世界樹ユグドラシル -リオン
「リオンさ~ん、疲れたんですけど~、これって交通費出ないんですか〜」
隣からリンが話しかけてきた。リンは疲れたといったが、リンの顔には疲れはない。くりくりとした目には自分の姿が映っていた。男性としては大きくもなく小さくもない自身の体と比較してもリンの体格は小柄だ。自然上からリンを眺めることになる。
「交通費は出ない。この世界樹の調査は秘密裏に行うことにしている。国の収支には記載出来ないからな」
「そうなんですか…」
「ああ、すまない」
リンは大金でも小金でもお金が入るとすぐに使ってしまう。手には食べ物を持ち、ブランド品を身につける。まずは本を買い、学問と分別を身につけるのが先なのではないかとは思うがおそらくその機会はすでに逸している。お金にがめつい彼女が大人しく引いたのには素直に驚いた。
思わずリンとは逆側の左隣を歩くザドクの顔を確認してしまう。ザドクも目を見開き驚いている。目が合い、自然微笑む。
「リオンさん!」
「どうした」
「交通費って出ないんですか」
隣でザドクが吹き出し、クックックと小さく笑う。全然諦めていなかった。
私が嫌そうな顔をするとリンは跳ねるように後列を歩く護衛の騎士に近づいた。
「ねえ聞いた!?この遠征、交通費出ないんだって!?、さっき、リオン様に聞いたらこんな顔で『交通費は出ない』って言ったんだよ、しんじられる!?」
ウヒャヒャヒャヒャと騎士たちの笑い声が聞こえる。余程リンのものまねが似ていたのだろう。
「マジかよー!交通費出ないのかよー!」「騎士の士気下がっちゃうなー!」
と騎士たちは口々に言い、同じようにウヒャヒャヒャヒャと笑い声がした。
リオンは大きなため息を吐き「わかった、交通費は私の方で出してやるから真面目に歩け」と観念する。
おっしゃー、やったぜ、イェーイという歓声が聞こえた。
士気が上がるのなら良しとすることにし、「ただし、遺跡の調査には全力を尽くせ、いいな」と釘を刺した。息の揃った調子のいい大きな返事が聞こえる。
リオンたちは獣道を前へ黙々と歩く。ユグドラシルまではもう少しだ。後は木の根でできた巨大なトンネルを越えればユグドラシルのふもとにある遺跡に到着することができる。
「リンの姉御、そういえばユグドラシルを救えなきゃ何でこの星が滅びるんだ?」後ろを歩く騎士の一人、フレッドがリンに話しかけた。
「あんた今までの遠征なんだと思ってついてきてたのよ、耳引きちぎるわよ」
「ひぇ、ザドクの兄貴ー!リンの姉御が怖いよー」
「私にはあなたのような目的すら把握していない素晴らしい弟分を持った記憶はありません」
その受け答えにリオンは微笑む。
「目的を把握していないフレッドには後でペナルティを与えるとして、リン、鏡の研究を行っている経緯も踏まえて現状報告を皆にしてやれ、意志の統一をしておきたい」リオンはリンに説明するよう指示した。
「わかりました、フレッドは聞き逃したら耳を引きちぎる」
「えぇー…」
「我々、リオン=デル=オルバート率いる部隊の目的はユグドラシルの救済もしくは新しいユグドラシルの創生のうちいずれかを達成することです。ユグドラシルの救済に関しましては、文字通り枯れかけてしまっているユグドラシルを何らかの方法で元に戻す必要があります。現状、その手立てとして、枯れる原因とされている魔化学をこの世界から根絶する必要があります。しかし、それを実行するには世界各国を相手取り、交渉もしくは戦争を仕掛けるしか方法はなく、あまり現実的とは言えません。そう言った理由から、今、私達に残されている希望はもう一方の救済方法となっています、フレッドなんだった?」
「えーっと…」ギロリとリンがフレッドをにらみつける。「わかってるって、睨まないで、ユグドラシルの創生だろ、でもそんなことできるのかよ、新しいユグドラシルを作るなんて」
「確かに難しく聞こえるわね。でも実は新しいユグドラシルを創るのは思った以上に簡単よ、ユグドラシルの種を植えればいいだけだもの、世界樹の種子は世界樹から生まれるわ。でもこの世界の世界樹から世界樹の種子が生まれることはないわね」
