなちゃん、優菜ちゃん。名前を呼ばれる時も初対面の人間には私が女だと思われたことがない。
入学式で出席を取るとき大きな声で返事が出来なくて野島優雅という名前だけ見れば男だと思っても仕方ない。出席の時、私と先生が目が合うまでには時間がかかった。
その時の担任の顔は「男の子だと思っていた」と言わんばかりの驚いた表情だった。その感情は幼いながら察していた。
好きな色はピンクだったし、好きなものはぬいぐるみとシール集めだったし、服もピアノの発表会の時に着た真っ白でフリルがたくさんついたドレスが大好きだった。ずっと見とれていた。
だけど物心付いた時から名前でどれだけ人間の印象が変わるかということを感じた。
「らな新しい服買ってもらったよ!」という言葉か「優雅新しい服買って貰ったよ!」という言葉だけを聞いた者が考える同じ服は全く別物だろう。私は気付いた。
私は男の子みたいな名前、優雅でいないといけないんだと。
それに気付いた私は自然に好きなものも全て変わった。同性よりも異性と話が合うようになった。
「優雅ちゃんって男好きだよね。」なんて言葉も言われたことも聞いたこともなかった。
転入生が「優雅ちゃんって女の子だよね。男の子とずっといない?」って言ってても「あー優雅は昔からあんな感じだよ。」転入生はその言葉に納得していた。その話が聞こえていた私もそうそうと思いながら異性と鬼ごっこをしていた。
これが私の小学生の時の話。
中学に進級して隣接していた小学校と合併し男女の距離が圧倒的に遠くなった。自然と私も今までの同性の友人と距離が離れた。名前で呼んでいたその子もあの子も苗字で呼ぶようになった。
だってそれが当たり前だった気がしたから。
そんな私でも案外友達はさらっと出来るタイプだったから沢山の子と友人になった。私は色んな人に囲まれていた。
中学二年生になり、みんなメイクや洋服など少しずつ変わっていった。みんな可愛く綺麗になっていた。私も変わろうと思った。癖っ毛だったから前髪も後ろ髪も全部一つでまとめていたけど強制縮毛して貞子みたいに長かった髪の毛も綺麗な抜け感のあるミディアムに。
してみたかった。やっぱり可愛くなればなろうとするほど過去に言われた「優雅の名前って男みたいだよな。」その一言に囚われていた。
でも垢抜けたかった私はミディアムは諦め念願の強制縮毛をして艶のある黒髪で、ショートカットにした。自分の本心を抑え込んで切ったけど周りからは本当に好評だった。
中学二年の中旬からはお互い同じクラスにはなっていなくてもある程度の名前は言えるという感じだったが私は多分、少し学校内では有名だったと思う。
だって、周りからは「うちの後輩、優雅のこと超かっこいいって毎日言ってるんだよ~。」なんて言葉毎日のように聞いた。悪い気は全くしなかった。
そんな感じで毎日グダグダ生活していた私だけど中学三年になって凄く驚いたことがあった。
どこで入手したのかは知らないけど、私のメールアドレスに同じ学校の後輩が連絡してきて「明日の昼休みに北校舎の3階から4階に来てくれませんか」というメールが送られていた。その場所は全くといっていいほど人通りが無く管理作業員の人が年に数回行き来する程度だったそうだ。
予定してた昼休みになり給食をさっさと食べ終えて私はその場所へ向かった。友人からは「優雅どこいくの~?」と問われたけど「ちょっとトイレ」と言って足早にその場所へ向かった。少し歩けばつく場所なのにだんだん廊下に人がいなくなるのがちょっと怖かったし暑い夏の日だったけど私は少しだけ身構えた。
その場所には小さな華奢な女の子がもたれかかっていた。全然顔も名前も知らない子だったし思っていた想像よりとても美人だった。
肌は真っ白で華奢な体、綺麗な潤んだ瞳に血色感のある唇。それと綺麗な茶髪がかったロングヘア。
過去の私の理想形だった。
「全然想像と違っててびっくりした。可愛いね。」と私が言うと彼女は焦ったように耳を真っ赤にさせて私の方をちらっと上目遣いで見つめてきた。不覚にも私はとても心が締め付けられた。
「それでどうしたの?」と私は自分の気を紛らわすように彼女に問う。彼女は俯きながら息を飲むように汚れを知らない透明感のある声で私に「好きです。付き合って下さい。」と言った。
私は久しぶりに心が舞い上がるのを感じた。
その時の感情はとにかく嬉しかったって感情だったってことしか今になると覚えてないけど私はその場の勢いで「うん、いいよ。」と言って俯いた彼女の唇を奪った。
私もファーストキスだったし多分彼女もそうだったのだろう。ほとんどのことに無関心だったけどその時ばかりはちょっと顔が熱くなった。
私は父親182cm母親168cmと高身長な家庭に生まれた。その遺伝で私も中三にして170cm以上あった。
あの時の彼女の上目遣いやチラっとしか私と目を合わせようとしない表情しぐさがその時の私にはすごく可愛らしく見えた。
今考えると凄く臭いことしたなあって思うけど。
そんな感じで彼女と付き合った。彼女の名前は、佐藤凛花といった。本当に名前と容姿が似合うっていた。たまに彼女がいつか消えてしまうんじゃないかと思ったほど童話に出てきたような女の子みたいだった。
後から友人に聞くと新入生で凄くかわいい子がいるって話で学校中で騒がれていた子だったらしい。彼女は福岡からこの学校へ中学から転入してきたみたいだった。噂によると入学して3日目で2人に告白されたらしい。その話を聞いて私もその他の人達も納得するほど、可愛くて中身も純粋で優しくて一言でいえば綺麗な子だ。
私も彼女も初恋だった。高校になってもずっと続いていて花火大会やショッピング数えきれないほど彼女との思い出を作った。
同性同士という感情は余りなくお互いがお互いを愛していたそれだけのことだった。
一部の人達からは影で「同性でマジで付き合ってるのとか初めて見た。」「優雅ってバイなんだ意外だったなあ」とか変わり者の目で見られたりちょっと心無い言葉も耳にしたけど月を重ねるうちに理解してくれていたみたい。
私も彼女も周りに恵まれいたんだなあと今でも深々と思う。
2016/3/20
大人になったね。
2020/6/25
中学を卒業する時に私が小説投稿サイトに密かに投稿していたものを今、更新した。
凛花は私の隣でちょこんと座りじーっと文章を読んでいた。
「こんなに沢山覚えてるんだ。私もうその時恥ずかしすぎて全く覚えてないよ。」とくすくす笑いながら彼女は呟いた。
私は「そりゃ最初で最後だもん。」と返事をした。彼女は「私もだよ。」と言ってあの時と同じように耳を赤くして俯いた。
私は19歳で大学生になった。凛花は17歳になった。今でも変わらず美人で優しい人だ。
引っ越し作業をしているときに過去のスケジュール帳に挟み込まれていたメールアドレスとパスワードのメモ書きを見つけた私はすぐにこのサイトにログインした。
【完結】