スターダスト -フーガ -ユズル
お互いが円に入ったことを確認するとユズルは「宜しくお願いします」と丁寧に挨拶をした。
フーガは「よろしく」とそれに答える。
ユズルの身体は輝きを放ち、その光が全身に吸い込まれていく、数秒で強い輝きは収まり淡く光っていた、しかしその光も数秒たつと消え、元の色に戻る。さっきリオンに見せて貰ったオーバーソウルだ、とフーガは思った。
(行くぞ)リオンの掛け声とともにフーガの体も光り輝く、光は全身に吸収され、淡く光る、リオンの姿は消えフーガは自身の体の主導権を明け渡した。
光が落ち着くとユズルの体から光の粒子が放出された。かと思うと光は消える。遅れてフーガの身体からも同様に光が放出され消える。
(リオン何したんだ)フーガはリオンに問いかける。
(塵輝を放出し塵界を張った、オーバーソウルでの戦闘においては塵輝と呼ばれる粒子から物質を形創り、戦闘に活用する。まあ、詳しい説明は後だ、始まるぞ、ユズルが今持っているコインが地面に落ちた瞬間に試合開始だ)
ユズルを見るとその手には一枚のコインがあった。
「じゃあ始めるよ」ユズルはそう言うとコインを空中に投げ飛ばす。高く飛び上がったコインは最高点を迎えるとまっすぐに地面に落ちる。
お互いに構えを取り、コインが落ちるのを待つ。
チャリーン、戦いのゴングだ。試合が始まった。
―――――――――
フーガは自分のことを強いと言ってたけれど手は抜かない方がいいのかな。自分がどのくらい強いのか知りたいとも言ってたし、まずは槍で様子を見てみようかな。
ユズルは先ほどフーガが話していたことを思い出していた。投げたコインが宙を舞っている。
いつでも槍を出せるように集中し構えを取る。
コインが落下する音と同時にユズルの構えた右手には塵輝が瞬時に集まり槍を形成する。
槍を手にしたユズルは素早く間合いを詰め、槍の届く範囲、フーガの目の前へと飛び出し、突きの連撃を繰り出す。フーガは一歩、二歩と後方に下がりながら、右に左と、その突きをかわす。
ユズルはさらに距離を詰めるため、大きく前方に跳躍した。槍を大きく振りかぶり叩きつける。地面は割れ衝撃音が響くが、フーガには当たらない。フーガはさらに後方へ下がり距離を取る。
ユズルはフーガを追うように槍を斬り払うが届かない。
ユズルはすぐに体勢を立て直し、槍を構え直す。再び、突きの構え。
先程よりも素早く、間合いを詰める、地面は蹴りだされた衝撃に耐えきれず砕けてしまう。ユズルは突きの乱撃をフーガに向けて放った。しかしこれも掠りもしなかった。
ユズルはは突きをやめ後方に下がり距離をとる。槍を捨てるとそれは空気中に光の粉となって消えた。
自分で強いということはある。槍での攻撃が掠りもしない。僕の緩急をつけた加速にも平然と対応していた。しかし妙だ、なぜあれ程の身のこなしが出来るのに反撃の一つもしてこない。余裕がなかっただけなのか。
ユズルは背中に二本の剣を刀身が剥き出しのまま形成した。剣は背中に触れている訳ではなく背中の上を浮遊するように漂う。ユズルはそのうちの1本を両手で握る。
それを見たフーガも一本の剣を生成し、手に取った。
ユズルは素早く間合いを詰め右上から斬りかかる、その勢いのまま横回転し、素早く右下から切り上げる。そのスピードは常人の目では輪郭を取らえることができず、空気の層が歪んでいるようにさえ見えた。
フーガはその剣撃を正面からは受けず、力を逃がすように捌いた。滑るような金属音が響く。
ユズルは斬り払い、後方へ距離を取った。剣を水平に構え、そのまま思い切り円盤状に横回転させるように投げつける。回転する剣は物凄い勢いでフーガの元に辿り着きフーガは剣を受けざるを得なかった。
剣で受けてもなお、勢いと回転が止まらない剣を押えるフーガに対し、ユズルはもう一本の刀で回転する剣の下から身を大きく屈め斬りかかる。