「えっどうして」フレッドは疑問に思う。
「世界樹が種子を生むには世界中がマナで満ち満ちていなければならないの」
「じゃあどうするんだよ、種、手に入らねえじゃあねえか」慌てふためいたフレッドを見たリンは近くにあった木を殴り砕く。大きな音と共に小さな粉塵が舞った。
「うるさいわね、静かに聞いてなさい」
「ひぃ」
「まあしかし、フレッドの言っていることは間違っていない。じゃあどうするか。本題はそこだ。我々はダークミラーワールドに希望を見出した」ザドクはフレッドに語り掛けた。
「ダークミラーワールド?」
「あんた本当に何なら知ってるの?ダークミラーワールドなんて小学生でも知ってるわよ」とリンは言い、はぁと大きくため息をついた。
「ダークミラーワールドってのはその名前の通り、鏡の中の闇の世界のことよ。遥か昔、色々な種族がまだ共存して過ごしてた頃に、人族が鏡の中に魔族の世界を封印したから鏡の中に闇の世界が出来たと言われているわ。そこに存在するもう一本の世界樹であるユグドラシルに希望を見出しているの」
「そしてそのダークミラーワールドへの順路を今、私たちは模索している」とザドク付け足した。
「その件に関してだがつい先日ダークミラーワールドに干渉するための鏡の試作機が完成した」リオンがそう報告すると皆がリオンに注目した。
リオンはその時のことを思い出す。
―――――――――――――――
執務室で作業をしていると、ザドクから鏡が完成したという連絡が入った。
「そうか、わかったすぐに行く」と返事をし、手に持っていた資料を棚にしまった。次に机に広げた紙の束を簡単に片づける。ついにここまで来たという実感と本当にこの方法しかないのかという思いが胸に湧き、渦巻きながら体の中を巡っていく。その気持ちは自分でどうこうできるものでもなく、立ち上がった際に引いた椅子を元に戻すとリオンは試作機のある魔化学研究所へ向かった。
リノリウムの廊下を小気味よいカツカツといった音で歩いていると、くすんだ灰色の扉が現れた。ここは魔化学研究室でマナを用いた化学全般が研究されている。戦闘を通してしか魔化学を知らないリオンには不気味な空間に感じられた。
扉を開け中に入ると数人の研究者が作業をしていた。皆、リオンの姿に気づくと挨拶を交わす。リオンは丁寧にそれに答えた。研究室を見渡すと奥にある人間大ほどの大きさの鏡の前で、手の平をくねらせながら上下左右に動かす研究者、ザドクがいた。黒縁のメガネをかけ、白衣を身にまとい、細身の金髪で顔はやや痩せこけている。歳は10ほど離れているが幼少の時から共に過ごしているせいかお互い立場や上下関係を忘れ言葉遣いが家族のそれをあまり大差ない時がある。それを別に悪いと思うような間柄ではないが部下の手前こういうところはきっちりとしておきたいと思うのが本音だ。
「試作品が完成したらしいな」リオンは後ろから手を動かすザドクに話しかけた。
「おおその声は、閣下、いらっしゃったのですか。お早いですね。失礼ですが少々お待ちください」前を向いたままザドクは答える。鏡の真ん中に両の腕の手の平を持ってくると静かに腕を引きこちらを向く。
「お待たせしました。こちらが試作品となっております」
「急がせて悪いな。それでどの程度まで完成したんだ?」
「先ほど、鏡の中に魔族の世界の存在が確認できました」そう言いながら空中に測定値と思われるデータとグラフを青い光で出現させた。グラフの線は中盤まで底を這いずっていたが突如として跳ね上がって他の色々な線と交差している。おそらくこの辺りの測定結果のことを指しているのだろうと見当はつくがそれが具体的に何を示しているかはわからない。
リオンがゆっくりと鏡に触れると波うち、淵までたどり着いた波が色々な方向に反射して鏡としての機能を失った。強く押すと凹みその部分が黒ずんだ。闇に飲み込まれるのではないかと怯み手を引っ込めようと引くと鏡の触れている部分がピンと伸びて離れなかった。引くと白く、押すと黒く霞む。そう言った特徴がみられた。
