8:最前線偵察その2
襲ってきた黒い影の正体はぱっと見人間に見えたが長い耳を持ちウサギみたいな足をしている。気絶しているとはいえ流石に暴れられては困るので手足を軽く縛っておく。
宮道「流石異世界、いろんな種族がいるものだ。ところで聞きたいのだがこの民族は何という民族だ?」
アリア「長い耳とウサギみたいな足の民族か…ジャービス族だったはずだ。だが存在はしているが50年
前の戦争で巻き込まれ、全滅したはずなんだがな…生きているのは初めて聞いたぞ…」
アイラ「とりあえずどうすんのよ…このまんまほっとくわけいかないし…」
宮道「起きたら言葉が通じる相手かを確かめよう。」
ジャービス族の者が起きるまでここで周囲を警戒しつつ起きるのをただ待つ。時刻は朝の6時、そろそろ朝食をとる時間なので持ってきた卵をキャンピングで使うコンロとフライパンで調理をする。バターをじっくりと溶かし、卵をフライパンの上でとく。ふわふわになるまでゆっくりとかき混ぜ出来上がったスクランブルエッグを食パンの上に乗せる。最後に食パンでスクランブルエッグを挟みこみ、即席の卵サンドの出来上がりだ。
各員にそれを配り、ゆっくりと食していると匂いにつられたのかジャービス族の者が起きた。
???「今すぐ放せこの人間め!先祖の仇を取らせてもらうぞ!」
アリア「待て待て…私らはあなたたちを襲ったわけではないのだ。だがこれだけは言わせてくれ。先祖の事は悪かったが襲ってきたのはそちらではないか。」
???「なんだと…!?じゃあ、巻き込まれたのは私たちなのか…?」
アリア「ああ。」
???「じゃあ何のために今まで恨んでいたんだ…?」
アリア「恨み続けていても何も始まらないさ。」
話が終わったところで手と足を縛っておいたロープを外し、作っていおいた即席の卵サンドをジャービス族の者にわたす。
宮道「とりあえず話し終わったところですまないがこれでもどうぞ。」
???「あ!さっきのお前!名は何と申すか!私はジャービスのレル・ラビエテだ。レルと呼んでくれ」
宮道「俺は宮道光だ。よろしく。」
レル「早速だが仲間に誤解を解きに行きたい。案内してもいいか?」
宮道「わかった。あと俺から提案がある。」
レルと名乗ったジャービス族の男性に案内をしてもらい。ジャービスの村を目指す。深い森を抜け、渓谷に突入した。レグノス渓谷はまだ水が流れており自然の偉大さを感じさせる大きな渓谷だ。ここまで無事に見つかることなく走行しているのが不気味なほどだが。
渓谷を走っているとやがて新たな山脈が見えてきた。レギネ山脈だ。この山脈だけでも全長900㎞をほこり、今回最大の距離となる。この山脈にもトンネルが掘られており、そのトンネルは崩れる心配がなさそうなので進んでいくことにした。流石にトンネル内では危険が多いので車内に入ってもらうことにした。
宮道「狭いけどゆっくりしてくれ。」
レル「これが戦車ってやつの中か。とても住めるものじゃないな…」
宮道「そりゃそうだ。こいつは戦うためのものだからな。」
戦車の居住性が悪いのは主砲の中退機や閉鎖機があるのだが、コイルガンとなると装填装置とそれを取り巻くコイル、また砲塔内部に備え付けている砲弾ラックのところには代わりとして大量のコンデンサとそれを制御するリレー回路が載っているので、もともと狭い車内は余計に狭いうえ、2人しか入れない砲塔に3人目が入ってくると寿司詰め状態になっている。
レル「ところで質問だが、何故襲ってこなかったんだ?」
アリア「襲う必要がないしそもそも敵対してなかったからな。」
レル「そうだよな…。そういえばさっき提案があると言ったんだが俺達を保護してくれないか?バラザードってやつの戦車?が最近村の近場を走っていくのを見たんだ。」
宮道「そうなのか。大体どれくらい近くを走っていったんだ?あと特徴とか分かるか?」
レル「大体10kmくらいかな?なんか丸い砲塔が載ってて長方形な車体で正面?が斜めになっていて矢じりみたいに交差していたぞ。トンネルを抜けた先が我らの領地となっている。」
