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子供と幽霊 -フーガとリオン


異常な力で暴力を振るう女から逃れるためフーガは裏路地を走っていた。

今にして思えば女とは思えない力だった。いや女というよりあの怪力は人間じゃない。何者だったんだとフーガは思う。


「うちの部下が先走り申し訳ない」


後ろから声が聞こえ驚いて振り向くとリオンがいた。フーガは自分が驚かされたことに苛立ち「驚かすな、あの女かと思っただろうが」とリオンに激怒し足を止める。


「すまない、事情を早く確認したくてな、追いついた時点で声を掛けさせてもらった」とリオンは答えた。


「だいたいどうやってついてきた、あの時お前は室内にいたはずだ、お前が窓から出てくるのも見ていない、おれは誰にも後を追えないように逃げていたはずだ」


フーガが疑問を投げかけるとリオンは少し考えた後、「その質問に答える前にいくつか確認したいことがある」といった。


「なんだ」


「フーガ、お前は目が覚めてから一度でも鏡を見たか」


「鏡?見てねえな、それがどうした」


「そこにある窓で確認してみろ」


「なんでおれがそんなことをしなくちゃならない」


「良いから見てみろ」


フーガはリオンが何を言いたいのかわからずイライラしつつもリオンに譲る気配がなく、窓を見る程度のことでむきになる必要性も感じず従うことにした。


「なんっ…だこれ…」窓には目つきの悪い十三歳程度の子供がいた。窓の中にいるのではなく自身の体に連動して動く少年だった。それは紛れもなく自分の体だった。自分が子供の姿をしているその事実に頭がついていかない。


「リオン、どういうことだ、どうして俺は子供になってんだ、答えろ」


「それは私にもわからない、フーガは元々子供ではなかったんだな」


「ああ、おれは二十五くらいだ、二十歳はとっくに超えてる」


「やはりそうか」


「やはりってことはお前何か知ってるんだな」フーガはリオンに掴みかかろうとする。


リオンは後ずさり「まあ待て、もう一つ確認したい」と言った。


「お前はノルンという精霊の話を憶えているか」


リオンはその時のことを思い出す。


―――


それはリオンが遺跡の調査を終え、物資が置いてある拠点に向かっている最中の出来事だった。自身の体が光り出し、その光に包まれリオンはいつの間にか真っ白な空間にいた。

ふと横を見ると長身の目つきの悪い二十台中盤と思しき男も気を失ってそこにいた。おい、大丈夫かと何度か声を掛けると呻き声と共に男が目覚めた。


「ん?どこだここ、何もねえじゃねえか」目をこすりながら男はそう呟くとリオンと目が合った。


「誰だお前、これはお前の仕業か」フーガはリオンに言った。


「いや私ではない、私も気づいたらここにいた」


「そうか、お前も俺と同じってことか、というかどこだここはどうなってんだ、おれは何をしてたんだっけ、ええとユーリと空港で、そうだ犯人を追っかけてたんだ、やばい取り逃がしたことをユーリに教えねえと」男は物々と何か呟いていた。


その時目の前が緑の光で輝いた。そして声が聞こえた。それは脳に直接話しかけられているような不思議な声だった。光の中には何者かがいるように感じたが光が眩しく見ることが出来なかった。

その何者かが滔々と語り掛ける。


『私はノルン、生命の化身であるユグドラシルを守護する精霊です』


『フーガ、あなたは未来で重い罪を犯しました。それは生命の根幹を揺るがす大事件でした』


『私は守護者としてこれを見過ごすわけにはいきません』


『あなたは罰を受けてもらいます』


『闇の精霊の試練を受け、精霊に力を示して心を学んでください』


『試練が終わった後、私があなたを見定めます』


『そしてリオン、あなたも大きな罪を犯しました』


『あなたにはフーガを導く使命を与えます』


『フーガ、リオンあなた方二人にこれを拒否する事はできません』


『二人はダークミラーワールドへ向かってください』


『何をすれば良いか、どこから行けるのかは、リオンが知っています』


『それでは自身の運命に抗えることを願っております』


リオンとフーガは、ノルンの話が終わると強烈な睡魔に襲われ、それ以降は意識を保つことが出来なかった。


ーーー


「あの時、おそらく隣にいたのがフーガだ、あの後、フーガは体を子供にされて私のいたところに飛ばされたのだろう、私も気が付いたら子供になったフーガの隣に倒れていた」


「ふざけたこと言ってんじゃねえ、そんな話信じろってのか」


「信じるも何も、現にフーガの体は子供になり、状況のつじつまも合っている」


「つじつまが合ってるとかそんなのどうでもいいんだよ、ありえねえだろうがそんな話、ふざけるな!!!」逆上したフーガは拳を握りフーガに振りかざした。


しかし、拳はリオンの体をすり抜けフーガは転倒する。


「フーガ、お前はさっきどうやって自分を追ってきたのか聞いていたな、窓の方から出てきたのを見ていないと、その通りだ、私は窓から出ていない」


リオンはそう言うと、自身の腕を壁に押し当てた。手は壁に当たることなくリオンの腕を飲み込むように通り抜けた。フーガはその光景に唖然とする。


「私は壁を抜けてきた、つまり今、私は幽霊なんだ」


フーガはありえねぇだろと息を吐くように呟いた。


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