甲子園の土
「本物か?」
男は呟いた。
ニセモノだったら、困るのだ。
「信じるしかないか」
男はパソコンを睨み、それから天を仰いだ。
「一番、量が多いのは、これか」
クリックし、オーダーした。
「これだけあれば・・・」
男は神妙な顔つきで言った。
まるで9回2アウト満塁、
1点差でリードしているキャッチャーが次の球を考えているかのように。
注文が確定した。
男は俯く。
少し後悔しているかのように。
もう一度、パソコンの画面を見つめた。
決心を固めるように。
一週間後のこと。
N市で窃盗事件が発生していた。
パトカーが何台も集まり、騒然となった。
それもそのはず、被害金額は三億円という。
その家主は代議士の秘書だった。
怪しい金だったが、警察が動いたのはある理由があった。
犯人自身がその札束の画像をSNSに投稿したのだった。
警察は市民の通報により、調査した。
難航すると思われたが、簡単に住所が割れた。
画像にはGPSの位置情報が含まれていたからだった。
「ゲソコン?(下足跡)」
鑑識作業が終わった犯行現場で、星野警部補が部下の斉藤刑事に言った。
周りには靴跡が残っていた。
「鑑識によりますと、量産されているジョギングシューズで、
購入場所の特定は無理とのことです」
斉藤は手帳を見ながら、星野に進言した。
星野は進入路と思われる窓の付近をにらんでいた。
そこに近寄り、しゃがんだ。
そして、手で床を撫でる。
星野の顔がニヤリとした。
それから数時間後。
「現場の土の鑑識結果がでました」
斉藤は星野警部に報告書を手渡した。
「犯人は野球関係者?
プロ野球選手?
コーチ?
スタッフ?
阪神園芸?
まさか、高校生?」
星野警部は報告書を手に、
思ったことをそのまま口にしていた。
「間違いじゃないのか?」
「本物です。
本物の甲子園の土です」
斉藤刑事は頷いた。
「犯人は捜査をかく乱させるため、
靴底に甲子園の土をつけていたというのか・・・」
星野は唸るように言った。
「あ~、あ~」
藤崎は声を上げた。
面白いと思って書き始めた短編推理小説だったが、
どうにも締まらない。
メル〇リの『甲子園の土』ニュースを見て、ピンとひらめいたのだが。
自称名探偵こと藤崎誠は、実は小説家になりたいのだ。
というのも、もし小説が映画化されれば・・・
女優との出会いが・・・
「まあ、甲子園と関係ない人が、その土を購入して、
その使い道なんて、こんなことしかないよな」
藤崎はニヤリとして言った。
「まあ、俺は買わずに、小説のネタとして使うがな」