特徴を聞いてすぐに車種が分かった。IS-3だ。第二次世界大戦後にソビエト連邦という国家が作り上げた重戦車だ。正面に強力なクサビ形装甲を持ち、主砲口径は122mm級、走行速度は最大で45kmに達するといわれているものだ。でもレイトに情報がないとなれば奇襲によって1両ほど鹵獲しておきたい。
アリア「そういえば宮道は転生者だよな…その戦車について知ってないか?」
宮道「確かに知ってるぞ。だがその戦車はこいつでどうにかなるはずだ。でも今回は俺からも提案がある。できれば鹵獲していち早く情報を手に入れたい。」
アリア「確かにそうだな。アイラはどう思う?」
アイラ「宮道がそう思うならそうしようか。でも行方が分からないのにどうやって探すんだ?」
宮道「暗視装置があるじゃないか?それにちょっとリエナからある物を載せてもらった。」
リエナに無理をいって載せてもらった物とは電子探知機だ。車両自体が実験機なうえ、様々な物を載せられるレイト製の74式は砲塔の即配面に電子探知装置を載せている。特定の周波数をずっと発振させていると相手に逆探知されてしまうので周波数は0.1秒ごとに変化させるようにしている。これによって車両自体がレーダーとなる。もちろんこの技術と併用して相手を常に追従できるようにセミアクティブロックオンシステムを備えている。だがセミアクティブシステムは命中率が80%まで低下するので少し信用できない面もある。
トンネルを抜けた先はまた深い森になっていた。暗視装置と電子探知機を使用して極力音を立てないように慎重に進む。ジャービス族の領地なので少しばかり狭い歩道だがそれでもこちらにとっては関係ない。問題はバラザード製のIS-3がどこに隠れているかだ。相手が光学迷彩や熱探知機を備えていたら少しばかし厄介になるであろう。
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正面からくる謎の戦車はうちが作ったやつではないことが分かった。やはりレイトのやつらはここまで来ているようだ。周囲にはあいつ以外いないことが分かったしレグノス渓谷で偵察した奴と同じだろう。
???「敵車両正面…こちらに気が付いてないようだ。光学迷彩の効果は抜群だな。レールガン充電開始。弾種AP。ロックオンビーム照射。合図とともに煙幕展開。」
???「3…2…1…む!気が付いた…!?撃て!煙幕展開!」
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不意に正面に敵反応が現れたと同時に警告灯が点滅する。
宮道「まずい!ロックオンされてるぞ!操縦手車体旋回!ちかくの林の中に向かって突っ走れ!それと同時に電子妨害装置を展開する!砲手は発砲煙から左右5mの位置に射撃!」
アリア・アイラ「了解!」
着弾したところにくぼみができ相手がいたであろう場所には煙幕が展開されていた。
こちらは警告灯のおかげでどうにかなったが相手の方が隠密では1枚うわてらしい。素早く隠れたのは良いがあいてを見失った状態では何もできないし、電子探知機でも反応がないってことは相手も妨害電波を出してることだ。
周辺が静かになるまで様子を見てからジャービス族の集落まで移動することにした。
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あの獲物を撃ち逃したことは結構大きい。でもロックオンが正確に照射されていたのに何故よけることができたんだ…。いまだに私の頭の中では疑問が生じてた。それと反撃でとんで来た砲弾が車体に直撃したときは正直驚いた。とにかく奴を追跡するために隠れた方向へ車両を動かす。
???「…もしかしたらまだいるかもしれないな。だが深追いは禁止だ。こちらが痛い目に遭っては仕方がない。」
光学迷彩の解除をしてキャンプ地の方向へ車体を向けたその時だ。
不意に警告灯が点灯した。
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相手はやはり光学迷彩を備え付けていたらしい。だがこちらはまだバレてない。
宮道「行くふりをして光学迷彩を展開しといてよかった。リエナにエンジンカットしてくれ。」
