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ギガンティック・マシン -Outer Edge-  作者: 靖ゆき
2章 世界の中心でAIを叫んだ羊
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 大仕事を終えて意気揚々と(うち)の前まで帰ってくると、様子がおかしいことに気が付いた。大勢の人間の気配がする。ルイージたちも異変に気が付き、銃を抜く。

「マリオ」

 グイドが指し示した先には不審な車が止まっている。見たことがある車だ

 オレは身振りで銃をしまうように指示しながら、「Benvenuto nel Ccappuccino」と書かれたままの家のドアを開いた。

 予想通り、ガラの悪い見知った顔が並んでいた。

 驚いたのはピザ窯に火が入っていたことだ。しかもその前で汗を流しながらピザを焼いているのは傘木さんだった。エプロンまでしている!

「おう、お疲れさん」

「お帰りなさい」

 カウンター席でピザを食べていたティノはピザを置いて近寄ってくる。

「だいじょうぶ?」

 傷だらけの顔を気にしてくれる。本当にいい子だな、お前は。それと比べるとピザを食べ続けているジェラルドは薄情な奴だ。食い物を与えてくれるなら誰でも良いのか。

「お前らも入口に固まってないで入ってピザを食え。いっぱい焼いてあるからな」

 傘木さんに呼びかけられて先頭にいたルイージがオレに視線を送ってくる。従うようにと頷く。

 あのおっかない女はいないが、傘木さんの部下が五人も室内にいる。地の利はこっちにあるとは言え、逆らったら無事ではすまない。

 ピザの続きを食べたそうにしているティノをジェラルドに預けた後、口を開く。

「すみません。ピザを作ってもらって」

「いや、こっちこそ勝手に使って悪かった。お前たちを出迎えるために来てみたら立派なピザ窯があるじゃないか。久しぶりに腕を振るいたくなったんだ」

「昔はピザ職人だったんですか?」

「まさか。ただの趣味だ」

 趣味でピザ窯でピザを焼くって、どんな家庭に産まれ育ったんだ。気になるが、今はそんなことを聞いている場合じゃない。

「なんで出迎えに?」

「ああ。取ってきた物を渡せ」

 ストレートな命令だった。

 つまり、拒否することは絶対に許されない。

 それでも、皆が効いている手前、少しぐらいは抗って見せなくてはならない。

「ピザの代金にしては高すぎませんか?」

「ピザはおごりだ。お前たちが仕事をやり遂げたことへのお祝いだ」

 傘木さんはエプロンを外すと、綺麗に畳んでカウンターの端に置いた。

「あれだけのドラッグをお前たちが持っていてどうする?売りさばくルートは持ってないだろう」

「それはそうですけど」

 考えていなかったが確かにその通りだ。大量のドラッグを不用意に売りに出せば、すぐに警察に見つかるだろうし、他の組織からちょっかいを掛けられる恐れもある。しかも他の組織からだけじゃない。仲間内からもこうやってちょっかいをかけられる。

しかし、あれだけの目にあって報酬なしってのは割に合わないし、示しがつかない。

「今回はこれで手を打っておけ」

 傘木さんが置いた札束に、こちらの様子を伺っていたルイージたちが「おお」と声を上げるが、取ってきたドラッグの相場を考えれば、十分の一にも満たない金額だ。バカにしやがって。

「このこと、鎧塚さんは知っているんですか?」

「当たり前だろ」

 傘木さんは顔色を変えずに答えると、出て行った。

「御馳走さまです」

 傘木さんはもう振り返らなかった。部下たちも後に続いて出ていく。

 怒りを抑え込みながらドアの方を見ていると、ルイージがピザを持ってやってきた。

「マリオ食えよ。うまいぜ」

 確かにピザはうまかった。なんなんだよあの野郎。

 室内を見回すと、皆仕事がうまくいったことと、カウンターに置かれたままの札束と、ピザの山に気分よく盛り上がっていた。

「仕方ねえな」

 その光景に満足してしまいながら、オレはピザを口に運んだ。

 家族が仲良く元気で楽しくいるのが一番だ。

「マリオ。ちょっと良いか?」

 幸せな気分に水を差す感じでグイドが話しかけてきた。返事を待たずに持っていたパソコンを置いて画面を見せてくる。

「例のデータチップだけど、改めて見ていたら新しいファイルが現れたんだ」

「新しいファイルが現れた?そんなことがあるのか?」

「時限式で仕組んでおくことはできる。でも、ファイル名が気になるんだ」

 指し示されたファイルの名前は「Congratulation and new Deal」だった。

 つまり、オレたちが仕事に成功したのを知って、新しい取引を持ち掛けてきたってことだ。



 人工知能(AI)とロボット工学の進歩により、人間は自分たちを模した機械、自立型人型機械(オートマタ)を完成させた。

 分身たちが最初に積極的に送り込まれたのは戦場だった。

『人が死なない戦争』

 それが人類の夢を叶えた言葉であるかのように、使われた時代もあったらしい。しかしほどなくして、それがガレキの山を作り出し、資源を浪費するだけの行為であると気が付いた。