その攻撃を見逃さなかったフーガは自身の足元に金属製の銀色のシールドを展開し、これを防いだ。
ユズルの剣がシールドによって弾かれるとユズルは潜り込んだ状態から地面に手を付き回転する剣を蹴り上げ、身を捻り剣の柄を思い切り蹴り付け、真っ直ぐにフーガに向かって剣を飛ばした。
フーガは攻撃をかわすため半身になり仰け反るも右脇腹に刀が突き抜ける。脇腹からは大量の光の粒子が噴き出た。
ユズルは空中にプラスチック製の透明で柔軟なシールドを展開した。柄を蹴った反動を押えるため、片方の足でシールドを蹴り、体勢を立て直して素早くフーガに上から斬りかかる。
フーガは先ほどの攻撃で横腹を貫かれたにも関わらず、この追撃に関しては持っていた刀で受け完璧な対応を見せた。フーガはユズルを剣を完全に捉えると力でこれを弾き飛ばし、強制的にユズルを遠ざける。そして、流れるように持っていた剣を凄まじい速度で投げつけ、ユズルの脇腹に貫通させた。
ユズルはすぐに体勢を立て直し構え直す。脇腹の損傷個所からはフーガと同様に光の粒子が溢れ出ていた。
強い、あれほど複雑に組み上げた攻撃を捌くなんて並みの選手ではないことは明らかだ。しかし、今のは一体なんだったんだ………。彼の脇腹、完全に僕の攻撃速度が彼を上回ったから与えられた損傷だったはず…。なぜその後の追撃が完全に見切られるんだ…。
あと、最後の剣の放出速度はマズイ。あんなものを何発も撃たれたら話にならない。弾力性のある透明なシールドを何枚か前に張り軌道を変えなければ避けきれない。
ユズルは素早く両手を前に構えシールドを展開する。
損傷個所が腕じゃなくて良かった。脇腹なら正確な塵輝操作に影響を与えない。まだ戦える。
相手の損傷個所も同じ右脇腹、損傷比率で言えばまだ完全に互角…。
互角……。互角…?
いや待て、互角なんてことがあり得るのか。相手はこちらを吹っ飛ばす程の力と相手を寄せ付けない程の攻撃範囲があるんだぞ。寧ろなぜこの程度の損傷で済んでるんだ。とっくに腕の一本、いや決着だって付いててもおかしくないんじゃないか…。傷の位置も同じなんて、こんなのまるで訓練で行う指導戦闘じゃないか。彼は僕とほとんど同い年だ。そんなことあり得るはずがない。彼は何者なんだ……。
ユズルは新しく剣を一本生成した。
フーガも再び剣を一本生成し構え直す。
ユズルは剣を水平に構え、先程と同様に剣を横回転させながら投げる。前方に張ったシールドに当たらないよう、今度はフーガの側方に自身から見て弧を描くように操作しながら投げた。
そして素早くもう一本の剣を生成し、一気に距離を詰める。
同時にフーガも剣を左手に持ち直し、右手を前に構え4本の槍を手周辺の空中に生成し、ユズルを狙って発射する。
顔面に飛んできた一本目の槍はシールドに当たり若干軌道がずれる。ユズルは体勢を斜めにすることで避けると避けた先に二本目が飛んできた。別のシールドが槍に当たることでその軌道は少しずれる。ユズルは自身のスピードを殺さないよう、足を前に踏み切り前方に向かって身をひねり回転することで何とか二本目の矢を避けた。しかし着地するところで三本目の槍が左肩を突き抜ける。四本目は剣で斬り払うことで何とか凌ぐことができた。フーガを自身の間合いに捕らえると同時に側方に投げた剣もフーガに届く。
ユズルは切り払った剣を切り返し、右下から切り上げる。
フーガは左手で持っていた剣を地面に突き刺し飛んでくる剣を受け、右手に剣を生成し、ユズルの切り上げを受け流す。
フーガはその後すぐさま右足でユズルの胴体を蹴り飛ばしユズルを後方へと吹っ飛ばした。
ユズルは後方に吹っ飛ぶも空中で手に持っていた剣をフーガ目掛けて思い切り投げつけた。
ユズルを蹴り飛ばしたフーガは、すぐに回転する刃を弾き飛ばした。そして、蹴り飛ばしたユズルに向かって槍を生成し、高速で発射する。
