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ギガンティック・マシン -Outer Edge-  作者: 靖ゆき
2章 世界の中心でAIを叫んだ羊
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2

 残念ながらゆっくりと眠ることはできなかった。起こしに来たグイドの眼鏡をかけた顔は、珍しく切羽詰っていたので、気合いを入れて目を覚ます。

 オレたちは元イタリア料理店を根城にしていた。ピザ窯もあるちゃんとした店だ。ただし何年も火を入れていないし、エンドラが無くなってからは使い方を知っている奴もいない。

 オレはレストラン時代に事務所だった場所を個室として使っている。グイドに促されてフロアに移動すると、カウンターに置かれたパソコンの画面を見る。ジェラルドに連れられてルイージも目をさすりながら起きてきた。ジェラルドはオレたちの中でもっとも巨漢で太っている。いつも何か食ってる。こいつが腹を減らさないように食料を与え続けるのは、オレの中でかなり大きなミッションになってる。ファミリーに腹を減らしている奴がいたらダメだ。ジェラルドは食うだけじゃなくて、画がうまい。普段は温厚な性格だが、怒ると怖い。

 ティノがコップに水を入れて持ってきてくれた。

「グラッツェ」

 お礼を言うと、はにかみながら笑ってくれる。ティノは五歳ぐらいの男の子だ。数ヶ月ほど前の朝、入口でうずくまっていたので一緒に暮らすことにした。親がどこにいるのかなんて分からない。ここも、オレたちの故郷も、そんな子供たちでいっぱいだ。

 ちなみに、さっきからオレが呼んでいる名前は、全部オレが付けた名前だ。オレのマリオだけが本当の名前。後はオレのファミリーになった証に、オレがイタリアっぽい名前を付けてやった。皆喜んで受け入れてくれたが、ルイージだけはいまだに嫌な顔を見せる。

「ここを見てくれ」

 グイドはキーボードを叩きながら、画面を指さす。グイドはコンピューター関係の扱いに長けている。これだけの腕があるなら普通の仕事もできると思うのだが、ここに居ついている。だから一緒にいる。

「分からねーよ」

 ルイージが後ろから文句を言う。専門外のことを分かろうとしないのはルイージの悪いところだ。もちろんオレも、専門的なことを並べられたらちんぷんかんぷんだが、今はグイドの言いたいことが分かった。

「まじか?」

「この情報が確かならな」グイドは頷く。「信じたくはないが、輸送されるのは今夜だ」

 後十二時間もないじゃないか!



 夜中の倉庫街、建物に明かりはなく、人通りも全くない。なんでこんな寂しい場所を輸送ルートに選んだのかと思うが、警察にも色々と都合があるのだろう。

 黒い大型のトラックが走ってくるのが見えた。情報通り一台だけで護衛はいない。

「見えたぞ。全員準備は良いか?」

 オーケーコールが皆から返ってくる。

「行くぜ!パーティーだ」

 合図と共に、警察のトラックの目の前に人影が現れた。ブレーキを踏んでも間に合わないタイミングだが、自動ブレーキ機能が働いてトラックは急停車する。バンパーが人影に接触したが問題はない。画を書いた板が跳ね上がらせたのだ。

 警官たちがそれに気が付く前に、ドローンがトラックに近づき、フロントガラスに張り付いた。こちらからは見えないが、車の中からは、ドローンにつけられた爆弾らしきものと、カウントダウンするデジタル時計が見えるはずだ。

 トラックの運転席から警官たちが飛び出してくるのを狙撃する。当てる必要はない。突然の攻撃を受けた警官たちは全速力で逃げていく。

「あいつらが戻って来ないか、見ておけよ」

 指示をしてからルイージと二人でトラックの荷台に近づいていく。警官たちが戻って来ないのを確認して拳銃を脇下のホルダーに戻す。逆の手に持っていた手斧で荷台の鍵を叩き壊した。

 中に護衛の警官がいる可能性があるので、用心しながらルイージとドアを開く。

 警官が飛び出してきたりはしなかった。

 暗い荷台を覗き込む。奥に箱が積まれているのが分かる。そして、その手前に何かがいた。

 赤い光が(とも)る。

 とっさにルイージを突き飛ばした。頭上の空気を何かが切り裂く。荷台の中に向けて何発かぶち込んで、急いでその場から離れた。

 そいつは荷台から身を乗り出してきた。全身が甲冑で覆われた様な人型。しかし人間にしては手足が細く、長い。ヘルメット上の頭部の真ん中には二つ、赤く光る点があった。左手には日本刀を持っている。