「御覧の通り、どうやっても鏡が纏わりついてどうにもならないのです」ザドクは鏡にくっ付いてしまったリオンの手を鏡から引き離す。
「鏡から手を取るときはソウルを放出すれば取れますが、鏡の向こう側に進む方法が今後の課題になりそうです」
「そうか………いや、待てよ…」リオンは執務室で見ていた資料を思い出していた。古代の遺跡から得られた碑文を記したその資料は明らかに途中で文が繋がっていなかった。ずっとその内容が何なのか気になっていたが今、鏡の話を聞いてその合点がいった
。
「ザドク、鏡の突破方法に心当たりがあるかもしれない」
「本当ですか、それはいったい…」ザドクは眼を見開いて驚く。
「前回の遠征で手に入れた大量の碑文をほぼ解読し終えたんだがどうも文章が繋がらない箇所があったんだ、ずっとそれが何なのか気になっていたんだ」
「繋がらない箇所ですか、それは文章が抜けているということでしょうか。ですがあの時くまなく遺跡を調査したはずではありませんでしたか石碑に刻まれた文字を一文字たりとも見逃さないように」
「ああ、確かにあの時しらみつぶしに遺跡を周り碑文を集めた。まあ古代の遺跡に完全性を求めるのも筋違いな話なんだがおそらく抜けている箇所が今問題になっている鏡を通過する方法だとしか考えられない」
「………そうですか、ということはつまり」
「ああ、もう一度ユグドラシルのふもとの遺跡に向かい隠された碑文を探し出す必要がある。
「分かりました、それでは遠征の準備をするように皆に伝えておきます」
「ああ、頼む。一週間後だ、皆に仕事をまとめ何日か空けても問題がないよう、仕事を詰めるようにも伝えておいてくれ」とリオンは言った。
―――――――――――――――
ここでリオンの回想は終わる。目の前にその遺跡が見えてきた。あの出来事が一週間ほど前のことと考えると少し感慨深かった。リオンは一歩一歩だが目的達成に近づいているという感覚が好きだった。着実に、しかし歩みを止めることはない。
「それでは遺跡の調査に移ってくれ、分かったことがあれば至急私に連絡するように。私もザドクのチームと一緒に調査に参加する」
リオンの号令で遺跡の調査が始まった。魔族、人族、天使族、獣人族、エルフ族など様々な種族とどういった交流があったのか、文字の彫られた石板は様々な角度で物語った。
考古学的に見てもこの遺跡の価値は計り知れないものだろう。全てが終わった時この内容を学界に提出するのが筋だろうなとリオンは思う。
リオン率いるユグドラシル救済部隊は以前にもこの遺跡を調査していた。その際に得られた有益な情報は、魔族の世界にもユグドラシルが存在するということ、そこに向かうための特殊な鏡の作製方法について、そして、ユグドラシルが種子を形成するための条件についての三つの内容だった。必要なピースはあと一つ、鏡の通過方法だけだ。絶対にその内容がどこかに存在するはずだとリオンは確信している。
「見つかりませんね、これだけ探しても見つからないとなるとあるかどうかわからない幻の部屋って感じですね」ザドクは遺跡の通路を歩きながら呟いた。
「まあそういうな、幻っていうのは出合えないから幻と言われるだけであって、存在しないわけではない。探すしかないだろう」リオンは答える。
「幻と言えば知ってますか、幻と言われるほど大会の出場回数が少ないのに歴代のプロの中でも最強だと噂される選手のこと」
「それはスターダストに出場した選手のことを言っているのか」と言いかけたところで思い出す。「ああ、わかった、知っている。見たことはないが噂には聞いたことがある。圧倒的な強さで大会を優勝したんだが勝ち取った莫大な賞金をすぐに全額病院や貧しい者たちへ寄付したとかいうあの」
「ええ、そうです、その話はもう何年も前の話になりますけどね、その強さは伝説になってますよ」
「私に言わせれば伝説なんて言葉は言ったもの勝ちだと思うがな」
「どういうことです」ザドクは問いかけた。
