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不可解


なんなの。なんなの。なんなの。うざいうざいうざい。なに勝ち誇ったような顔しているの。ガキのくせに調子に乗るんじゃないわよ。




リンのこめかみには青筋が立つ。




「このガキっ、殺すっ‼‼‼」




リンの腹部を蹴り飛ばし不敵に笑うフーガにリンはブちぎれた。




塵気が体内の一点に凝縮し、感情の爆発と共に発散する。




辺りには凄まじい衝撃音が鳴り響いた。リンの周辺には時々赤い炎のような揺らめきがほとばしる。雷のように光ったかと思うとその光に追従して炎の揺らめき現れては消える。目には見にくい青白い炎だった。




リンはフーガをにらみつけたまま「ザドクッ」と叫んだ。




「わかっていますよ。周りは私が何とかします。でも殺しちゃ駄目ですよ。捕まえてください」






ザドクの言葉を聞いてリンは両腕を腰の横に伸ばし震えるほど拳を握りしめた。


同時に高い音の小さな破裂音が連続して鳴り響き、拳の皮膚の下から赤白く沸騰した泡のように光る(アザ)が出現した。それは腕を渦で絡めとったかのような渦旋模様(カセンもよう)を取り、紅緋色(ベニヒイロ)に呈色するとリンは腰を落とし構え、大きく息を吸い込んだ。




———【火火煌炎(カカコウエン)渦旋紋(カセンモン)




リンが蹴りだした脚によって地面は砕け散り砂ぼこりが舞う。凄まじい速度でフーガとの間合いを詰めた。




初撃の突き。フーガは仰け反る形でこれを避ける。左腕、右腕からの連撃、紙一重でフーガは右に左に攻撃をかわす。腕で攻撃をガードすることは一度もしなかった。




リンの高速なラッシュは突然目の前から消えた。リンは凄まじい速度で上体を下げ地面に手をつき、蹴りによる強力な足払いを行う。目では追いきれない残像がそこには残る。反射的にフーガは跳躍し、足払いを避ける。




リンの口角がほんの少し上がった。狙い通りだったからだ。


リンは攻撃の動作速度を急激に上げる。先程までフーガに見せていた速度のおよそ10倍。この一撃を喰らわせるための急激な緩急だった。初見でこのレベルの速度変化についていける訳がない。不可避の攻撃だった。両腕を使い、空中で動きが止まる一瞬の間でフーガを蹴りあげた。




腹に強烈な一撃を喰らったフーガは空中に投げ出される。




それを追うように凄まじい速度でリンは跳躍し、フーガに追いつく。そして、空中で地に背中を向けるほど仰け反った。




「死ねッ」


———【火火煉獄(カカレンゴク)嵐空裂(ランクウレツ)




リンの視界、全てにほぼ同時に放たれる百発以上の乱れ打ち。その速度は拳の到達点で音速を越え、その空間は大気圧によって炸裂し、轟音が鳴り響く。




手ごたえはあった。拳が何かに衝突し、粉微塵に粉砕する感覚。何かとはすなわちあのガキだ。あのガキを殴っていたのだからそれ以外には考えられない。




しかし、リンは気が付くと地面に投げ出され体が胴体で真っ二つに砕かれていた。




リンの体は光の粒子となり、元の生身の体へと戻る。一体、何が起こったのか、リンにはまるでわからなかった。




「はぁ、…、はぁ、…、なにがおこったの」リンは上半身を起こした。全身が疲労感に包まれている。ソウルを使いすぎたのだ。眩暈で焦点が定まらず、酷い頭痛がした。反射的に頭を押さえる。「ううっ…。んっ、…、はぁ、…、はぁ…」しばらく頭を押えていると何とか頭痛と眩暈が治まってきた。