「なんだよありゃ」

自立型人型機械(オートマタ)だ」

「そんなのがいるなんて聞いてねーぞ」

「オレだって聞いてねえよ」

 怒鳴りながら銃を撃つ。命中するが、小口径ではオートマタにはダメージを与えられない。

『待ってろ兄貴。今助ける』

「来るな!離れた場所から銃で援護しろ」

 インカムに怒鳴り返しながら、オートマタから距離を取る。オートマタの装甲が小さな火花を上げるがやはりダメージにはならない。うちはこいつにダメージを与えられるような重火器(でかいの)は持っていない。

 そうなると……、こいつぐらいしかないか。

 左手に持つ手斧に目を向ける。

 幸い奴は銃を持っていないので近づくことはできるだろう。しかし、リーチの長い日本刀相手にやり合うことができるのか?

 トラックから離れないようにプログラムされているのか、オートマタは追ってこようとはしない。しかし時間をかければ、警察の応援部隊が来るだろう。

「全く。どこまでが傘木さんの計画なんだ」

 覚悟を決めて銃をホルダーに戻し、手斧を構えると、物陰からゆっくりと歩み出た。

 オートマタの眼がオレを捉える。ぞっとするねえ。

「うわああああ」

 手斧を振り上げながら突進する。オートマタは日本刀を中断に構えて待ち構えている。

 こいつ左利きかよ。

 その時になったようやく気が付いた。左利き相手にはどう振り下ろすのが良いのか?その躊躇いが足を鈍らせたが、それが良い方に転んだ。もう一歩踏み込んでいたら、日本刀がオレの腹を真っ二つにしていただろう。

 トラックが急発進した。誰が乗っているのか?どうでも良い。トラックに気を取られているオートマタに手斧を振り下ろす。しかし、きっちり反撃された。手斧の柄がぶった切られる。

 地面に転がったオレに止めを刺すべく、日本刀を振り上げる。畜生、ここで終わりかよ!

 諦めかけたところで、猛スピードでバックしてきたトラックがオートマタを引いた。さすがの機械人形も吹っ飛んでいく。

「マリオ、乗れ」

 運転席から顔を出したルイージが怒鳴ってくる。急いで荷台に転がり込む。

「行け」

 合図をしてからオートマタが飛んで行った方を見ると、何かがきらりと光った。次の瞬間には車体が大きく揺れ、横転した。荷台の中で荷物と一緒にゴロゴロと転がる。

 衝撃が収まると、痛みをこらえながら外に出た。頭から流れてきた血をぺろりと舐める。トラックを見ると、後輪に日本刀が刺さっている。とんでもない奴だ。そのとんでもない奴がきしみ音を立てながら近づいてくる。足取りはぎこちないが、まだ闘う気はなくしていないようだ。ただし、武器を持っていない。

 オレは日本刀を引き抜いて構えた。

「うおおおおお」

 走っていって薙ぎ払う、つもりだったが、刀身を手でがっちりと掴まれてしまった。必死で揺さぶるがちっとも動かない。逆にオートマタが手を上げると、刀を掴んでいるオレが宙に浮いてしまう。

さすが機械だこの野郎。絶対絶命じゃないか!

『マリオ、絶対に離すなよ』

インカムに声が飛び込んできた。同時に、オートマタの後ろにドローンが見えた。最初、脅しに使ったドローンは、警官がさっさと逃げ出したために爆発させなかったのだ。

ドローンがオートマタの背中に張り付く。それと同時にオレは刀から手を離した。

爆風に吹き飛ばされて地面を転がる。呻きながら顔を上げると、上半身を失ったオートマタの下半身が崩れ落ちるところだった。

『マリオ、無事か?』

「大丈夫だ、ファブローニ。グラッツェ」

 ファブローニはメカニックに強いファミリーだ。今回は時間がないのに、車の前に突然現れる人影看板や、ドローンを作ってくれた。

オートマタの背中にドローンを張り付けるなんて、操縦の腕も大したもんだ。

「皆にさっさとブツを車に詰め込むよう伝えてくれ。そろそろ警察の応援が来るはずだ」

『了解』

 作戦が成功したからか、インカムから聞こえてくる声は弾んでいる。思わずオレもにやりと笑う。しかし、身体中がいてえ。


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