「過去の人間とは比べようがないからな、勝ちようがない」
「確かにそうかもしれませんね、戦う機会すら得られないのですから対策の使用もないですしね、それでですね、その話には実は裏話があるんですよ、無欲で独善的な選手として知られる彼ですが、彼の本当の職業は殺し屋だったそうです。業界ではとても優秀な業者として通っていて、大会の優勝もそういう依頼だったんではないかという噂もあるそうですよ」
「それは……、面白い。完全な善性だったわけではなく、ただプロとして依頼された仕事をこなしていただけだったと言う訳か」
「まあ噂ですけどね。しかし、その大会で負けたことのない閣下も伝説的だと思いますけどね」
「私を過去のものにしないでくれ」
ザドクと雑談をしながら調査を続けていると、内ポケットに入れていた無線が鳴る。調査を始めてから一時間程度たった時のことだった。無線に出る。「こちら、リオンだ、どうした」
「こちら、リンです。碑文が見つかりました。場所はB4地区内部です。早く来てください。そしてボーナスをください」
リオンは微笑んだ後「分かった、すぐに行く」と答えた。場所に向かう了承とボーナスの了承が重なる。巧みな戦術だ。ボーナスは出さないとも指摘できたがどうせ喚き散らすに違いない。また実際、大きな手柄に違いはないのだから別に構わないともリオンは思った。無線を切るとザドクと共にB4地区へ向かった。
―――――――――――――
「リン、待たせた碑文はどこにある」リオンはリンに碑文のありかを訪ねる。
「こっちです。ここの壁ぶっ壊したら部屋が出てきました」そこにはレンガで出来たまっすぐな通路の途中にレンガが崩れてできた大きな穴がいくつもあった。おそらくリンが長い調査に苛立ちやたらめったら壁を殴りつけたのだろう。
リオンは瞬間的に頭に血が昇り、大声を出しそうになった。がギリギリのところでそれを押える。息を吐き、大きく吸う。リオンは冷静にリンに怒りを伝える。
「お前はこの遺跡の歴史的価値がわからないのかこんなにめちゃくちゃにして、リン、貴様には碑文を見つけたボーナスを与えるが同時に減額のペナルティを与える」
リオンは歴史的建造物の価値を鑑みないリンの行動に腹が立った。しかしリンのような破天荒な行動がなければ見つかることはなかっただろう。それを考慮し、リンにはボーナスとペナルティの両方を課すことにした。
リンはリオンの殺気に気が付いたのか特に反論することもなく「すみませんでした」と謝罪する。
「分かればいい、それではさっそく調査に当たる」
「はいっっ」リンは元気よく返事をした。
中は王族の寝室のようだった。中央には石で組まれた腰ほどの高さの段差があり、四方を囲む壁にはリンが明けた穴と土砂で埋まっている出入口らしきものそして壁に描かれた碑文があった。
「これが最後の碑文ですか」ザドクは感慨深そうに言う。
「ああ、そうだといいんだがな。では早速、上から順に解読していく」リオンは碑文に集中しその内容を読み上げていく。
「『賢者、魔の世界鏡に封ず。人の世、輝きを放つ。賢者、霊装を纏いて魔鏡行き来す。永年続きし静観、円月の陰影大地に落し時、崩壊す。世界閉ざされし者、内側より世界を封ず。魔鏡、賢者を通さず。永年経て魔の力満つる。賢者、邪気満つる魔の日、合わせ鏡の闇の中、困惑せし悪魔捕らう。賢者、捕縛せし悪魔喰らう。霊装、黒き輝きを放ちて鎮まる。魔鏡、此れを感知せず。賢者、魔を確認す。賢者、戻らず、魔、沈黙す。』」
リオンが碑文を読み終えると場は静寂に包まれた。
「何かわかったことがあったら何でもいい、教えてくれ」リオンは皆が意見を言いやすいように言葉を促す。
ザドクが手を上げた。「そうですね、まず、最初の方、賢者、魔の世界鏡に封ず。人の世、輝きを放つは、人々から賢者と崇められている人物が方法はわかりませんが何らかの方法で魔族を鏡の中に封印し、魔族の居なくなった世界が平和になったと読み取っていいと思いますね。
