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魔女の弟子とりんごの木  作者: 秋雨
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部屋を出て正面玄関に向かう途中、さっきリンが魔法で出した水が天井をはっている真下を通る時は、また襲われるんじゃないかと思ったが、水はそのまま天井の掃除をしていた。

玄関のドアを少し開け、すき間から外の様子をうかがう。

昨日の影の姿はなかった。

さっさと済ませて金をもらおう。

そう思い、大きく一歩を踏み出した。

広い庭をつっきり正門へ向かい、門の取っ手に手をかけた時、屋敷を振り返った。

二階の窓から、リンがごきげんで手を振りながらオレを見送っていた。

それを無視してオレは敷地から出て行った。


通りすがりや標識を頼りに図書館を探し、かなり時間がかかったがようやくたどり着いた。

大きめの市立図書館だ。平日ということもあり館内に人はほとんどいなかった。

絵本コーナーに行きテキトーに5冊を手に取った。

これならさっさと読み終えて、回数を稼げるだろう。

「これを借りたい」

オレはカウンターへ行き、貸出のおばさんに渡した。

「貸出カードはお持ちですか?」

「いや持ってない」

「ではこちらの用紙に必要事項を記入して、保険証などの身分証と一緒にご提出ください」

用紙とペンを渡される。身分証は財布に保険証があったはずだ。

言われるままに書いていき提出した。

「はい。ではカードを発行しますので少々お待ちください」

カードは十分ほどで出来上がり、無事に本を借りることができた。

オレはバックに本を詰め込み、足早に図書館を後にした。


行きは迷いながらたどり着いたため、かなり時間がかかったが、それでも屋敷から図書館まで歩いて三十分はかかった。

せめて自転車があればいいが、これは後から考えよう。

坂を上り屋敷の正門に戻ってきた。昨日はあれだけ道なき道を分け進んだのに、普通に車が通れそうな道が町から続いていた。

オレが考えなしに突っ走ったせいでもあるが、なんとなく納得できなかった。

この屋敷には影やリンだけでなく他にも何かがある。

「まぁ…関係ねぇか」

そんなことより金が最優先だった。

「おかえりなさーい」

玄関のドアを開けるとリンが笑顔で待ち構えていた。

「おう…」

「ちゃんと借りてきてくれた?」

「あぁ」

オレはバックから絵本を取り出した。

「絵本だ!ありがとう!」

リンは嬉しそうに笑った。

「じゃあ報酬ね!」

ポケットから小銭の音を鳴らしながら、小さな手いっぱいの百円玉を渡してきた。

バイト代の七百円きっかりだった。

「お昼まだだよね?」

朝のハッサクはとっくに消化されている。

オレは今更ながら腹が減っているのに気が付いた。わかった瞬間、タイミング悪く腹が鳴った。

「丁度良かった!なら台所に行こう!」

大事そうに絵本を抱えながらリンは返事も聞かずにオレに背を向けて進みだした。

本当にオレは誰かに振り回されっぱなしだ。


「お庭をきれいにしてたら昔誰かが家庭菜園をやってたみたいでね、ジャガイモがたくさん出てきたの」

昼飯の下準備はすでに終わっているようだった。

リンは鍋からジャガイモを取り出し皿に移した。鍋とザルを使って蒸していたようだ。

「流石に八朔だけじゃお腹すぐ空いちゃうから良かった良かった」

テーブルには熱々のジャガイモ、ふちが欠けたマグカップ、昨日のハッサクとは違う黄色のミカンが半分に切られたものがセットされた。

リンはやかんをテーブルに持ってこようとしているが、重そうにしていて危なっかしかったので思わず手が出た。

「ありがとう。お茶じゃなくてお白湯だけどそこは勘弁ね」

「文句なんてねぇよ」

むしろ何でここまでするのか理解できなかった。

「ジャガイモはなんの味付けもしてないけど、お庭に柚子がなってたから絞ってみて」

黄色いミカンはユズと言うらしい。

オレは二つのマグカップにお湯を注ぎイスに座る。

リンは身長が足りないのか、イスの上で正座をしていた。

「いただきます!」

「…いただきます」

ふかしたての芋は熱く、手に取るのも一苦労だった。切れ込みが入っていてそこから皮を引っ張ると簡単にむけた。出てきた色鮮やかな中身にかぶりつく。

ほくほくとした熱とほのかな甘みが口中に広がる。

ただの芋なのに美味かった。

温かい飯は久々だった。

「他にも食べれそうな野菜がありそうだからどんどん料理するね」

「お前料理できるんだな」

「凝ったものは出来ないけど簡単なやつならできるよ。君はしないの?」

「料理なんてやったことねぇな」

「そっかぁ…あたしも昔はなーにもしてなかったなぁ」

「昔って…お前いくつだよ」

「ひみつ」

「キモっ…」

「ひどい!」

軽口をたたき合いながら食べた。途中でユズをしぼってかけてみたら美味かった。




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