「……リ…、リン、リン!、大丈夫ですか」ザドクが隣で呼び掛けてくれていることにようやく気づいた。




「…ええ、ありがとう。もう大丈夫よ。それよりも何が起こったの。気づいたら体を真っ二つにされていたみたいなのだけれど、どういうことかしら」




「わからない、あなたが空中での攻撃を仕掛けた瞬間、あなたが吹っ飛んできた。その後は、あの様子だ。着地したかと思ったら直立不動のまま全く動かなくなった」




フーガは着地してから全く動かない。その間、ザドクも攻撃を行わなかった。リンが目覚める間での数十秒間、膠着状態になっている。




丁度そのあたりで物音を聞きつけた住人が集まり始めた。人だかりができ、騒がしくなる。フーガとザドクたちを円形に取り囲むように集まっていた。




「不可解なのよ」リンはザドクに呟く。




「何がです」




「ありえないの、私の攻撃を避けるなんて、まして、反撃をするなんて、あいつは私の蹴り上げを喰らった。あの攻撃を喰らうってことは私の速度の変化に対応できなかったということなの。なのにその速度をさらに超える攻撃を全て見切って反撃?ありえないわ」




「しかし、現に君はオーバーソウルを破壊され、地面に投げ出された。攻撃を受けたのは間違いがないのだろう?」




「ええ、…、そうね、…。あと、もっと不可解なのは、手ごたえがあったことなの。確実に何かを粉微塵に粉砕した感覚があった。それに私の拳の威力はそう簡単に防御できるような攻撃力じゃない。腕や脚で攻撃を受けることさえ出来ないわ。現にあいつは両腕の攻撃に関しては注意深く丁寧に避けていた」




「確かに、避けていましたね」ザドクはリンがフーガを蹴り上げる前までの攻撃を思い出す。確かに一度としてフーガは攻撃を受けるような立ち回りはしていなかった。




「まあ、とにかくわからないことは多々あるけれどこれだけは言えるわね。なぜだかは、わからないけれど、動かないなら攻撃をするチャンスよ。何かしらの理由で動けないのかもしれないわ。ザドクは私をサポートして」




「それは構いませんが、まだ動けるのですか」




「もう、高輝度のオーバーソウルを纏うことは出来ないけれど、オーバーソウルに傷をつける程度の力は残ってるわ」


そう言うとリンの体は輝く。しかし始めほど輝いてはいなかった。光はしばらくすると収まり元の色に戻る。




「行くわよ」


「わかりました」




リンは刀を一本精製した、両手で持ちフーガに向かって飛び込むことで間合いを詰め、切りかかる。




その瞬間だった、フーガの体は光り輝いた。リンはその閃光に驚き、宙返りで後ろへ距離を取る。




リンが着地した瞬間、二発の銃声がした。リンの右肩と脇腹、その前に展開されたシールドが砕け散る。ザドクがフーガの発砲を見て、ギリギリのところでシールドを張りその攻撃を止めた。




「ていうかよ、大体そういうのはさっきの戦闘が終わった時に言っとくことじゃねえのか?」




「ああ?、そんなかっちりしたもんじゃねえよ」




フーガはリンの右太腿の銃口を向け、引き金に力を込める。




「只の殺し屋だ」


射撃音と共に銃弾が発射された。その銃弾はまっすぐにリンの元へと飛んでいく。




厚いガラスにヒビが入る音がした。リンに着弾する15センチ手前、シールドが砕ける。




「リン、集中していきますよ。人が集まってきた以上、時間をかけていられません。そのうち、我々とは関わりの薄い警備の者が来ます。そうなったら、資材の隠密な輸送などのことを考えると一旦引かざる負えません。いいですね」




「ええ、わかってるわ。大丈夫よ。今のザドクのシールドすら貫通できない威力よ。あの程度の実力ならすぐに片はつくわ」




「そうやって油断したから先程、ぶっ飛ばされてたんじゃありませんでした?まあいいですけど、ちゃんとやってくださいね」




「うるさいわね。そんなことはわかってるわ。さっきのは何かの間違いよ」




連続的な銃声が鳴る。フーガが発砲した。ザドクが大きくシールドを張り防御する。シールドに着弾した結果、シールドは粉々に砕け散った。




「面倒くさいわね、一気に畳みかけるわよ」




「わかりました、援護に入ります」




リンが前、ザドクが後ろの並びになり、リンは刀を構える。




フーガは口角を少しだけ上げ、不敵に笑うも、頬にはひやりとした汗が流れていた。





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