「なあ、その次の賢者、霊装を纏いて魔鏡行き来すってとこの霊装って何のこと?喪服のこと?」フレッドはぼんやりと浮かんだ疑問を口に出す。
「あんったはほんっとうに馬鹿ね、喪服着てどうすんのよ!オーバーソウルのことよ、オーバーソウル」リンはフレッドに睨みつけながら言う。
「オーバーソウ…」「オーバーソウルって何って言ったら殺す」フレッドはリンの指摘に急いで口を噤む。たぶんリンは本気で仕留めにかかるだろう。フレッドの判断は正しい。
「その行に関してだがおそらくなぜ封印した魔鏡の中に賢者が行ったり来たりをしているのか疑問になった者もいるだろう。それは魔の世界が力を着けて封印を破壊しないように監視するためだと他の碑文に記してあった」リオンは碑文を読んだ者しか知り得ない情報のフォローを入れる。円滑に解読を進めるためだ。
「なるほど、だから魔族は内側から封印をし、力をつけるため賢者を出入りできないようにしたのですね」ザドクは府に落ちたように頷く。
「ということはやはり最大の問題点となるのは」とザドクは言う。
「ああ、邪気満つる魔の日、合わせ鏡の闇の中、困惑せし悪魔捕らう。賢者、捕縛せし悪魔捕らえ喰らう。霊装、黒き輝きを放ちて鎮まる。の所だろうな」とリオンは答える。
「リンの姉御、あれ、どう言う意味」解読についてこれていないらしいフレッドはコソコソとリンに尋ねる。
リンはため息を吐いた。理解の遅いフレッドに呆れているのだろう。
「私も全部わかってるわけじゃないけど、今話してるところは邪気が満ちる日に暗いところで鏡を向い合わせにすると悪魔を捕まえることができて、それを食べるとオーバーソウルが黒くなって鏡の中に入れるようになるって感じかな」
「えぇそれってやっぱり鏡を突破するには悪魔捕まえて喰えってこと〜?」フレッドが顔を歪める。
「うるっさい!」リンはフレッドを蹴り飛ばす。吹っ飛ばされたフレッドは蹴られたお腹を押されながら床でうずくまり「うぅ…」と悲痛な叫びを上げる。
「リオン閣下、邪気満つる魔の日とはいつのことなのでしょうか」リンはリオンに疑問を投げかける。
「普通に考えれば不吉なことが起こると言われている13日の金曜日のことを指すと思うんだが、円月の陰影大地に落し時というのを日食と捉えると月が悪魔の力に関係すると考えて新月もしくは満月の日と捉えることも出来る」
「そうですね、ということはこれからの方針としては満月、新月もしくは13日の金曜日に暗闇の部屋に合わせ鏡を設置して悪魔が現れるかどうか検証すると言ったところでしょうか」ザドクは話をまとめる。
「そうだな、調査を終え次第城へ帰り、次のステップへ進もう」
「承知しました」皆が返事をし、作業へ戻った。
リオンはやり残した仕事をやり終えた達成感に満たされながら自分の荷物を取りに拠点に戻る。足取りは軽く喉につかえていた魚の骨が取れたかのような開放感だった。しかし、いつまでも幸福感に包まれている訳にはいかない。気を引き締めなければならない。まだ何一つ解決した訳ではないのだから。
拠点に到着し荷物を持ちあげようとした時だった。手がキラキラと光った。遺跡で何かに触れただろうかと思いながら手を撫でるとそれが太陽の光の反射で輝いている訳ではなく自身の手が光っていることに気づく。手が光っていると気づいた時には全身が光り出す。白い光に包まれ自身が発した光で周りが見えなくなった。視界が完全にホワイトアウトすると混乱したせいか足元がふらつく。バランスを取るために後ずさろうと足を引くと石に躓いた。足を捻り横に倒れこむのが自分でもわかり、咄嗟に受け身の体勢をとる。しかし地面には激突することはなかった。あるはずの地面はなく、そのままの勢いで回転しているかような感覚に陥る。恐る恐る目を開けると何もない白い空間にいた。自身の発光は収まっており体は無重力の空間にいるかのように回転を続ける。といっても回転しているという感覚だけで白い背景のせいで方向感覚が掴めないので回転しているのかは定かではなかった。何が起こっているのかとリオンは疑問を感じずにはいられない。