リエナ「でもそれでは光学迷彩が作動しなくなるではないか!」
何故エンジンカットをするのか。戦車は常に動ける状態を保つためにエンジンをつけっぱなしにする。でもそれでは熱源探知されて撃破されてしまう。だからあえてエンジンを止めて静かに隠れることにした。
でもただ隠れるのではない。
宮道「アイラ、砲塔旋回。目標、敵戦車の右側履帯。車体の後ろが完全に見えた瞬間に射撃。リエナはそれと同時にエンジン始動。その後車体後方にある丸いハッチの右側を射撃。」
アイラ・リエナ「了解。」
静寂な車内でその時を待つ。
バラザードの車両が足を止め、旋回したときが勝負だ。
後ろを向いた瞬間、砲塔内のコンデンサがリレー回路によって火花を走らせる。一気に流れ出る電圧によってコイルガンのコイルが赤く光り、105mm径の砲弾が勢いよく相手の履帯に命中した。
射撃と同時にエンジンが再始動したため車内に流れてくる電力量は一瞬だけ不安定だが俺は再び起動した操作パネルを使い、素早く弾種の選択をした。
使用弾種はHESHだ。
HESHとは普通の榴弾とは違い、相手の装甲に張り付き表面で爆発をし、爆発の衝撃を利用して装甲板の内側を剥離させて損傷させる榴弾だ。これを戦車では比較的薄い背面装甲に向かって撃ち込むと、装甲板を貫通して内部で爆発を起こすわけだ。
車体背面部のハッチに向かって撃ったHESHは装甲板を貫通して内部で爆発した。
IS-3に背面部にはなぜハッチがあるのか。そしてそのハッチは何の役割をしているのかって?IS-3は車体後方に起動輪がついている。つまりその付近に変速機が付いてるわけだ。しかもその奥にはエンジンもある。変速機が故障をすると走行不能に陥るが、定期的にメンテナンスをすればめったに故障しない。でもアクセスするところがないとメンテナンスできない。じゃあハッチを背面につければいいじゃない。というわけで車体後方にはメンテナンスハッチがある。つまり明確な弱点となる。
薄い背面装甲に命中したHESHは装甲板を貫通し、内部の変速機をぐちゃぐちゃにしてエンジンにもダメージを入れた。
排気口から白い煙を吐いているIS-3を見て車両に近づき、スタングレネードを砲塔ハッチから放り投げ、内部の搭乗員を気絶させたのち、取りあえず拘束した。もちろん早めに回収してもらうつもりだ。
宮道「レル、この先に5kmぐらい何もないところってあるか?」
レル「確かにあるよ。」
宮道「レイトの輸送機を使って集落のみんなを運びたいからそこまで連れて行ってくれないか?」
レル「わかったよ。事情は説明しておく。」
レルに集落の事はまかせるとして、鹵獲したものが運べるくらいの輸送機があるのか少しだけ心配になった。でも連絡してみないと分からないのでレイトに大型の通信機で通信してみた。
宮道「あー、あー、てすてす。聞こえてますか?こちらは先行偵察隊の宮道です。」
通信兵「こちらレイト通信室。感度良好。どうぞ。」
宮道「ルーク司令官につなげてもらえないか?どうぞ。」
通信兵「了解。」
ルーク「こちらルークだ。問題でも発生したのか?」
宮道「ルーク司令官こんばんは。作戦開始してから4日目の夜ですが先ほどバラザードの戦車と搭乗員を鹵獲しました。あと原住民のジャービス族を発見しました。これから輸送部隊の派遣をお願いしたいのですがこちらから座標を転送しますので大型輸送機を3機ほどお願いします。」
ルーク「了解した。予定としては20時間後に到着予定だ。健闘を祈る。」
宮道「了解しました。」
レイト航空基地
ここには少なからず200機以上の戦闘機を格納しているがひときわ大きいのが6発大型輸送機ビーバー。
この輸送機は内部に空挺戦車を5両格納でき、降下部隊なら余裕で300人乗せることができる。防空火器も充実しており、30mm3連装機関砲を機首に1つ、機体上部に3つ機体下部に4つ尾翼に1つ備えている。6機のエンジンは2重反転プロペラでターボプロップエンジンだ。だがその機体の大きさ故時速は560km/hだ。速度が遅いのは仕方ないが揚力があるので短距離での離着陸が可能だ。
そんな大型機が3機、4000m級の滑走路から飛び立っていった。