ユズルの投げつけた剣はフーガの左腕を切り飛ばし、フーガの放った槍はユズルの右腕を弾き飛ばした。
ユズルは着地すると後方に飛び、再び距離をとる。
その時のユズルの顔は信じられないようなものを見ているかのように愕然とし、怯えているようにさえ見えた。
左腕の損傷に対してこちらは右腕の損傷。形成は互角なのにかっ、勝てる気がしない。
彼は一体何者なんだ…‼‼
ユズルは自身の中に現れた得体のしれない恐怖に戦慄していた。
体からは大量の塵気が溢れ出る。もう数十秒もオーバーソウルは持たないだろう。
これ以上は………もう無意味かもしれない。僕はもうおそらく勝つことはできない。逆転のイメージがまるで浮かばない。こんなのはお父さんやプロの人たちと戦っている時にしか感じたことがない。いや………、今、僕は、それ以上の高い…壁を感じる…。
知りたい。僕と君にはどれほどの差があるのだろう。
僕はもう君になりふり構っていられない。思いつく限り、鍛え上げた技巧の続く限り、君に挑戦する。君との距離を正確に測りたいんだ。
ユズルは目を閉じた。集中する。深く深く、自身の中に埋没した覚悟、経験、感覚を鋭く強く意識する。血管一本一本に意志を通わせる。それは覚悟の意志、全身が闘気で満たされた。時間にして二秒、目を開いたユズルを包む塵気は全くの別人の様相を呈した。
刺々しい形で統制の取れた塵気は雷を想起させユズルを起点に高速で旋回する。時々、閃光を発し、素人目には稲光にしか見えなかった。
一か八か、倒せるとしたら初見の技を高速でオーバーソウルが朽ち果てる程の最大火力で叩きこむしかない。隙を作る連撃にどこまでオーバーソウルが耐えられるか………。
全てうまくいってようやく相打ち…………上出来だ。
息を大きく吸い込み、フーガを見定める。右手に黒刀を生成し、呼吸を止め構える。片手で刀を握る姿はいびつで体のバランスが取れているようには見えない。息をゆっくりと吐き出す。
“凱歌遠雷”
雷鳴と共に光速で間合いを詰めたユズルから放たれる閃光の九連撃。刀と刀がぶつかる凄まじい衝撃音が九つ重なって聞こえた。予想通り全て受けきられるもフーガを狙った位置に追いやることができた。
宙返りしながらフーガの前後左右に強力なシールドを展開する。前後左右を封じられたフーガが上を見るとそこには高密度に蓄積された塵気の塊があった。
"黎明成雷”
塵気が雷へと変化し、雷鳴と共に巨大な稲妻を打ち下ろす。爆音とともにフーガが閉じ込められた空間を破壊し尽くす。
その一瞬の間、シールドを破壊し、切りかかろうとユズルを見たフーガは、目を見開いた。
"刻雷閃乃矛”
影を絶つ速度で繰り出された突きは雷の砲撃に等しく、爆撃音と共にフーガの上半身を円形に消し飛ばした。
フーガは吹っ飛ばされ壁に叩きつけられる。その衝撃で全身に亀裂が入りフーガの体は光に包まれ元の生身の体に戻った。
己の気力を出し切ったユズルは光を散らすフーガを見て、自身との距離を知ることが出来たと心の中で何かが満たされる感覚を味わった。
ユズルも胸を貫くフーガの刃により全身に亀裂が入りオーバーソウルが破壊される。これは突きを放った瞬間、眼下前方から刀による反撃を受けたためである。それはフーガがオーバーソウルを破壊されてからほんの数秒後の出来事だった。
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「楽しかったぜ、色々参考になった、ありがとなユズル」
フーガはそういうと返事も聞かずフィールドから出て行ってしまった。
ユズルの方からは戦闘に関する助言やフーガの身の上話、聞きたいことが山ほどあったのだが戦いが終わったことに呆然としている間にフーガを見失った。
フーガは僕とほぼ同じ年齢で、父よりも強く、他のプロよりも卓越している。
彼はいったい何者だったのか。
その疑問だけがぐるぐるとユズルの頭の中を這いずりまわった。