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「お義母さん!」
夫の母がそこに座ってじっと私を見ていた。私はとっさに居住まいを正した。
「美咲さん…お久しぶりね…」
義母は私に向かって微笑んだ。しかし、目は笑っていなかった…。
「お久しぶりです、お義母さん! お元気にされてましたか?」
久しぶりに会う義母は、相変わらず洗練されていた。昔からこの人はオシャレだったのだ。
いつどんな時に会っても髪はセットされ、服もキチンとしたものを身に纏い、イヤリングとネックレスは欠かさず付けていた。ズボラな私とは正反対のこの義母を、私は正直疎ましく思っていた。
目立った意地悪をされたという事は無いのだが、同じ空間にいると、何も話さなくても叱られている気分になるのだ。
由緒正しい家に生まれ、大学までエスカレーター式のお嬢様学校に通った後、大手町のOL、エリートの義父と結婚してからは良き妻、良き母として家族を立派に支えてきた。
立派すぎますよ、お義母さん!
そんな義母であるからして、私は夫と結婚してずっと劣等感の塊だった。
料理はほぼ手作りする義母に対して、私は面倒な料理はお惣菜。教育ママだった義母に対して私はテキトー(のびのび子育てと周りには言っている)。
そういう事を目の当たりにしても、静かで何も言わない義母の美しい横顔が、ただひたすら怖かった…。
「美咲さん、あなた…ずいぶんと苦労しているみたいね。」
「は! 私の不徳の致す所です!」
「ささ、おひとつ!」
女将は熱燗を義母に差し出した。
「ありがとう。タヌちゃんは変わらないわね~。相変わらずキレイだわ。焼けちゃう!」
「ま、お上手!」
お義母さん、タヌキ女将と知り合いなの?
ってか、美人のお義母さんが焼けちゃうって、私にはタヌキにしか見えないんだけど!
私の頭がおかしくなっちゃったの???
義母は上品にお猪口を持って、美味しそうに一気に飲み干した。
「あー、美味しい!」
「お義母さん、お酒…飲まれてましたっけ?」
「飲んでたわよ~! 底なしよ! 飲むと私、けっこうタチ悪かったんだから! 家族の前じゃひた隠しにしてましたけどね!」
義母はお茶目に舌を出した。こんな義母…初めて見た…。
「美咲さん、ご存知かしら? 私たちの世代ってね、木妻世代って言われてるの。私たちがあなたくらいの年齢の時、テレビドラマで「木曜日の妻たちへ」って言う、まあけっこうドロドロの不倫ドラマが流行っててね、内容はドロドロなんだけど、出ている俳優さんたちが、まぁキレイでお洒落で、何よりもそのライフスタイルにみんな憧れてたの!」
「私も見てましたよ! 素敵だったわ~。」
タヌキ女将もウットリしている。
「あ、そう! ドラマの舞台ここよ! たまプラよ!」
「たぬプラ!!!」
女将はシャーっと義母を威嚇しながら言った。たぬプラは譲れないらしい…。