 戦場に送り込まれていったオートマタはガレキを作り、そしてまた自らもガレキと化した。各国はオートマタを作るために大量の資源を投入し、動員をかけ、しのぎを削ったが、できたのはガレキの山で、国は荒廃していくことになった。

 そんな時に現れたのがオートマタとは真逆の兵器、機械仕掛けの巨神、ギガンティックマシンだった。

 大国は条約を結んで今後の戦争はギガンティックマシンを用いてのみ行うこととし、同時に戦闘用オートマタの製造、所持を禁止することとした。

 しかし、先日オレたちが闘ったオートマタは戦闘用だと思われた。今でも警察や政府の重要機関では警護用のオートマタが使用されており、実際に見たことがある。しかしあいつは、警護用のものとは明らかに違った。

 何よりも、人を殺すという明らかな意志を持っていた。プログラムに寄るものなのだろうが、そういう明確な意志を感じた。

 その戦闘用オートマタ輸送計画が、隠しファイルの内容だった。

 輸送トラックを待ち伏せたオレたちは緊急ブレーキシステムを作動させて急停止させるとすかさずフロントウィンドウに時限爆弾付きのドローンを張り付かせた。運転手たちが飛び降りた後に派手に爆発させた。荷台を開けると、二基の警護用オートマタが出てきた。そいつらが地面に足をついた途端に、事前に設置しておいた電磁波衝撃地雷が作動してオートマタの動きを止めた。

 オートマタが出てくると最初から分かっていれば、対応する手を打つことができる。ってのはグイドのセリフだ。

 待ち合わせ場所には、スーツをびしっと着込んだ、カスペルスキー・神楽(かぐら)と名乗る女が一人で現れた。少し歳がいっているが、若い頃は相当の美人だっただろう。肌は白く、顎が尖っている。

 カスペルスキーはオートマタの数が事前の連絡と合っているのを確認すると、すぐに目の前でオレの口座に大金を振り込んだ。

「また頼みたいことができたら連絡するわ」

 そう言って連絡先を聞くこともなく、教えることもなく、所属不明、正体不明の女は去っていった。

 オレたちには大金と、一体のオートマタが残された。

 輸送トラックの中には事前情報にあったオートマタ以外にもう一体、オートマタが載せられていたのだ。しかも他のとは違うタイプ、女性型のオートマタだった。

 軍事用のものは武骨な感じだったが、女性型は女特有の柔らかいラインを持ち、顔はセクサロイドと同じように、近くで見ても人間と区別がつかないほど精巧にできていた。

 ちなみにセクサロイドは、セックスができるように開発された簡易型のオートマタだ。下手な女を相手にするよりはよほど気持ちよくなれる。オレは使ったことがないが男性型もある。

 しかしこいつがセクサロイドでないことは素人のオレでも分かった。高級な工芸品的な趣を持っている。特注カスタム品だ。

 お宝だ!と安易に浮かれるほどバカじゃない。戦闘用オートマタのヤバさはドラッグなんか目じゃない。劇ヤバだ。あの熟女の背後にはろくでもない組織があるに違いない。

 しかしタダで渡すのも惜しいので一計を案じた。そんな大したもんじゃない。ただ、リストに載っていなかったもののことを報告しなかっただけだ。女が指摘すればすぐに渡すつもりだった。

 しかし女は何も言わなかった。

「やったぜ!あのオートマタはオレたちのもんだ」

 帰りの車の中で歓声を上げた。あんな高級オートマタが手に入るなんて超ラッキーだ。テンションアゲアゲだぜ。グラッツェ!

「グイド。起動できなかったら飯抜きだからな」

「任せてくれよ。下調べは十分だ。絶対に起動させてやる」

「よし、任せた」

「いやでもよ」

 なんだよルイージ。盛り上がっている時に辛気臭い声を出すな。

「帰ったらまた傘木さんが待ってるなんてことはないかな?」

 止めてくれ。超テンション下がるぜ。


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